第5話 まろタウン到着である
魔王城を維持するにも金は必要でな。手っ取り早いのは、人間共を襲うことだろう。だがな、それは所詮一時のもの。まあ、征服を目的とするならば、正道であろうがな。
一応我輩は、人間共と争わないで済む世界を夢見ておる。當に夢物語であるし、積極的にそのような行動は取ってはおらぬが。
殺めたくなくとも、場合によっては殺めてしまうこともあるしな。
なので我輩の場合、長期的に収入を確保できる方法を模索したのだ。そのうちの一つがまろタウンである。
これが中々に困難を極めての、一歩一歩、コツコツと努力を積み重ねて
まろタウンの沿革については、そうじゃな、おいおい話すとしようか。
てくてく…
ほれ、話しているうちに、バス停へと続く魔法陣に着いたぞ。ここからバス停の近くに移動することが可能だ。
ポワン…
◆
実はこのバスも、まろタウン計画の一環である。折角のまろタウンも、人間共が来なくては意味がない。往来のしやすい環境を整備してやったのだ。
ブロロロ…
お、来たようだ。無料送迎バス定期便。一時間に一本走っている。
ガチャ…
「お願いしまーす」
こ、こほん。…どうじゃ?
ナチュラルな演技であろう?
このように無邪気を演じるのだ。
車内はまずまずの混雑のようだ。空いている席が少ない。よし、窓際に座ろう。
「お嬢ちゃん、一人で来たの?」
むむっ、早速老婆に声を掛けられたぞ。やはりこの姿は良い。
「うん!働いてるお姉ちゃんに会いに行くの!」
「あらそうなの、おりこうさんだね~」
ふっ、警戒心ユルユルではないか。お姉ちゃんというのは嘘である。嘘ではあるが、まろタウンにはお姉ちゃん設定の部下がおるからな、あながち嘘ではないのだ。故に罪悪感も少ない。
ブロロロ…
この辺りはな、街道の整備こそされているが、村が二つあるだけで、寂れておる。理由は至ってシンプル、野生の魔物が現れおるからである。
「お嬢ちゃん、ほら、アメちゃんお食べ」
「おばあちゃん、ありがとう!おいひい!」
野生の魔物の発生に関しては、我輩は関与していない。この世の理なのだ。ちなみに魔物は我輩の部下、いわゆる魔族にも襲い掛かって来おる。見境なしではあるが、個体は基本的には弱々だ。
最下層の冒険者共でも、束になれば倒すことは容易であろう。だがやはり、戦いに身を置かない人間共にとっては脅威なのだ。
ブロロロ…
見よ、あれがまろタウンである。
◆
ガチャ…
老婆に飴玉を献上されたせいで、余計に腹が減ったな。先ずは腹ごしらえからとするか。
まろタウンは名称に"タウン"と付いてはいるが、居住区は無い。計画段階でそういった話が無かったわけではないのだが、管理面の観点から止め、ここに住むものは管理班の者達だけである。
大きく商業区域、娯楽区域に分かれておるのだが、その広さはディバ・ラストリーを凌ぐ。
ディバ・ラストリー自体そこまで大きな建物でも無いんだがな。少しずつ拡張し、この広さとなった。尚、遊具を敷き詰めた"巨大遊具地"の建設をを承認したばかりであるから、更に拡がる予定である。
では行こうか。このままでは腹と背がくっついてしまうわ。
ガヤガヤ…
◆
よし、今日はこの店にするかの。"らぁめん楽園"か…。我輩はまろタウンが出来て以降、様々な物を食うてきた。お気に入りの一つが、らぁめんと言う食べ物である。
ガラッ…
「ぇらっしゃい!」
うむ、活気のある良い出迎えだ。
我輩の食事のこだわりなのだが、先ず、色々なお店に入る事。そして、メニューの先頭の物を頼む事。
この行動原理を基本としておる。しておるのだが、あそこに記されている、"超大盛!らぁめん楽園スペシャル"が気になりおる。
今の我輩の空腹度、お気に入りのらぁめん。しかも"三十分で食べきったら無料!"の文言が我輩を惹きつけて止まぬのだ。
むむむ…
挑戦する事にしよう。腹も減っておるし大丈夫であろう。
「おいちゃん、らぁめん楽園スペシャルください!」
むっ、急に辺りが静まりおった。と思ったらザワつき始めたぞ。
「嬢ちゃん、そんなに小せえ体で挑戦しようってのか?やるからには容赦しねえぜ?」
むぅ、こやつ見た目で判断するつもりか?
「うん!ください!」
「よっしゃ!」
ガヤガヤ…
なるほど、ギャラリーにとって、我輩は勇者なのであろう。
ふっふっふっ、我輩が勇者か。挑む者。久しくそんな気持ち忘れておったわ。
◆
「へいお待ち!らぁめん楽園スペシャル!」
な、なんなのだこれは…
器が通常の十倍はあるでは無いか。
想像をゆうに凌駕しておるぞ、これは…
「お嬢ちゃん、早く食べ始めないと!」
親切なギャラリーよ、わかっておるわ。
はじめの一歩を踏み出さぬ限り、達成も有り得ぬ事よ!
ズバババ… チュルチュル…
ズバババ… チュルチュル…
うむ、美味い。薄味のしょうゆベースで食べやすい。これはいけるかも知れぬな。
ズバババ… チュルチュル…
減らぬ、減らぬぞ。どういう事だ?
まさか店主よ、不正をしておるのではあるまいな。
ズバ… チュル…
減らぬ、減らぬ。
食うても食うても変わらぬ。
このままではまずいぞ…
…いや、これは…
そうか、麺がスープを吸うておるのだ。確実に全体的に少なくなって来ておる。
ふはははは、そういう
◆
チュルッ…
「おおおおおおおおお!」
喝采…とはまさに…この事…よ…
「お嬢ちゃん、凄いよ!」
「そんな小さな体でこれだけの量を!」
「感動をありがとう!」
良い、良いぞ。ギャラリーの想いに応えられた事は、我輩の目的の添え物ではあるが、悪くはない。
「嬢ちゃん、おめぇ根性あるじゃねえか」
店主よ…
我輩もお主を認めようぞ。
「制限時間15分オーバーでい。9,800円となりやす」
ぐ…我輩敗れたり…
ジリ貧魔王奇譚 〜部下の裏切りによって超老化の呪いに掛かったが、誰にもバレないように若返りスキルで威信を保つ~ 嗚呼、 @rejuvenescence
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