第5話 まろタウン到着である

 魔王城を維持するにも金は必要でな。手っ取り早いのは、人間共を襲うことだろう。だがな、それは所詮一時のもの。まあ、征服を目的とするならば、正道であろうがな。


 一応我輩は、人間共と争わないで済む世界を夢見ておる。當に夢物語であるし、積極的にそのような行動は取ってはおらぬが。

 殺めたくなくとも、場合によっては殺めてしまうこともあるしな。


 なので我輩の場合、長期的に収入を確保できる方法を模索したのだ。そのうちの一つがまろタウンである。


 これが中々に困難を極めての、一歩一歩、コツコツと努力を積み重ねて今日こんにちのまろタウンがあるのだ。


 まろタウンの沿革については、そうじゃな、おいおい話すとしようか。


 てくてく…


 ほれ、話しているうちに、バス停へと続く魔法陣に着いたぞ。ここからバス停の近くに移動することが可能だ。


 ポワン…





 実はこのバスも、まろタウン計画の一環である。折角のまろタウンも、人間共が来なくては意味がない。往来のしやすい環境を整備してやったのだ。


 ブロロロ…


 お、来たようだ。無料送迎バス定期便。一時間に一本走っている。


 ガチャ…


「お願いしまーす」


 こ、こほん。…どうじゃ?

 ナチュラルな演技であろう?

 このように無邪気を演じるのだ。


 車内はまずまずの混雑のようだ。空いている席が少ない。よし、窓際に座ろう。


「お嬢ちゃん、一人で来たの?」


 むむっ、早速老婆に声を掛けられたぞ。やはりこの姿は良い。


「うん!働いてるお姉ちゃんに会いに行くの!」


「あらそうなの、おりこうさんだね~」


 ふっ、警戒心ユルユルではないか。お姉ちゃんというのは嘘である。嘘ではあるが、まろタウンにはお姉ちゃん設定の部下がおるからな、あながち嘘ではないのだ。故に罪悪感も少ない。


 ブロロロ…


 この辺りはな、街道の整備こそされているが、村が二つあるだけで、寂れておる。理由は至ってシンプル、野生の魔物が現れおるからである。


「お嬢ちゃん、ほら、アメちゃんお食べ」


「おばあちゃん、ありがとう!おいひい!」


 野生の魔物の発生に関しては、我輩は関与していない。この世の理なのだ。ちなみに魔物は我輩の部下、いわゆる魔族にも襲い掛かって来おる。見境なしではあるが、個体は基本的には弱々だ。


 最下層の冒険者共でも、束になれば倒すことは容易であろう。だがやはり、戦いに身を置かない人間共にとっては脅威なのだ。


 ブロロロ…


 見よ、あれがまろタウンである。





 ガチャ…


 老婆に飴玉を献上されたせいで、余計に腹が減ったな。先ずは腹ごしらえからとするか。


 まろタウンは名称に"タウン"と付いてはいるが、居住区は無い。計画段階でそういった話が無かったわけではないのだが、管理面の観点から止め、ここに住むものは管理班の者達だけである。


 大きく商業区域、娯楽区域に分かれておるのだが、その広さはディバ・ラストリーを凌ぐ。


 ディバ・ラストリー自体そこまで大きな建物でも無いんだがな。少しずつ拡張し、この広さとなった。尚、遊具を敷き詰めた"巨大遊具地"の建設をを承認したばかりであるから、更に拡がる予定である。


 では行こうか。このままでは腹と背がくっついてしまうわ。


 ガヤガヤ…





 よし、今日はこの店にするかの。"らぁめん楽園"か…。我輩はまろタウンが出来て以降、様々な物を食うてきた。お気に入りの一つが、らぁめんと言う食べ物である。


 ガラッ…


「ぇらっしゃい!」


 うむ、活気のある良い出迎えだ。


 我輩の食事のこだわりなのだが、先ず、色々なお店に入る事。そして、メニューの先頭の物を頼む事。


 この行動原理を基本としておる。しておるのだが、あそこに記されている、"超大盛!らぁめん楽園スペシャル"が気になりおる。


 今の我輩の空腹度、お気に入りのらぁめん。しかも"三十分で食べきったら無料!"の文言が我輩を惹きつけて止まぬのだ。


 むむむ…


 挑戦する事にしよう。腹も減っておるし大丈夫であろう。


「おいちゃん、らぁめん楽園スペシャルください!」


 むっ、急に辺りが静まりおった。と思ったらザワつき始めたぞ。


「嬢ちゃん、そんなに小せえ体で挑戦しようってのか?やるからには容赦しねえぜ?」


 むぅ、こやつ見た目で判断するつもりか?


「うん!ください!」


「よっしゃ!」


 ガヤガヤ…


 なるほど、ギャラリーにとって、我輩は勇者なのであろう。

 ふっふっふっ、我輩が勇者か。挑む者。久しくそんな気持ち忘れておったわ。





「へいお待ち!らぁめん楽園スペシャル!」


 な、なんなのだこれは…

 器が通常の十倍はあるでは無いか。

 想像をゆうに凌駕しておるぞ、これは…


「お嬢ちゃん、早く食べ始めないと!」


 親切なギャラリーよ、わかっておるわ。

 はじめの一歩を踏み出さぬ限り、達成も有り得ぬ事よ!


 ズバババ… チュルチュル…

 ズバババ… チュルチュル…


 うむ、美味い。薄味のしょうゆベースで食べやすい。これはいけるかも知れぬな。


 ズバババ… チュルチュル…


 減らぬ、減らぬぞ。どういう事だ?

 まさか店主よ、不正をしておるのではあるまいな。


 ズバ… チュル…


 減らぬ、減らぬ。

 食うても食うても変わらぬ。

 このままではまずいぞ…


 …いや、これは…


 そうか、麺がスープを吸うておるのだ。確実に全体的に少なくなって来ておる。


 ふはははは、そういう絡繰からくりであったか。店主よ、我輩に疑心を持たせおって。中々にやりおるな。





 チュルッ…


「おおおおおおおおお!」


 喝采…とはまさに…この事…よ…


「お嬢ちゃん、凄いよ!」

「そんな小さな体でこれだけの量を!」

「感動をありがとう!」


 良い、良いぞ。ギャラリーの想いに応えられた事は、我輩の目的の添え物ではあるが、悪くはない。


「嬢ちゃん、おめぇ根性あるじゃねえか」


 店主よ…

 我輩もお主を認めようぞ。


「制限時間15分オーバーでい。9,800円となりやす」


 ぐ…我輩敗れたり…

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ジリ貧魔王奇譚 〜部下の裏切りによって超老化の呪いに掛かったが、誰にもバレないように若返りスキルで威信を保つ~ 嗚呼、 @rejuvenescence

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