第4話 ダルマは動き難いのである
ちょうど玉座の真下にあたる、この太い柱。これが悠久柱である。ディバ・ラストリーの根幹で、頑丈さは我輩でも骨を折るレベルである。直径50m程有り、素材は魔界のダイヤモンド。カット加工により、見た目にも美しいであろう。
これに傷を付けおるとは、冒険者共も侮れん。
しかし、先程から確認しているが、何処に傷があるというのか。
「セラステよ、おるか」
「へいっ、ここに」
「傷の場所に案内せい」
「へいっ、ここでございやす」
おお、確かに傷がついておる。しかし、僅か1cmにも満たぬではないか。
さすがセラステよ。ここまで細かな傷さえ見逃さぬとはな。やはり頼りになる奴よ。
「うむ。この程度であれば、一日あれば修復可能であろう。直ちに取り掛かるが良い」
ドーーーーン…
むむ、何事だ。
「セラステよ、見て参れ」
「へいっ」
◆
また門番がやられたか。万が一にも、こんなところで冒険者共に会うわけにはいかぬ。
魔王は玉座にて、座して待つべし。
これだけは譲れぬものよ。
「(メイサキアよ、襲来か?)」
「(まろんび様。恐るべきご慧眼、悠久なり)」
あんなに大きな爆発音がしたら、想像は容易であろうに。よし、セラステが敗れてしまったら、出て行かねばならぬからな。今のうちに変身しておくか。そうだな、セラステに似せておくとするか。
ポワンッ…
◆
ドーーーン…
〜セラステが吹き飛んできた。そのまま悠久柱に激しく打ち付けられ、意識を失ってしまった〜
むう、相変わらず貧弱ではないか、セラステよ。
タッタッタッ…
「おい、こっちにも雑魚モンスターがいるぞ」
「へんっ、なんだ?さっきのやつの兄貴か?」
「やってしまいましょう」
「皆さん、油断はなりませんわよっ」
ぐぬぬ、我輩を愚弄しおって。確かに今はダルマに変身しておるが、お前らなぞ本来であれば、雲一つない青天を眺めながら上機嫌で歩いておったら、足下を歩いていた蟻んこを過って殺生し、殺生してしまった事すら気付かないかの如く、意識せずとも捻り潰せるのだぞ。
冒険者Aは槍を前に抱え、そのまま突進してきた。ダルマは大きく跳ね、それを躱す。
冒険者Bは火の玉の魔法を放ってきた。ダルマは口を大きく開け、それを飲み込んだ。
「やりますわね、ではこれならどうですか? モレーダ! 今ですわよっ!」
モレーダは、広範囲に霧を発生させた。
冒険者Cは、それに合わせナイフを複数投擲した。
グサグサッ…
ダルマは躱すことが出来ず、三本のナイフを体に受けてしまった。
ぐおっ、思うように体が動かぬ。ちと舐めすぎたか。まさかこのような奴らに手傷を負わされようとは、夢にも思わなんだ。
「よしっ、このまま仕上げだ!」
図に乗りおってからに…。
しかし"飛び散れい"は使うわけにはいかぬ。あれは"魔王"足る魔法。絶対的余裕、即ち"威厳"だからの。
「ブラッチョダ!後ろ宜しく!」
冒険者Bは炎を放射状に放った。
冒険者Cは炎に隠れ、横からナイフを投擲した。
ダルマは躱すことが出来ず、更に二本のナイフを受けてしまった。
ぐぬう、姑息な手を。こやつら嘘をつきおった。後ろから来るのではないのか!
これではまるで、文献"日本の歴史"で見た、海賊とやらが飛び出す玩具のようではないか。
我輩が心の中で思い出している間も、休みなく攻撃を仕掛けて来おる。
攻撃の手立てがない。
このままではジリ貧だ。
セラステよ、この体はなんと戦い難い体よ。お主の気持ちと脆弱さが、少し理解できたぞ。
「コロッピ、今だ!」
コロッピはナイフを十数本一気に投擲した。
はっ、そうだ、思い出したぞ。確か文献に遊戯があったな。
「はあっ」
…
ふっふっふっ、どうやら成功したようだ。動きが止まっておる。
カシャン、カシャン、カシャン…
浮いたナイフを止めること等容易い。
ふっ、その怯えた面よ。今まで感じた事などないのであろう?体が動かぬというのは怖かろう?
◆
「(メイサキアよ、メディチアをここへ。もし冒険者共が2階へ上がった場合はフォローせよ。あと恐らく門番が負傷した。直ぐに救護班を寄越せ)」
「(かしこまりました。直ちに)」
冒険者共よ、しばしの恐怖を味わうが良いぞ。
ピョン…ピョン…
メディチアが来る前に、冒険者共の目の届かぬところに移動しなくてはな。
しかし、なんとも歩きにくい。いや、正確には歩いてはいないのだが、冒険者が飛ぶまでは変身を解くわけにはいかぬ。
セラステはいつもこのようにしておるが、見るとやるとでは全然違うものよの。
ピョン…ピョン…
「まろんび様、四天王が一人メディチアがご挨拶致します」
「うむ、面を上げい。すぐそこに冒険者共が四人おる。そやつらを飛ばしセラステを救護室へ運べ」
「かしこまりました。抜かりなく」
◆
ポワンッ…
ふう、なんとか事なきを得たか。少し血が出てるが、これくらいであれば自然治癒で問題なかろう。
我輩は魔王であるが故、回復系の魔法は使わぬのである。これもポリシーだ。使おうと思えば、恐らく使えるであろうが。
てくてく…
さて、ディバ・ラストリーの1階だがな、雇っている魔族を常時20体程配置しておる。照明も少し落とし、迷路のように入り組んでおるのだ。しかも、月に一回自動的にリニューアルされる仕組みとなっておる。
冒険者共に諦めて帰ってもらうためなのだが、我輩方向音痴なところがあっての、よく迷うのだ。しかし、これも興というもの。楽しんでおるよ。
てくてく…
ふぅ、ようやく出口が見えて来おったわ。うむ、救護班も既に対処しておるな。門番も豪快にやられておるわ。まあこやつらは死ぬことはあるまい。
「まろんび様、防衛部門救護班長、クーセンポ・チェリカがご挨拶致します」
クーセンポは魔界から雇った上級魔族で、昨年終身雇用となった、とても優秀な奴である。サキュバスということで、人気も高い。クーセンポ目当てで、わざと怪我をする輩もおる
という噂もある程である。
「うむ、面を上げい。治療を続けよ」
「はっ、まろんび様の即断、悠久なり」
◆
陽が頂きに達しようとしておる。じき正午になるか。迷路を抜けるのに、ニ時間程要してしまったようだ。今日は結構長かったの。
さて、では"まろタウン"の視察へと向かうとするか。
ポワンッ…
我輩、ディバ・ラストリー外では、人間の若い女型の姿に変身をしておる。これにはちゃんと理由があるのだ。
先ず第一に、若い女型の姿をしておれば、周りの人間共は警戒がゆるくなる。無邪気なフリをして、情報収集等も行っているのだ。
そして、これはついでなんだが、秘術『若返り』に役立つお店に入る時、男型では浮いてしまうのである。
実は昔は男型に変身をしておったのだが、やたらと変な目で見られてな。不思議に思った我輩は、数日お店の様子を観察したのだ。そうしたら、面白いように女型しか入らぬではないか。
それ以降、変身は女型と決めておるのだ。
では、向かいがてら"まろタウン"について説明しようではないか。
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