第3話 見事な階段である

「相わかった。三名を残し持ち場へと戻れ」


 ここからは、用件のある者と直接のやり取りが待っておる。長い時には、お昼まで掛かることもあるのだ。


「ミルミルよ、仔細を述べよ」


「はっ、人間の国"オルガルノン王国"が、異世界より召喚の儀式を始めて以降、王国は活気付き、一般冒険者達もその勢いは気鋭。城内に配置している最低級魔族では、復活が不可能なレベルまで損壊し、総数自体が減少しております。よって、位を一つ上げた低級魔族を、三交体制及び予備として、40体の採用を考えております」


 こやつは人事関連を任せておる"ミルミル"だ。女型で、人間に酷似した姿で生み出した。考え方は我輩に近く、人間だからといって皆殺しにしてやろう等という考えは無いのだ。


「ふむ。致し方のない事だ。日当は据え置きとし、進めい。但し、不殺出来高額の上限を現在の500円から、1,000円に引き上げよ」


 最低級も低級も、賃金は同一で構わんだろう。ただ、それでは余りにも不憫だ。低級にもプライドという物があるだろうからな。殺さず追っ払ってくれるのであれば、500円も痛くは無い。


「かしこまりました。まろんび様の寛大なる御心、悠久なり」


「次、カミエレンよ、ここに企画書を」


「はっ、こちらにございまする」


〜メイサキアは企画書を受け取り、魔王へと渡す〜


 こやつは企画関連を任せておる"カミエレン"だ。男型で、ミルミル同様に人間の姿をしておる。なよなよした見かけによらず、残忍な考えを持っていて、我輩からしたら、ちと困ったさんである。


 この企画書の"遠距離狙撃砲"。こんな物を食ろうたら、人間など木っ端微塵であろう。上手いこと言い訳を考えねば。


「ふむ。凄まじい威力が想像できおる。だがこれは却下だ。街道等を損壊させる恐れがある。そうなれば"まろタウン"はじめ、様々な方面に支障をきたすであろう」


「かしこまりました。まろんび様の深き思慮、悠久なり」


「次、セラステよ、ここに資料を」


「へい、こちらにありやす」


〜メイサキアは資料を受け取り、魔王へと渡す〜


 こやつは営繕関連を任せておる"セラステ"だ。我輩が文献"日本の歴史"という物から着想を得て生み出したのだ。達磨といって、丸っこいシルエットで柔らかみを感じさせる。ちと考えるのが苦手だったり、言葉遣いが雑だったりするが、我輩に似て、心優しい性格の持ち主である。


「ほう、魔王城の核となる、"悠久柱"に擦り傷を付けられたとな。此度の冒険者共は少し格が上よの」


「へい、あれを傷つける奴がいるとは、おどれーたでありやす」


「良し、直接この眼で見てみたい。それまで手を付けぬようにしておけ」


「へい、まろんび様の…、もごもご…悠久なり」


 こやつはいつも誤魔化しよる。


「ではここまでとする。解散」





 よし、朝の儀の一連が終わった。今日も早く終わって何よりである。


 ここからは自由時間であり、アクティブな我輩はこの場に留まることはない。


「メイサキアよ、我輩は悠久柱の確認をした後、視察へ向かう。何かあれば、すぐに知らせよ」


「かしこまりました。まろんび様の歩み、悠久なり」


 これで良しだ。いつも通り、魔王城はメイサキアに一任も済んだし、先ずはセラステの下へ行くか。


〜魔王は謁見の間を後にし、広く大きな階段を悠久の歩みでくだった〜


 謁見の間の、巨大な玉座やインテリア、ステンドグラスも中々に見事で気に入っておるのだが、我輩は何よりこの階段が好きでな。幅30m、高さ50m、真っ赤な絨毯に絢爛豪華なシャンデリア。言葉で形容するのが難しい、當に見事なり。


 可能であれば、この階段の上で冒険者共を迎えたいものだ。


「よくぞここまで辿り着いた。称賛に値しよう。全力でかかって参れ」


 などここで言ってみたいものよ。さぞ映えるであろう。だがしかし、我輩は魔王なり。魔王は玉座にて、座して待つべし。我輩の好みだけで、この由緒は曲げられん。


 魔王城"ディバ・ラストリー"は、大きくは3階建ての構造になっておる。


 3階には謁見の間、我輩の部屋、メイサキアの部屋のみとなっておる。


 そしてこの階段を降った2階部分。ここは主に生活居住区となっておる。作りは複雑で、1.5階や2.5階といった表現が正しいのであろうか、ここは入り組んでおる。その他、各部門の部屋、キッチン、娯楽部屋など様々取り揃えておる。


 冒険者共が、生活居住区に足を踏み入れることは、まずない。それは、この見事な階段を降ったすぐ先に、1階へと続く階段があるからである。


 一応、カムフラージュの魔法は掛けてあるが、冒険者目線で考えたら、どう考えても魔王はこの階段を上った先だ。誰が見てもそう思える。それ程までに立派な階段なのだ。


 名前がないから、今度考えてみよう。





 では、この左右にあるアーチ状の階段を降りようか。いよいよ1階である。


「まろんび様、四天王が一人、メディチアがご挨拶致します」


「うむ、面を上げい」


 ここは中ボスエリアになっておる。四天王が週替りで鎮座しておる。ちなみに、四天王の公休日には、格が少し落ちるが"三羽烏さんばがらす"という奴らが3体で代わりを務めておる。


「昨夜の冒険者は飛ばしたか」


「はっ、抜かりなく」


「うむ、ご苦労であった」


 メディチアについては簡単に説明しておったな。鳥の姿をしており、見た目が格好良い。


「有り難きお言葉。まろんび様のご厚情、悠久なり」


 では悠久柱へ向かうとするか。

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