春を告げる
久茂張 彪
春を告げる
告白。
白を告げると書き、告白。
心の中に思っていたことや秘密にしていたことなどを隠さないでありのまま告げること。
この世界には「好き」という言葉に限りがある。一生に1度だけ。
最初からそうだったのか、いつからかそうなってしまったのかは定かではない。
ただひとつ言えるのはそれが事実であるということ。
そのタイミングについては諸説あるが、胎児の記憶を持つ者の語りが信憑性が高いと言われている。
「人は産まれる前に自分の産まれてからの記憶を見た上で、そのタイミングを自分で決める。そして全ての記憶を忘れて産まれてくる。」
この世界ではその1度のチャンスを
「本告」
と呼んでいる。
高校生の
既に本告をしてしまっている。
相手は中学三年生の時の若い体育教師だ。
もちろん中学生の彼の願いは叶わなかった。
本告がなくとも、特に困ることはない。
"愛してる"や"気になる"など好意を伝える言葉は数多くある。
彼には恋愛こそないものの、彼の周りにも流行りの言葉がある。
『♡き』
特にプリクラやメールなどで若者の間で多く使われている。
高校3年生の夏。彼もこの文字を初めて書いた。プリクラの隣に写っているのは同級生の
長澤うらら《ながさわ うらら》。
1、2年では顔は知ってるくらいの仲だったが、春のクラス替えで同じクラスになった。
少しずつ話していくうちに彼女の明るさに惹かれていき、向日葵が輝かしく照らされる頃、2人は恋人になった。
最後の体育祭では、男女の温度差の違いで怒られた。
夏祭りに行き、2人で花火を見た。
進路が決まらず、2人で不安をぶつけあった。
クリスマスにはサンタになった。
雪が溶けると、春が顔を出してくる。
別れの春が。
卒業式のあと。
2人はお互いに言えなかったことを確かめた。
彼女の本告は小学校の時らしい。
あれから10年がたった。
桜はいつでも満開に咲き誇り、そして散っていく。
もう同じ花は咲かない。それでも、春になると桃色に空が染まる。
あの時の彼らも同じふうに考えられたら違う今があったのか。
高校を卒業したあと、2人は別れた。
告げたのは彼だった。
東京に行く彼女と地元に残る彼。それを理由にした。でも言わずとも本当の理由は伝わったいたと思う。彼女も同じ
ただ一つ確かなのは、特別な時間に対する特別な言葉はあの瞬間にこそ大切だったのだ。
桜の木の下で彼は思う。
散る花びらひとつひとつに名前があったなら
それを『青春』と名付けよう。
青春とは人と人との間で生まれる記憶であり、1人で思い出すそれを人は思い出という。
木が残る限り花は咲き誇り、そして散る。
10年間木に残し続けた思い出を今語り明かそう。苗字の変わってしまった君と共に。
僕は君に『春を告げる』
春を告げる 久茂張 彪 @nuageharison
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