甘いバレンタインと苦い人生 ──チョコも人生も甘くはないって本当ですか?
アールケイ
甘くて苦いチョコレート
両親が事故で死んだときオレは生まれてくる価値がなかったと悟った。
なんでオレなんだろう、それが人生に行き詰まったときのオレが思った事だ。
どうして生まれてくるのが何も出来ないオレだったんだろう。親の期待に応えられなかったし、他人とおなじ行動が取れなかった。はやく死にたいけどオレという存在が消えてしまうのは怖いと思う。そんなオレの心にはいつも埋まらない真っ黒な穴が空いている。その穴を埋めるのは無理かもしれないが、普通に暮らしたい。それを隠しながら、一生演じて生きていこうと決めた。
♡♡♡
「お兄ちゃん大好き
はにかみながら抱きついてくるかわいい妹の頭を撫でながら、ずっとこのままこいつと生きていきたいなあと思う。
「よしよし、オレも有栖のこと愛して──」
「ピピピピピ」
唐突な機械音で意識がだんだん覚醒しだす、……うるさくて音を止めたいが、どうすればいいかわかる程に意識は覚醒しておらず、ぼんやりしていると。
「うるっさあああい。アラームなってるよ。お兄、起きてるなら早く止めてよ!」
有栖が部屋に入ってくる。ぼんやりしているオレを横目に音を止め、こちらを少しだけ赤い目でにらんでくる。昨日夜遅くまで動画でも見ていたのだろうか
こんな朝っぱらからかわいい妹の機嫌を損なうのはよくないだろうと思って、
「ありがとな、朝からかわいいスレンダーな妹に会えて──」
「あ?」
「兄ちゃんしあぁぁぁぁぁ死ぬ死ぬ死ぬ」
即座に関節技を極められ意識が完全に覚醒する
「次おなじことを言ったら今のじゃ済まさないからね? あ、もう朝ご飯できるから早く来てね」
と、後ろに修羅が見えそうな笑顔で、台風のようにあっという間に来てあっとういまにさっていった。
そのまま凄みのある笑顔の妹に怯え朝ご飯を食べ、身支度をして妹より先に学校を出る。
「それじゃ、先に行ってくるぞ」
「はーい、いってらっしゃい」
何だかんだで、見送りまでしてくれて優しい。目が死ぬほど怖いことを覗けばだが。
そのまま寒い通学路を一人で寂しく登校していくと
「やあ、おはよう、
そういって、今日二人目の美少女が声をかけてきた。彼女はオレの幼馴染みの
めっさかわいい、好きだ。
「おう、琴葉、……どっかのだれかと違っておまえはかわいいな」
「もう、そんなこと言ったら有栖ちゃん泣いちゃうよ?」
共通する話題が有栖くらいしかないため、必然的にあいつの話をするしかないが、その話も続かずにまあまあ苦しい。
会話が途切れてきた頃、
「ねえねえ、真希くんって今日の放課後空いてるかな? 空いてたら、教室にきてほしいんだけど……」
若干顔を明らめつつ、上目遣いでこちらを見つめながら聞いてくる。
「別に帰宅するだけだからいいぞ」
即答する。かわいい子のお願いに
「うん、ありがとう。それじゃあ、待ってるね」
妙に真剣なトーンで言われたし、なにやらただならぬ話のようだ。
台風のようにあっという間にすぎていった。
そのまま上の空のまま授業をいつもよりなんかいも時計をチラチラ見たら、時間がたつのが異様に遅く感じた。
♥♥♥
そして放課後、なんやかんや琴葉の事だけを考えた一日だった。
今日は高校入試の準備期間かなんかで生徒は授業が終わり次第即時帰宅せよとかいう勧告を受けていたっけ。
オレは多くの生徒とすれ違い、琴葉のクラスに向かう。
面接の前のような緊張感を感じながら意を決して教室に入る。
2月といってもまだ冬に近いので日が沈むのははやい。
夕日に染まりつつある教室では琴葉が窓から他の生徒たちを眺めていた。
「あの、琴葉? 来たけど」
「ひゃうっま…真希くん? 早かったね」
オレが来た事に気づいてなかったのか、かわいい声を出した。
「まあ、かわいい子のお願いだから急いだぞ。それで、話って何だ?」
歯が浮きそうな顔をこらえながら、気障っぽい台詞を吐く。
「う、うん。話ね、えっと……」
考えないようにしていたが、このムードは完全にチョコをくれる感じだろ。
俺にもようやく春が来たか、青いやつが、おせーぞ神。
なんて思うことはない。実はチョコなら毎年貰ってるからだ。
だが今まで琴葉のこんな顔は見たことがない。まるで、告白寸前の乙女のような……。
そう思った瞬間、仄かな期待が浮かんできた。
ん? これ告白じゃね?
ちょおおおおおおおおい。何だよ神、急に本気出すんじゃねえよ。
今まで忘れ物したときとか恨んですいませんでしたああああ。
脳の回転が一気に加速する。
どうしようってこんなの受けるに決まってんだろ。まだ告白されてないけども。
2月14日のバレンタインデー当日。普段から女子の好感度を日頃稼いでいない俺からすれば、周りの陽キャどもがチョコをもらうだけの公開処刑DAYである。いや、だった。
「私、子供の頃から真希くんのことが好きです。わ、私と、付き合ってください!」
紅く染まった世界でもわかる程に、頬を紅潮させながら、懸命にオレの心を揺るがす音が響く。一瞬だけ、何故か妹の顔がよぎったが、オレは生唾を飲み込んでから、口を開いた。
「お、俺も好きだ」
かろうじて絞り出せたのはそれだけだった。
「ほっ本当っ!? え、えへへ、これで彼氏と彼女だねえ」
なんかいっそうめっちゃ鬼かわいく見えてきた。
目の前のかわいい彼女と見つめあいながら心の穴が満たされていく感触を味わった。
なんだろう、彼女になると今までより一層いろいろな意味で意識してしまう。
そのまま二人で帰宅する。
いつもの道が何だかキラキラして見える。あーこの幸福をだれかに分け与えたいな。
「あ、これもあげるね」
といそいそと手作りらしきチョコをくれた。
すぐに空けようとしたらものすごく慌てられたので、家に帰ってから味あわせていただこうと思う。
♡♡♡
帰宅路で別れて、家に到着。家にはいる前に閉まっとこう、すぐにでも開けたいが、有栖は俺が琴葉のチョコを食べるのを見ると良い顔をしないので、すぐさま、自室に向かう。
「あーお帰りお兄、今帰り? ……ん? 何その包み」
あ、やべ
「チョコが貰えなくて悲しかったから、自分で買ったんだよ」
「うわ寂しっていうか今年は青葉さんくれなかったの?」
「ああ……うん、欲しかったなあ」
嘘をつく。だってその方が妹からワンチャンもらえる可能性増えるし。
「ふーん、じゃあ仕方ないなあ。寂しい悲しいお兄に恵んであげても良いよ~」
「ください」
「えっ土下座っ!? そんなに私のチョコがほしいの? ……も、もうしょうがないなあ」
クックック、この試合貰った……!
土下座しても勝てばよかろうなのだー!
「それに、お兄に大事な話もあるし」
ん? なんかこの展開今日見たことあるのですが。
「じゃあお兄い、その、あの、あとで、私の部屋に……連れてくから」
なんや急にかわいさが倍増してまんがな。
このこなに急に色っぽく見え始めたんやろか。思わずエセ関西弁がでたやないか
その後は妹の事を意識させられた。なんとなく食べるタイミングも逃してしまったので、夕食後に自室で食べようと思っていたところ。
「お兄い風呂空いたよ~」
…ふむ、妹の残り湯…ね
いやべつに特になにも感じませんとも。ええ。
……いつもは感じないことを感じさせられてしまいましたね。
♥♥♥
そして夕食後、妹に連れられ、妹の部屋に向かう。
ドアが閉じる音が、やけに大きく感じた。
心臓の音が相手にも聞こえていそうなくらいに感じられる。
妹もなにやら顔を赤らめて、視線を会わせようとしない。
「じゃ……じゃあ、これあげるよ」
そういって手作りらしきチョコをくれた。すごく恥ずかしそうだし、もっと困らせたくなってきちゃうなあ。
「うおっしゃああああああああ。ありがとうな妹よ」
「そ、そんなに喜んでくれるなんて。ま、まあ、ただの義理だもん」
義理ね、まあかわいいこから貰えるだけで嬉しい。
「あ、あとこれもよんでね」
といって、即席らしき手紙もくれた。
そのまま自室に帰る。
すぐに琴葉のチョコを開封すると、手紙が
「ごめんね? 実はドッキリでしたー」なんて言う内容の。
??????????
どう言うことだってばよ。まさかあのなんかすごい興奮はなんだったんだよまじでさああ
チョコをくれたのはすごく嬉しい。けど神てめえ絶対に殺す。
あーもうめちゃめちゃだよー(精神的に)。……食べようかな。
……苦っ。オレの今の心情に非常にマッチしておりますね。
よし、もうどうにでもなれ、妹のも開封しよう。
その前に貰った手紙読むか。『実はお兄ちゃんが好きでした』とか書いてないかな。
「実はこのチョコ、本命チョコで……。恥ずかしくて伝えられてないと思うけど、私、本当はお兄ちゃんが好きでした」
うわ、傷心に染みるな。ホントにこの子はいいこやな。
「と、書く予定だったのですが……」
ん? なんか雲行きが怪しくなったな。
「二股とかふぁっきゅー」
……ラブコメの主人公がなんで二股しないのかわかった。
全てを失うことになるからだな。
文字通り全てを失った身からしましては、この対応は誠に遺憾であるって言う感じですね。
いや、待ってくれ。こうなったのは二人がかわいいのが悪い。選べないもん、美少女は出来るだけ多くと付き合いたいもん。
妹のチョコもとても苦かった。
もう、寝ようか……。
今日は一生涯忘れられないバレンタインデーになったな。
枕を濡らしながら、そう思ったのでした。
甘いバレンタインと苦い人生 ──チョコも人生も甘くはないって本当ですか? アールケイ @barkbark
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