第33話 私の狡い婚約者様
「愚妹とあの屑の関係は大分前から気付いていたよ。だけどそれは君も同じ。そうだね?」
「えぇ。皆様にはお願いして、まだ伯父の耳には入れぬようにと頼んでおりました」
お二人があまりに隠さなかったもので。
王女殿下と元婚約者様の関係は多くの貴族が知るところとなっていました。
もちろん母の耳にも入りまして、憤怒して飛び出すところだったのですが。
それを父と私、そして弟とで、必死に止めていたのです。
伯父への報告は国内で決着を付けてからにしようとなんとか母を説得しました。
とはいえ、人の口には戸を立てられないと言いますように、この国の貴族や帝国から派遣されていた護衛騎士だけでなく、たとえば我が家以外の商会などから帝国へと伝わる可能性もありまして。
ことを急がねばと考えていたところなのですが。
「君は円満に婚約を解消するつもりでいたんだね?」
「そうですね。あちらのお顔を立てた方がよろしいかと思って、しばらくはお話が来るときを待っておりました」
爵位を考慮し、公爵家から婚約解消の話をした方が良いものと考えていたのです。
元々こちらが望んだ婚約でもありませんでしたからね。
国王陛下の推薦状やご承認の件もあれば、やはり公爵家側から動いていただくのが筋かと思い、限られた時間のなかでもうしばしと待っていたわけです。
「それで誰にも咎はなかった?」
「そうですね。伯父には相手が気に入らなかったのではなく、婚約を無くし自由になりたいと言うつもりでしたので」
むしろあの伯父ならば、婚約解消の話に諸手をあげて喜んでいたことでしょう。
ずっと「気が変わらないか」「もっといい相手を見繕うぞ」と言われてきましたからね。
私には出来れば帝国内の誰かに嫁いで欲しかったのだと思います。
そういう伯父をいつも抑えてきた母は、陛下の書状まで持ち出して公爵家から婚約を望んでおきながら、婚約解消前に誰かと親密な仲になったあの元婚約者様のことをどうしても許せなかったようで。
家では散々罵っていたものです。
時に冗談とも捉えられない形相で、「兄にこの国を潰して貰おうか!」と叫ぶこともありました。
ですから園遊会の後には、噂が広まる前にと急いで動くことになったのです。
王女殿下の命を知れば、母は本気で伯父に頼っていたと思います。
父が好きで堪らない母ですが、その父によく似た私たち姉弟にも惜しみなく愛情を与えてくれる優しい母であり……その愛情は時折伯父に通じるものへと変貌を遂げるときがありました。
幸せな悩みかもしれませんが、愛され過ぎるというのも困ったものです。
「やはり喜ばれたか」
婚約者様は伯父のことをよくご存知のようでした。
それでどうして王女殿下を放置してしまったのでしょうか。
私の婚約を解消する目的ならば、穏便な方法でも間違いなく達成出来ていたでしょうに。
「狡い私を知っても、君はまだ婚約者でいてくれるかな?」
先からずっと狡い、狡いと思ってきましたよ?
とは言いませんでしたが。
「それが最上である限りは」
と、私も狡いことを言ってみました。
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