第34話 やはりあなた様でしたか

 婚約者様は苦笑を浮かべたあとに、こくりと頷き、白状なさいます。


「側仕えの者たちには言っておいたんだ。あいつの言動は目に余る、一度痛い目を見た方がいいだろう、とね。あとのことはすべて私が対処するから、あいつが何か仕出かしたとしてもただ見守るようにと、もしてあったんだ」


 正式な命ではないとしても、ほとんど同義のそれがあっては、園遊会のあの場で誰も動かなかったことにも頷けます。

 ある意味、見上げた忠誠心でしょうか。

 その相手が第五王子殿下であったことには、少々の疑問を覚えるところです。


「あぁ、でもね。あの場では皆、それぞれ悩み、動こうとはしていたみたいだ。さすがにこれは国を揺るがす大事になると分からぬ者には私もお願いなどしないからね。されどあれが正式に王女の命なんかを出してしまったものだから、あの場にいるどの貴族にも撤回は厳しかった。だから誰かがあいつのドレスに飲み物でもぶちまけて、無理やり連れ帰ろうと考えていたそうなんだ」


「それをしなかったのは、私があの場で発言をしたからですか?」


「発言を促したのは、あの屑だったのだろう?」


 婚約者様はあの場にはおられませんでしたのに、何もかもご存知なのですね。

 私は頷きます。


「それで君が聞かれたことに答えるだけで終わっていたら、それを合図に動く予定だったとは言っていた」


 私は何も聞かなかった。

 そのように受け取ってくださっていたということですね。


 この国の将来は何の心配もないように思えてきました。


「皆様には大変申し訳ないことをしていたのですね」


 あのように発言などせず、お任せしておけば良かったような気がしてきます。


「いや。君もあんなことがありながら、皆にはよく気を配ってくれていただろう?あんな異常事態を収めてくれた君には、それぞれがとても感謝をしていたんだ。これは私からも礼を言いたい」


 お礼には及びませんし、かえって巻き込んでしまったことを申し訳なく思います。

 ほとんどの皆様は、強制的に呼ばれ参加されていただけのはずですから。

 何もないことにした方がずっと有難かったことでしょう。


「君が憂えることなど何もない。あの二人は遅かれ早かれ、問題を起こしていたんだ」


 確かにそう考えますと、あの園遊会の場でことが収まって良かったと言えなくもないような……。

 私たちにも取り繕えない公式の場であのような問題を起こされてしまっては、本当にこの国は消失していたかもしれません。


「それでね、正直に白状すると。園遊会での話を聞いたとき、私は喜んでしまったんだ。愚妹にしてはよくやった!とね。嫌な男だと思うだろう?」


 首を振ることは出来ず、僅かに首を傾げてみました。

 婚約者様は自嘲気味に笑います。


「おかげで君とこうして最短で婚約することが出来てしまった。だけど今はそれを後悔しているかな」


「後悔ですか?」


 婚約したくなかった──ということではなさそうですね。

 けれども何故でしょうか。

 悲し気な笑みを見ていたら、私の胸も痛むのです。


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