第10話 議長様との意思疎通がうまくいきません

 議長様はもう疑いようなくにっこりと微笑まれますと、続いて周囲を見渡しました。

 そして声を張り上げます。


「静粛に!神聖な議会の場にて、私的な発言は許されぬ!今すぐ黙れ!」


 意外にも強気なご発言をする議長様であったことに驚いてしまいました。

 この議長様がありながら、この国の貴族たちは先までずっと好き勝手に話していたのかしら。


 それともこの議長様も……。



 私はここでまた、自身の足りなさを自覚することになったのです。

 議会にはじめて参加する運びとなりましたので、呼び出しを受けてから時間は多くありませんでしたが、色々と調べたものです。


 ですのに、議長様のお顔を拝見しても、私は何も気付いていませんでした。

 そのうえどのような御方であるか、気付くまでにも時間が掛かったのです。


 調べ過ぎたことによる先入観には気を付けなければいけませんね。

 調べた通りの議長様がその席にいらっしゃると私は思い込んでいたのですから。


 もしかすると、この御方も公爵様の手引きによるところなのでしょうか?




 私は疑いの目を持って、いまいちど議長様を眺めました。

 すると、すでにこちらを見ていた議長様と目が合いまして、またにっこりと微笑まれたのです。


 分からない御人ですね。

 その視線に含まれる熱量には、一体どんな意味が籠められているのでしょうか?



 それまでとは打って変わって、しんと静まった議会場にて、私たちはしばしのとき見詰め合っておりました。

 その間も私はいつもの淑女の微笑みを見せていたつもりですから、こちらの気持ちが悟られることはなかったと思います。


 私は議長様を見詰めながら、この議会の意味について考えておりました。



 あの王女殿下はそれは愛されてお育ちだったと聞いたことがございます。

 するとこの議長様は、王女殿下を擁護するためにこの場に参加した、と考えられるのです。



 私たちはどうやら失敗をしてしまったようですね。


 宰相様のご令息様が議長を務めている場なら、真面な話も出来るかと考え、この場に来ることに何の躊躇いもございませんでしたけれど。


 その宰相様も、園遊会の後にはご本人は来られませんでしたけれど、使いの者として任命されましたまた別のご令息様が我が家を訪ねられておりました。

 問題ないように対処すると言ってくださいましたし、だからこそ、父と私はこの議会にのこのこと参加したのですけれど。


 宰相様でも王家の皆様には逆らえないものでしたね。

 その部分、私たちは長く失念していたように思います。


 それは私たちが驕っていたからだ、と言われましても、この失態ですから仕方がないでしょう。


 この場に参加した時点で、公爵様の筋の通らないご発言が是と決められているのであれば。

 もう母もおとなしく笑っていてはくれません。


 するとこの国は──。



「ギルバリー侯爵令嬢殿」



 この国の先を悲観して、勝手に落ち込んでおりましたら。

 議長様がまた距離を縮め、証言台が邪魔だとでもいうように、私の真横に立っておりました。



 議長様。

 少々距離が近過ぎてはおりませんか?



 視線で訴え掛けましたが、議長様には一向に伝わりません。

 それどころか──。


 議長様は私の淑女の微笑みがひととき乱れるほどの、驚くべき行動に出られたのです。




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