マインとミーナ その4
三年後。
マインはベラ直属の戦闘部隊の隊員という肩書だった。とはいっても、他の隊員と連携するようなことはなく、ただベラに命令されるまま人間を虐殺した。
マインは一人で戦況を変えることが出来るほどの実力となっていたのだ。
ローブのフードを深くかぶり、蹂躙した後の戦場を歩く。
一年ほど前、人間の中に勇者を名乗る者が現れた。
勇者とその数人の仲間は、魔王軍優勢の戦況を覆すほどの力を持っており、一時は人間領の首都が陥落するのも時間の問題と言われていたのに、一気に人間軍は勢力を逆転してきた。
今や主戦場は魔王城のすぐ近く、残る魔王軍の幹部はベラ一人となっていた。
その姿を見たことはないが、勇者と相まみえるのも時間の問題だな。マインはそんなことを考えていた。
ふと、人間軍の魔法使いが倒れているのを見つけた。
マインは魔法使いのローブを探ると、血に濡れた魔導書を取り出す。
「う……うぅ」
死んだと思っていた魔法使いは、まだ息があるようだった。
マインは大きなため息をつと、魔法を放つ。
「
グチャっ、と音がして肉片が飛び散る。
魔法使いから奪った魔導書を読みながらマインは歩き出す。
「マインは本当に魔導書が好きですね」
いつの間にかベラが横にいた。転移魔法で来たようだ。
「別に好きじゃない」
マインはぶっきらぼうにこたえる。
ただ、人間だった頃の思い出にすがっているだけだ。内容に興味なんてない。
「マインは本当によくできています。私の造った中では最高傑作だと言っていい。ただ一つ残念なのは、人間と同じように育ってしまうことですね」
「どっちでもいい」
そのときだ。
「
魔力でつくられた光の矢が飛んでくる。
マインは持っていた魔導書に魔力を込め、矢を受け止める。魔導書は光りの粒子となって消滅した。
魔法を放ったのは、マインと同い年くらいの少女だった。人間軍の上級魔法使いの制服を着ている。
少女は一撃で仕留められると思ったらしい。マインが防いだことに驚きの表情を浮かべていた。
一方、マインも驚いていた。それでも平静を装いながらゆっくりとフードを脱いで顔を見せる。
魔法を放った少女。
それはかつて同じ町で暮らしていた少女、魔力の使い方を教えてあげた少女、一番の仲良しだった少女、ミーナだった。
「……マイン?」
ミーナはさらに驚いたようだった。
「うん。マインだよ。覚えていてくれたんだ。嬉しいな」
「マイン……生きていたの? でも、その姿……」
そこでベラが口を開く。
「マインのいた町の生き残りですか。全部処分するように命令したのに、困った部下たちですね」
そのとき、ミーナの後ろに何人かの男が現れた。
そのうちの一人、一番若く見える男の腰には膨大な魔力を秘めた剣が刺さっていた。
なるほど。こいつらが噂に聞く勇者一行か。
「マイン、お友達を殺しなさい。あとのメンバーは私がやります」
「……でも」
「そうですね。では、あなたのお友達も、私がとっておきの魔法で処分しましょう」
「……わかりました。私がミーナを殺します」
マインはミーナにむかって魔法を放った。
マインとミーナはつしか森の中へと入っていた。
マインは攻撃用の魔法を連続して放ち、ミーナは防御用の魔法で防ぐ。
ずっとそんな展開が続いている。
「ミーナ。もっと本気出して」
「やめてよ、マイン!」
マインが魔力の刃を放つと、ミーナは魔法でそれを迎撃する。
「私は、今の私は魔族だ!」
マインは手に魔力を集める。
「
そして、集めた魔力は強力な火炎となってマミーナに迫る。
ミーナの表情から迷いが消えた。
「マイン、どうしてさ!
ミーナは手に魔力を集める。そして、その魔力を強力な水流となって放たれる。
正面からぶつかり合うマインの炎と、ミーナの水流。
「ミーナァー!」
マインはさらに力をこめる。
「マイーン!」
ミーナも力をこめる。
水流は炎を飲み込み、マインに命中する。
吹き飛ばされたマインは地面を転がり、岩にあたって止まる。
体中が痛い。それでもマインは立ち上がろうとする。
「もうやめようよ、マイン」
ミーナは穏やかな表情で、ゆっくりとマインに近付いてくる。
「私ね、魔族たちに町が襲われたとき、マインが助けてくれたおかげで逃げられたの。それで、今の仲間と出会って、旅をしてきた。みんな、とってもいい仲間だよ。だからきっと、マインのことも受け入れてくれる」
ミーナはマインに手を差し伸べた。
「一緒に行こう、マイン」
マインはしばらく迷うように視線を泳がせる。
額から垂れてきた血を拭うと、それは青かった。
「私は、ベラによって魔族に改造された。そうじゃなかったら死んでいた。それから、ベラの配下として沢山の人間を殺した。もう覚えていないくらい沢山殺した。ミーナたちが魔王を殺せば、この世界に魔族の居場所はなくなる」
マインはまっすぐにミーナを見つめる。
「人間たちが私を許すと思うか? 私は、石を投げられる存在なんだ。だから……」
マインは痛みをこらえながら、ゆっくりと立ち上がった。
ミーナは必死に言葉を探しているようだった。
「だから……」
マインが続きを言おうとしたとき、二人のすぐ近くに何かが落ちてきた。
土煙が晴れたとき、そこに転がっていたのは満身創痍のベラだった。
起き上がることもできないようで、うずくまって荒い呼吸を繰り返している。
それを見た途端、マインは口元に笑みを浮かべた。鋭い牙が顔をのぞかせる。
「もう逃げられないぞ!」
ベラを追って、勇者たちもやってくる。
「魔王城で待っている。ミーナ」
マインはベラを抱えると、転移魔法を使った。
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