マインとミーナ その3

 次の日、ベラはマインを魔王軍の幹部や魔王が出席する会議に連れていき、自慢するかのように紹介した。

「今回は特に、良い出来です」

 幹部たちは「またか」などと呆れたように言っていた。

 ベラも含めマインが魔王城の中を歩き回ることを咎める者はいなかった。

 数日間、城内の探索を行った末、地下の書庫にたどり着いた。

 マインは大半の時間をここで過ごした。

 城の中で魔族たちは各々仕事を持っている。特に今は人間との戦争中だ。わざわざ読書しにくるヤツはいない。

 マインは魔導書を読み漁る。

 魔族の魔法。人間の魔法とは基礎の基礎から異なる魔力の使い方がそこには記されており、マインはそれらを一つ一つ覚え、試していった。

「魔導書って、そんなに面白いかな?」

 ふと横を見ると、そこにミーナがいた。

「別に。面白くなんかない」

 マインはぶっきらぼうな口調で返すと、ミーナの幻は消えていった。

 そのときだ、魔導書の頁から一枚の紙が落ちた。

 拾い上げて見ると、古びたそれは何かのラクガキのような、意味をなさない絵が描かれている。

 マインは紙を本にもどそうとしたが、手を止める。

「魔法がかかってる」

 紙から、なにかの形に成形された魔力を感じた。

鍵を開ける魔法ウオボロオド

 紙にむかって魔法を放った途端、無数の光があふれ出た。光は書庫の壁に大量の画像を映し出す。

 それは無数の魔法陣と、それぞれの魔法陣についての解説だった。

「これって、これって……」

 マインは目を輝かせながらその画像を見ていた。

 その日から、マインは一層書庫にいる時間が長くなった。

 武器庫から盗んできた短剣で固い石の床に魔法陣を彫っていく。

 複雑な魔法陣を、大量に彫っていく。


 あるとき、ベラに連れられてマインは戦場にやってきた。

 人間軍の陣形は瓦解し、魔族軍の一方的な虐殺と呼べる状態になった戦場を小高い丘の上から見ていた。

 人間軍が蹂躙されきった頃、ベラは一人の人間を連れてきた。負傷した軍人だった。

 ベラはその軍人を軽々とマインの足元へ投げる。

「マイン。これを殺しなさい」

 軍人はマインの足元でうずくまっている。

「でも……」

 マインがためらうと、ベラは軍人に近付き、魔法を放つ。

最大の痛みを与える魔法イマタ・オン・イマヂアス

 途端、軍人は悲鳴を上げながら地面をのたうち回る。

「マイン。痛みから救ってあげてください」

 マインは魔法を構える。しかし、まだ決心がつかない。

「あぁあ、殺してくれ! もう、殺してくれぇ!」

 軍人が叫ぶ。

「ほら、マイン。彼も死を望んでいますよ」

 ベラの声。

「ごめんなさい。ごめんなさい!」

 マインは軍人にむかって魔法を放った。


 動かなくなった軍人。

 マインの足元に出来た血だまり。

「マインの人殺し」

 ミーナの軽蔑するような声が聞こえた気がした。

 血だまりにうつるマインの姿は、まぎれもなく魔族だった。

 それからベラは何度も戦場にマインを連れていき、人間を殺すように命じた。

 何人も殺した。

 マインの中で人間を殺めることへの抵抗がなくなっていくことを自覚した。

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