第99話 カルメアへの相談
私は、カルメアさんとの約束の時間にギルドに入っていった。昼間と違い、今は冒険者の方々が多くいる。どうやら、ダンジョンから帰ってきた人達みたい。
その人達の間をすり抜けていって、受付の裏に入っていく。そして、カルメアさんがいるであろう事務室の中を覗く。
「アイリス? 入っても良いわよ」
扉の隙間から私の顔が見えたのか、カルメアさんがそう言った。私は、言われた通りに中に入っていく。
「そんな隙間から見られたら、びっくりするじゃない。別に職員なんだから、普通に入っても良いのよ」
「ちょっと不安になっちゃいまして」
部屋の中に入ったら、カルメアさんに怒られてしまった。まぁ、扉の隙間から覗いていた私が悪いんだけどね。
「まぁ、そんなものよね。もう少し待ってくれる? そろそろ終わるから」
「はい。分かりました」
事務室に置いてある部屋で、五分程待っていると、カルメアさんの仕事が終わった。
「お待たせ」
「いえ、こちらこそ、お時間を頂きありがとうございます」
「良いのよ。ここで話すのも何だから、お店に行きましょう」
「はい」
カルメアさんと一緒に向かったお店は、すごく豪華な店構えをしていた。この街に住んでいるけど、ここには一度も入った事がない。
「うぇ!? こ、ここに入るんですか!?」
「そうよ。個室が用意されているお店は、ここくらいしかないのよ。アイリスが相談事をしたいって言うから、ここを使うのが一番だと思ったのよ。料理も美味しいわよ」
「そうなんですか。でも、見るからに高いですよね? 奢って貰って大丈夫なんですか?」
ちょっと心配になった私は、カルメアさんに訊いてみた。
「ええ、大丈夫よ。そのくらいのお金はあるわ。アイリスは気にしなくても良いわ」
「分かりました。ご馳走になります」
私達は高級料理店『コンパート』の中に入っていった。すると、すぐに店員さんが出迎えてくれて、一つの個室の中まで通される。そこに座ると、すぐに店員さんが現れて、メニューとベルを置いて部屋を出て行った。
「さっ、食べるものを決めましょうか」
「はい」
私は、メニューを開いて固まる。そこに書かれていたものが、どんな料理なのか想像がつかなかったからだ。
「どうしたの?」
「あの、どういう料理なのか、全く想像がつかなくて」
「なるほどね。確かに、こういうものに慣れていないと分からないわよね」
「私は、カルメアさんが食べるものと同じにします」
「そう? じゃあ、頼むわね」
カルメアさんがベルを鳴らすと、店員さんが来る。
「肉コースの『怒濤の行進』を二つで」
「かしこまりました」
店員さんは、私達からメニューを受け取ると、部屋を出て行った。
「それで、相談って何のことかしら?」
店員さんが出て行ったところで、カルメアさんがそう切り出す。
「えっと、本当に私的なものなんですけど、実は、結婚を考えていまして……」
「結婚? そんな仲になった人がいたのね。お相手は、私も知っている人?」
カルメアさんは、ニコッと笑って訊いてくる。何だか、自分の事のように喜んでいるみたいだ。
「えっと、リリアさんとキティさんに……」
「え……まさか、二人と結婚する気なの!?」
カルメアさんが驚いた直後、店員さんが料理を持ってきた。それは、色々な種類の肉料理だった。それが、何皿も出て来る。まさに、怒濤の行進と言った感じだ。
「さっ、取りあえず、食べながら話しましょうか」
「はい。いただきます」
「いただきます」
私達は、肉料理を少しずつ食べていく。私が、最初に食べたのは焼き肉だったけど、私が作るような焼き肉では無く、何だかハーブ的なものの香りが付いている。結構美味しい。
「それで、話を戻すけど、本当に二人と結婚するつもりなの? どっちかじゃなくて?」
カルメアさんは、お肉を食べながらそう訊いてきた。
「はい。私にとって大切な人達ですし……」
「そうね。確かに、あの二人は、アイリスにとって大切な人でしょうね。でも、それで、いきなり結婚ってなるのは、どうなのかしら?」
「でも、私の呪いに対抗出来るのは、愛だけみたいなんです。そして、二人といるとき、私は呪いに蝕まれる事がないんです。だから、二人は、私を愛してくれるいるはず。私も、二人の事は大好きです。愛していると言っても過言ではありません。だから、二人と一緒になりたいんです……」
「そう……」
私の言葉を聞いて、カルメアさんは少し考え込み始めた。私は、その間にお肉を食べ進める。自分では作らないような料理が多いので、少し楽しい。
「アイリスの気持ちは分かったわ。でも、今もほぼ同棲状態よね? それじゃ、ダメって事よね?」
「二人が、ずっと一緒にいてくれるとは限りませんから……結婚すれば、ずっと一緒にいる事が出来る可能性が高くなります」
「だから、結婚って案が出て来たのね……そもそも、呪いと愛の関係性は本当の事なの?」
「アルビオ殿下が言っていました」
私がそう言うと、カルメアさんは眉を寄せる。何だろうと思っていると、いきなりため息をついた。
「はぁ……その結婚の話も、殿下の入れ知恵が元になっているわね」
「え? ま、まぁ、そうですけど……結婚したいって決めたのは、私自身ですよ」
「そうね。そこは疑わないわ。でも、同性婚で、さらに重婚をするっていうのが、どれだけ難しい事か分かってる? 正直、こんな事言いたくないけど、アイリスとキティは、ご両親がいない状態だから、ほとんどの場合、反対されるような事はないわ。でも、リリアには、両親がいるのよ? 了承してくれると思う?」
こればかりは、カルメアさんが正しい。リリアさんのご両親は、リリアさんに普通に結婚して、普通に幸せになって欲しいと思っているかもしれない。そうしたら、同性婚の重婚なんて、普通に認めてくれないと思う。
「世間体とかを考えると、かなり厳しいと思うわよ?その茨の道を歩ける自信はあるの? 二人に歩かせる覚悟はある?」
「うぅ……」
アルビオ殿下が言っていた通り、この国に同性婚と重婚を禁止するような法律はない。それでも周囲からの眼は、そうとう厳しくなるみたい。カルメアさんが言うのなら、そうなんだろう。
私は、その事まで、全く思い至っていなかった。二人にも嫌な思いをさせてしまう可能性があることに。
「アイリスは、それでも二人と結婚したいと思える?」
カルメアさんが真剣な顔で、私を見る。私は、押し黙ってしまう。
「黙っていちゃ答えなんて出ないわよ。あなたが、今、心に浮かんだ言葉を言いなさい。とっさに出る言葉が、あなたの本心の言葉って事は、良くある事よ」
そう言われて、私はすぐに口を開いた。
「結婚したいです……二人がいない人生なんて考えられないです。ずっとずっと、一緒にいたいです」
私は、顔を俯かせながら、そう言った。だから、今は、カルメアさんがどんな表情をしているか分からない。馬鹿な子を見るような感じだろうか。
「はぁ……」
カルメアさんのため息が聞こえる。私は、思わずビクッと肩を揺らしてしまう。
「ごめんなさいね。嫌な言い方をしたわ」
突然謝られて、少し驚いてしまう。顔を上げて、カルメアさんを見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。
「えっと……」
「いきなり、二人と結婚したいって言われて、『そうなんだ』で済ませることは出来なかったのよ。茨の道にはなるし、それ相応の覚悟と意志を持っていないと成立しないと思ったのよ。だから、少し嫌な言い方と追い詰め方をさせて貰ったわ。おかげで、アイリスの意志は、ちゃんと伝わってきたわ。もう少し、強く示せれば、もっと良かったけどね」
私は、眼をぱちくりとさせていた。つまり、今までの言葉は、私を追い詰めて本心や意志を確認するためだったらしい。
私は、思わず頬を膨らませてしまう。
「そんな怒らないで。何回も言っているけど、茨の道になるっていうのは、本当の事なのよ? これからリリアとキティに求婚して、受けてもらったら、今度はご両親に挨拶しないといけない。そのご両親に反対される可能性だって、ちゃんと考えないといけないし、説得するには、どうすれば良いのかも考えないといけない。課題は山積みよ。今の内に、簡単な課題になることを祈っておきなさい」
「それは……そうですね……」
いきなり突きつけられた課題に、少し戸惑ってしまう。でも、自分では気がつけなかった課題が明らかになったのは、いい事だ。
「それで、どうやって求婚するの?」
「それを相談したかったんです」
私がそう言うと、カルメアさんが苦笑いをしていた。
「そこから躓いていたのね……とは言っても、私も求婚なんてしたことないし、された事もないのよね」
「そうなんですか? カルメアさん、おモテになりそうですけど」
「一応、ギルドでも上の方にいるから、色々と言い寄られることはあったけどね。基本的にお金目当てだったり、コネ目当てだったりしたから、付き合う時点で断り続けていたら、そういう話も一切来なくなったわね」
「ああ……」
確かに、カルメアさんはそう言った話を受けるのは嫌いそう。
「それでも、友人の話で、色々と聞いた事はあるわ。取りあえず、気持ちを真っ直ぐ伝えなさい。変に気取った言葉を使うと、相手に理解されない事があるわ」
「それは……恥ずかしいですね……」
「後は……そうね。両親への挨拶は、受けてもらった後に考えれば良いわ。その時には、また私のところに来なさい。相談に乗るから」
「分かりました」
まず最初に考えないといけないことは、リリアさんとキティさんに真っ直ぐ気持ちを伝えるって事だ。その後の事は、一旦置いておく。
「私、頑張ります!!」
「そうね。頑張りなさい」
「はい!」
この後は、カルメアさんと談笑しながら、食事を続けた。
私の中の悩みも、少しだけ軽くなったし、カルメアさんに相談して良かった。
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