第98話 調査の片付けと悩み
翌日、私とキティさんは、ギルドに向かうリリアさんを見送った。その後は、昨日までのダンジョン生活で使ったものの整理をしていた。服とかは、昨日のうちに洗っておいたから、今日はテントを洗って干す。そして、小物も片付ける。
「ふぅ……これで、終わりですね」
「ん。後は、防具を出してくる」
「そうですね」
私達は、それぞれの防具屋に防具の修理を頼みに行く。私はカラメルに向かった。
「すみません。マイラさんはいらっしゃいますか?」
「いるよ~。久しぶり、アイリスちゃん。防具が壊れちゃった感じ?」
「いえ、ちょっとボロボロになってきたので、直して貰いに来ました」
私は、マイラさんに作って貰った防具を見せる。マイラさんは、防具を受け取ると、全体を満遍なく見ていった。
「うん。大きなほつれはないけど、細かい摩耗は目立つね。ついでに、色々と補強しておくね。値段は、このくらい」
「結構良いお値段ですね」
「まぁ、これ以上に良くするとなると、どうしてもね。その分、安全性は高まるよ」
「そうですよね。安全には変えられないですもんね。お願いします」
私は、マイラさんに代金を支払う。一括で渡したので、マイラさんが少し驚いていた。
「生活費とかは大丈夫?」
「はい。これは、自分で使えるお金なので、大丈夫ですよ」
三人で暮らしてから、三人の給料全てを生活費として当てるという事はしてない。自分達の給料の内、六割を生活費にするという話になっている。残りの四割は、それぞれの自由にするという事になっている。
今出したお金は、その四割の方から出した。
「それなら良いけど、分割も出来たんだよ?」
「いえ、使っていないものが貯まってたので、一括で大丈夫です。そうだ。一つ訊きたいことがあるんですけど」
「ん? なになに?」
マイラさんは、防具を机に置いて、私の話を聞く態勢になった。
「防具で、瘴気を防ぐとか、熱さを免れるとかは厳しいですよね?」
「瘴気や熱さ? ああ、新しく増えたっていうダンジョンの事だね?」
マイラさんは、すぐに私の訊きたかった事の意味を察してくれた。
「う~ん、正直、無理かな。瘴気は、吸い込まなければ良いってわけじゃないんだ。皮膚からも吸収されちゃうからね。熱さの方も厳しいかな。熱に耐性を持つ布は、あるにはあるんだけど、一定以上の熱さになると、その効果は気休めにもならないんだ」
「じゃあ、防具で解決とはいかないって事ですね」
「うん。瘴気の方は、身体全身を覆う合羽みたいなものを用意出来れば、いけるかもしれないけど、どのみち呼吸が問題になるからね。浄化が一番だよ」
ダンジョン調査に防具は使えないのかと思って訊いてみたけど、思っていた以上にダメみたいだ。やっぱり、階層が増えたダンジョンの調査は一筋縄ではいかないみたい。冒険者の方々には、それぞれで頑張って貰うしかないみたい。
こっちでもサポート出来れば良かったんだけどね。
「王都だと、色々開発も進んできているみたいだけど、そっち方面での成果は、まだ出ていないみたい」
「防具屋も大変なんですね。マイラさんも、そういう研究をしているんですか?」
「ううん。さすがに、この環境で、そこまでの研究は出来ないかな。私は、軽くて丈夫なものの研究をしながら、皆の防具を作っているって感じ」
「そうなんですか? だから、私のもある程度、軽く作られてるんですね」
マイアさんの研究の成果が、結構身近なところにあった。この防具には、結構助けられているので、マイラさんがその研究をしていて良かったな。
「いつもお世話になっています」
「アイリスちゃんが、無事に戻ってこれるなら、頑張った甲斐があったよ」
「じゃあ、私は、ここで失礼します」
「うん。大体四日から五日で仕上げるよ。それ以降に取りにきて」
「はい。分かりました」
私は、カラメルを後にして、自宅に戻った。すると、既にキティさんが帰ってきていた後だった。
「キティさん、早かったですね?」
「そう? 確かに、防具を渡して、すぐに帰ってきたから、早かったかも。アイリスは、時間が掛かった?」
「そうですね。マイラさんと少し話していたので。お昼を作っちゃいますね」
「ん」
私が台所で昼ご飯の支度をしている間、キティさんは、部屋の中に出来ていた日向で丸くなっていた。最近、ダンジョンに潜っていたから、日向が恋しいのかもしれない。
「ご飯出来ましたよ~」
「ん……」
キティさんがもぞもぞと動いて、身体を伸ばす。そして、ゆっくりと食卓に着いた。二人で話ながら、昼ご飯を食べていく。その間に、少し考えていた事があった。それは、昨日の夜に考えていた事と同じ事だった。
(いつ頃、話を切り出せば良いんだろうか。二人が一緒にいる時が良いよね。それなら、基本的に夜になるかな。後は、どんな風に言えば良いのか……)
そこまで考えて、私に恋愛経験がない事を思い出す。
「アイリス、何か悩んでいる?」
「へ? い、いや、そんな事ないですよ!」
「でも、何か変」
キティさんは、私の事を訝しんでいた。キティさんは、こういう勘も働くみたいだ。どうにかして誤魔化せれば良いんだけど、私はそういうのが苦手だから、少し自信がない。
「いつも通りですよ。デザート食べますか?」
「ん。食べる」
デザートで釣ると、キティさんはすんなりと引っかかってくれた。私は、すぐにベリーを洗って、キティさんに渡す。キティさんは、出されたベリーを美味しそうに摘まんでいた。
どうにか誤魔化せたみたいだ。食べ物の力は偉大だね。
「私は、ちょっとギルドの方に行きますね」
「ん。何か用事?」
「少し気になる事がありまして。カルメアさんに、訊きに行ってきます」
「分かった。洗い物は任せて」
「はい。お願いします」
私は、キティさんに洗い物を任せて、ギルドに向かう。カルメアさんに、相談をするためだ。私の知り合いの中で、こういう面にも強そうな人は、カルメアさんくらいだからだ。
ギルドに入ると、今日は、かなりがらんとしている。受付も暇そうだ。皆、ダンジョンに潜っているのかもしれない。
ギルド内を見回してみると、ちょうどカルメアさんが階段を降りてきているところだった。
「カルメアさん」
「あら、アイリス? もう仕事が恋しくなったの? それともリリア?」
「いえ、違います。リリアさんなら、朝と夜にも会えますから、そんなすぐに恋しくなりません」
「まぁ、一ヶ月近く耐えていたものね。それじゃあ、どうしたの?」
カルメアさんは、私が来た理由が分からず、首を傾げている。
「ちょっと、相談したいことが……」
「仕事のこと?」
「いえ、私的な事です」
「そうね……終業まで待っていてくれる?」
「はい。分かりました」
「じゃあ、十八時にギルドに来なさい。夕飯も奢るわ」
「はい。ありがとうございます」
私は、カルメアさんに約束を取り交わすことが出来た。私は、一旦家に戻る。
「おかえり。用事は終わった?」
「いえ、夜に持ち越しになりました。なので、夕飯はリリアさんと二人でお願いします」
「ん。分かった。遅くならないように」
「はい」
キティさんにそう伝えてから、時間まで何をしようかと思っていると、キティさんが手招きしていた。何だろうと思いながら近づくと、ソファの上を叩いている。座れということだろう。
指示通りにソファに座る。すると、キティさんが私のすぐ横で身体の位置を直して、私の膝に頭を乗せた。どうやら、膝枕をして欲しかったみたいだ。普通に言えば、膝枕するんだけど。
私は、膝の上に乗っているキティさんの頭を優しく撫でる。すると、すぐにキティさんの静かな寝息が聞こえ始めた。キティさんの頭を撫でつつ、テーブルに載っていた本を取ってページを捲っていく。
時間になるまで、そんな風に過ごしていった。
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