第97話 いつもの生活へ
ガルシアさんへの報告を済ませた私とキティさんは、ギルドの一階まで降りてきていた。階段を降りたところで、カルメアさんにばったりと出くわした。
「あら、アイリスとキティじゃない。帰ってきていたのね」
どうやらカルメアさんは、裏方で仕事をしていたみたいで、私達が帰ってきた事に気が付いていなかったみたい。
「はい。先程帰ってきました。さっきまで、ガルシアさんに調査の報告をしていたんです」
「そうなの。お疲れ様。一応、話は聞いているわ。確か、一ヶ月の休みを貰うのよね?」
「はい。そうなっています」
既に、カルメアさんも休みの件について知っていたみたいだ。
「まぁ、そのくらいは与えてもおかしくないくらいには、仕事づくしだったものね。ゆっくりと過ごすと良いわ」
「はい。ありがとうございます」
「それにしても、隈も出ているけど、大丈夫なのよね?」
カルメアさんが、私の目元に軽く触れる。カルメアさんにも言われるくらいには、隈が濃く出ているみたい。
「大丈夫です。悪夢の発作とかも出ていませんから」
「そう? じゃあ、ただの寝不足かしらね。しっかりと休むのよ」
「はい。あの、リリアさんは、まだ就業中ですよね?」
私は、リリアさんと会えないかと思い、カルメアさんに訊いてみた。
「そうね。さすがに、今日は早退きは厳しいわね。今日は、一日受付担当だから、少し抜けるというのも出来ないわ。申し訳ないけど、家で待っていてくれる?」
「分かりました。じゃあ、私達は失礼します」
「じゃあ、一ヶ月後にね。戻ってくるのを待っているわ」
私とキティさんは、カルメアさんと別れて、自宅へと向かった。途中、食べ物などの買い物を済ませてから、自宅の中に入っていく。
「ただいま」
「ただいま。キティさんは、お風呂の準備をしてくれますか? 私は買ってきたものを仕舞ってきます」
「ん。分かった」
私達は、それぞれ分担して、行動を開始する。食べ物を全部仕舞った私は、次に洗濯に移った。ダンジョンで、ずっと使っていたものばかりなので、少し汚れなどが目立つ。
「そろそろ防具も修理に出した方が良いかな……?」
私の防具は、所々ほつれが出て来ている。二ヶ月近く使い続けているから、劣化も早いのかもしれない。
「ん。私も、そろそろ防具屋に出そうと思ってる」
お風呂の準備をしていたキティさんが、私の傍に来てそう言った。
「そうですよね。明日、出しに行きましょうか」
「ん。後、お風呂の準備出来た」
「分かりました。じゃあ、一緒に入ってしまいましょう」
「ん」
私達は、一緒にお風呂に入って、身体を念入りに洗う。キティさんの身体も綺麗にして、湯船に浸かる。
「ふぅ……やっぱり、湯船に浸かると疲れが抜けていくような感じがしますね」
「ん。それに、家にいるから、向こうよりも落ち着く」
「そうですね……」
私とキティさんは、湯船で蕩けきっていた。久しぶりの湯船を満喫してから、私達は、夕飯の支度を始めた。あらかたの支度を終えると、同時に玄関の扉が勢いよく開かれた。
そして、廊下に足音が響き、リビングにリリアさんが飛び込んできた。
「おかえりなさい、リリアさん」
「ん。おかえり、リリア」
「ただいま! そして、おかえり!」
リリアさんは、この前と同じように私達に飛びついた。
「ただいま、リリア」
「ただいま、リリアさん。夕飯の支度は、ほとんど終わっていますから、先にお風呂に入ってきてください」
「え……ありがとう。調査で疲れているのに、ごめんね」
「いえ、お気になさらないでください。好きでやった事ですから」
私がそう言うと、リリアさんは、私とキティさんを一回ずつぎゅっと抱きしめてから、お風呂に向かった。
「私達も夕飯を仕上げてしまいましょう」
「ん。手伝う」
私とキティさんは、リリアさんがお風呂から上がってくる前に、夕飯を食卓に並べられるように、仕上げを始める。
そうして、リリアさんがお風呂から上がると同時に、食卓に並べることに成功した。
私達は、久しぶりに三人揃ってご飯を食べていく。その間の話は、私達の調査についてとなっていた。
「へぇ~、キティが、アイリスちゃんのお願いを無視するなんて、珍しいね」
「そのおかげで助かってはいますが、さすがに、少し悲しかったですよ」
「ん。普段の私達の気持ち」
「それはそう」
リリアさんを味方に付けることが出来るかと思ったら、まさかのキティさんの方に同調されてしまった。
「リリアさんは、キティさんの味方なんですね?」
「う~ん……こればかりは、キティの気持ちも分かるからね。私達は、いつもアイリスちゃんの無茶を見ているか待つしか出来なかったんだから」
「うっ……」
それを言われてしまうと、私は何も言えなくなってしまう。
「でも、結果的に良かったから、まだ良いけど、本当にどうなるか分からなかったんだから、キティも悪いよ」
「ん。ごめん」
リリアさんは、キティさんも叱っていた。キティさんの行動が、無茶な行動であったからだと思う。リリアさんのダメなものはダメと言うところは、本当に好きだ。
「それと、私達明日から一ヶ月間休みになりました」
「えっ!?」
リリアさんは、私達の調査の話では見せなかった反応をする。さすがに、一ヶ月の長期休みは、リリアさんも動揺せざるを得ないみたいだ。
「良いなぁ~……私も一緒に休めたら良いんだけど……」
「さすがに、そういうわけにもいきませんしね」
「うん。そろそろ夏だから、夏期休暇と重ならないかなぁ」
夏期休暇は、学校の休みに合わせたものだ。うだるような暑さの中での学業は、効率が悪く、生徒達の体調も悪くなる一方なので、一ヶ月程休みを設けている。
そして、その期間に、家族団欒を楽しめるようにと、企業側でも、一週間程の休みを取れるようにしていた。それは、ギルドも同じだ。
「微妙なところですよね。さすがに、私もこの休暇の直後に夏期休暇を申請するのは、申し訳ないですし」
「ん。そもそも、一緒に夏期休暇を取れるかどうかも分からない」
夏期休暇は、全員が一斉に休むわけではなく、交代で休んでいく方式になっている。なので、実際に、休みを合わせられるかどうかは分からないのだ。カルメアさん達は、少しくらい配慮してくれそうだけど、それはこっちの我が儘でしかないので、申し出づらい。
「休みが合うなら、旅行するのも有りかと思ったんだけどなぁ」
「旅行ですか?」
全然考えた事がなかったので、首を傾げてしまう。
「うん。南の方なら、海に近いし、北なら避暑地だし、夏に旅行するなら良いかなって」
確かに、リリアさんの言うとおり、南には魔物が少ない海岸があり、北には夏でも涼しい土地がある。どちらも、夏の旅行の定番と言われている場所だ。最後に行ったのは、南の海岸だったかな。お母さん達と一緒に行ったのを、朧気に覚えている。
「今年は、難しいですかね。休みが合いそうなら、計画してみましょう」
「そうだね」
「ん」
旅行が出来るかは分からないけど、三人で行けたら楽しいだろうな。少し、期待しておこう。
そんな風に、久しぶりの食卓は和気藹々としていた。その日の夜は、久しぶりにリリアさんと一緒に眠る事になった。
一緒のベッドに入ると、すぐにリリアさんが私を抱きしめる。
「はぁ……やっぱり、アイリスちゃんを抱きしめていると落ち着くね」
「私抜きの睡眠では、物足りませんでしたか?」
「うん。抱き枕を買うか迷うくらいには、物足りなかったかな」
リリアさんにこう言って貰えて、少しだけ嬉しかった。
「アイリスちゃんも、抱きしめられるのは久しぶりなんじゃない?」
リリアさんの言うとおり、最近はキティさんを抱きしめている事が多く、抱きしめられるのは久しぶりだ。
「そうですね。ただ、リリアさん、少し太りました?」
「うぇ!?」
リリアさんが驚いて、私を見た。
「食生活は変わっていないし、そんな太るみたいな事はないと思うけど……」
リリアさんが自分のお腹を触って、そう言った。その仕草で、私は変わったのが別のものだと気が付いた。
「間違えました。太ったんじゃなくて、成長していたんですね」
「成長……? え、私、胸が育ってるの?」
「最後に一緒に寝た時よりも、包まれる感じがあります」
私はそう言いつつ、リリアさんの胸に埋まる。
「そんなに変わってないと思うけど……今度、サイズを測ってこようかな」
「…………」
「アイリスちゃん?」
私は、この時点で三分の二程眠りについていた。若干、意識は残っているけど、返事をするという思考が生まれない。
「寝ちゃったのかな。おやすみ」
リリアさんはそう言って、私の事を優しく抱きしめた。今日の睡眠は、ダンジョンにいたときよりも深いものになりそうだ。
薄れていく意識の中、私は一つ重要な事を思い出していた。
(結婚の話……いつ頃しよう……?)
それを最後に、完全に眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます