第100話 唐突な求婚

 カルメアさんと相談してから、三日が経過した。私は、まだ二人に求婚出来ていなかった。カルメアさんに真っ直ぐ素直に伝えた方が良いと言われて、頑張るぞっと思ったけど、いざ言おうと思うと尻込みしてしまう。


(求婚の仕方は決まったのに……)


 肩を落としながら、手に持った本を読んでいく。だけど、ほとんど目が滑ってしまっている。キティさんは、私の膝の上で眠っている。完全に休日の定番ポジションみたいになっている。


「ん……」


 キティさんが寝返りを打とうとするので、落ちないように支える。いつもギリギリのところで落ちないんだけど、心配だから支えようとしてしまう。

 寝返りを打ったキティさんは、膝の上で良い場所を探して一つの体勢で落ち着いた。そのキティさんの頭を優しく撫でる。

 そんな感じで過ごしていると、私もウトウトとしてしまい、座ったまま眠ってしまう。


「……ちゃん……リスちゃん……アイリスちゃん?」

「うぇ?」


 肩を揺さぶられて、私は目を開ける。すると、目の前にリリアさんの顔があった。その後ろに見える外の景色が暗い。既に夜になってしまったみたい。


「あっ! ご飯!」


 リリアさんが帰ってくる前に、夜ご飯の支度をしようと思っていたのに、寝過ごしてしまった。


「大丈夫。もう終わってる」

「え?」


 キッチンを見ると、キティさんがエプロンを着けて立っていた。食卓にもご飯が並んでいる。

 私が寝ている間に、キティさんが起きて支度をしてくれていたみたい。それに、私の身体に毛布も掛けてくれていた。


「ごめんなさい。寝過ごしてしまって」

「ん。大丈夫。珍しく昼寝をしていたから、起こせなかっただけ」

「そういえば、悪夢を見るようになってから、昼寝はしていませんね。怖いですし」


 昼寝をして悪夢を見るなんて嫌だしね。


「ん。少し魘されそうになったら、ぎゅっとしてた」

「私が帰ってきてからは、私が横についてあげていたから、魘されなくなったけどね」

「そうだったんですか? ありがとうございます」


 夜ご飯の支度をしていたら、私の傍にずっといるなんて出来ないもんね。私が魘されそうになる度に、ご飯の支度を止めて抱きしめてくれていたみたい。さらに、リリアさんが帰ってきたら、リリアさんがつきっきりになってくれていたらしい。


「本当に、ご迷惑お掛けしてごめんなさい」

「別に気にしなくても良いんだよ。仕方のない事なんだから」


 リリアさんはそう言って、私を抱きしめてくれた。そうしたら、後ろからもキティさんが抱きしめてくれる。リリアさんとキティさんに挟まれている形だ。何だか温かい気持ちになってくる。二人の優しさが身に染みてくる。


「私、お二人と結婚したいです」

「へ?」

「ん?」

「あ……」


 二人の優しさで、口と心が緩んでしまった。二人とも驚いてぽかんとしていた。私は、大慌てで何か誤魔化す方法を探す。


「あの……えっと……その……」


 全く誤魔化す方法が思いつかない。二人は、二人で顔を見合わせていた。完全に取り返しが付かない所まで来ている。

 もっとしっかりとした雰囲気の中で、真面目に言うつもりだったのに、こんな何でも無いところで、ぽろっと零してしまうなんて……


「結婚かぁ……」


 リリアさんは、そう言って考え込み始めた。さすがに、即答で返事を言うという事は無かった。キティさんは、私を後ろから抱きしめたまま何も言わない。


「う~ん……少し時間をくれる?」

「え? あ、はい!」

「じゃあ、私も時間貰う」

「わ、分かりました!」


 二人とも同じ返事をした。すぐに返事を貰う事は出来ないみたい。そればかりは仕方のないことなので、我が儘は言わない。


「それじゃあ、ご飯にしようか」

「ん」

「は、はい」


 私達は、一緒に夜ご飯を食べ始める。その間は、互いに黙っているという事もなく、いつも通りに色々な話をしながら食事をしていた。私の胸中は、不安とかがあったけど、リリアさん達が普段通りなので、それは表に出さなかった。

 ご飯を食べ終わった後は、洗い物をして、それぞれでお風呂に入ると、リリアさんと同じベッドに入る。あんなことを言ってしまったので、少し遠慮がちになってしまい、いつもよりも少しだけ距離を開けていた。

 それを見たリリアさんが、私との距離を詰める。


「別に気にする必要なんてないのに」

「でも、まだ、返事を頂いてない状態ですし……何だか、悪いかと思ってしまって……」

「それ自体は、私の方が悪いから、本当に気にしないで良いよ」

「でも、本当に驚かせてしまいましたよね」


 唐突に求婚してしまったから、リリアさん達も戸惑っていた。まぁ、今日言わなくても、リリアさん達にとっては唐突になると思うけど。


「うん。びっくりした。アイリスちゃんが、そう想ってくれているなんて思わなかった」

「……」


 私は何も言えなくなる。いや、何を言えば分からなくなると言った方が適切だ。そんな私に、リリアさんはニコッと微笑むと頭を撫でながら、抱きしめてくれた。

 昼寝もしていたはずなのに、睡魔が襲ってくる。

 私は、そのままリリアさんの腕の中で眠りについた。

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