第94話 ダンジョンの核と説教?
キティさんを背負って、遺跡の中に滑り込んだ。その中は、私の『グロウ・サンシャイン』のような光で満たされていた。私は、背負っていたキティさんを遺跡の壁に預ける。
「これなら、瘴気も侵入してこなさそうですね」
「ん。アイリス、あそこ」
「え?」
キティさんが指をさしたところには、宝箱が置いてあった。それは、あのトレント・サハギンと戦ったダンジョンで、ボスサハギンと戦った時に出たものと同じだった。
「もしかして、さっきの魔物が、新層のボスだったのでしょうか?」
「そうだと思う。開けて」
「はい」
私は、キティさんに言われた通り、宝箱を開ける。すると、中には、二張の弓が入っていた。一つは真っ黒な弓で、一つは真っ白な弓だった。
「弓が二張ありました」
「二張? 私とアイリスの分だと思う」
私は、二張の弓を取り出すと、真っ白な弓が縮んでいき、天燐のブレスレットに吸い込まれていった。そして、ブレスレットに小さな弓の装飾品と小さな槍の装飾品が付いた。
「これも宝級武具なんだ」
手に入れた弓は宝級武具の一つだった。私は、もう一張の弓を持って、キティさんのところに向かった。
「アイリスの弓は?」
私が一張しか弓を持っていなかったので、キティさんは不思議そうな顔をしていた。
「ここに持っていますよ」
私は、天燐も付いているブレスレットを見せる。
「宝級武具だった?」
「はい。二つも持つと、一つにまとまるんですね」
「私も初めて知った。そもそも宝級武具を、そんな沢山持つ人は珍しい。アイリスは、運が良い」
キティさんに言われて、私は、冒険者の方々が、武器を背負ったリしていた事を思い出した。ダンジョン攻略で、ポンポン手に入るなら、皆、武器を背負ったりはしなくなるもんね。
キティさんに渡した弓は、私と似たようなブレスレットに変わった。違う点は、私の白いブレスレットに対して、黒いブレスレットになっている事だ。
「新階層のボス報酬は、宝級武具が多くなっているのかもしれない」
「それが、今までの階層との違いという事ですね。後は、環境に適応出来るかどうかですか」
「ん。後は、あれもおかしい」
キティさんは、遺跡の奥の方を指さす。そっちを見ると、階段の下に青色の結晶みたいなものの下部分が見えていた。ただ、その青は、かなり濁っている。鉄色と言った方が良いかもしれない。
「何ですか? あれ?」
「ん。あれは、ダンジョンの核。あれを壊すと、ダンジョンが崩壊する」
「へぇ~、ダンジョン管理って、そういう風にやるんですね」
ダンジョン管理とは、ダンジョンを残すか壊すか決める事を言う。資源などの旨みがなく、死人が出て来る可能性が高いダンジョンは、ギルドの権限で壊す事が出来る。その依頼は、基本的に冒険者への依頼となる。
「この前のダンジョンでは見ていない?」
「そうですね。この前は、宝箱しか気付きませんでした」
「ん。まぁ、この前は状況が状況だったから仕方ない」
キティさんは、壁に手を突きながら立ち上がる。私は、すかさず身体を支える。さっきの戦いは、かなり無理があったみたい。結果的に勝てたから良かったけど、ちょっと悪い事を言ってしまっていたかもしれない。
「ありがとう」
「いえ」
キティさんの歩行を補助しながら、ダンジョンの核がある場所に向かう。
「ん。やっぱり、おかしい」
「そうなんですか?」
「ん。私も話に聞いたくらいだけど、もっと澄んだ色をしているはず」
キティさんも実物を見たわけじゃないらしいけど、一般的に、ダンジョンの核は、澄んだ色をしているらしい。
「じゃあ、ダンジョンの核の色で、新階層が出来るかどうかを判断出来そうですね」
「ん。一応、調査に来た甲斐はあった。これが、同時多発スタンピードにも繋がるかもしれない」
ダンジョンの核が濁っているかどうかが、同時多発スタンピードもしくは、新階層の出現に繋がっている可能性が高い。これは、きちんとアルビオ殿下に報告しないといけない。
「取りあえず、周りからも見えませんし、ここで休憩しましょう」
「ん」
キティさんは、ダンジョンの核がある部屋で、壁を背に腰を下ろす。私は、立ったままだ。それをキティさんは首を傾げて見ていた。
「さて、キティさん。覚えていますか?」
「何が……あっ……」
キティさんも思い出したようだ。さっきのボス戦の前に私が言った『説教』という言葉を。
「私は、嫌だって言った」
「それだけで、説教から逃れられるのなら、私だって逃れられていますよ!!」
私だって、出来れば説教から逃れたいと思っている。だけど、毎回無茶をして、色々な人に心配を掛けて、怒られてを繰り返しているのだ。基本的に、リリアさんからされているけど。
「キティさんだって、説教するでしょ!?」
「ん。アイリスは、無茶しすぎ」
「今回のキティさんもでしょ!!」
何故か私の話に移行しそうになったので、すかさず舵を戻す。
「そもそも、どうやって付いてきたんですか!?」
「アイリスの『グロウ・サンシャイン』の範囲内に入って、アイリスに悟られないように木々に隠れてきた」
「魔物もいたはずですよ」
今いる階層の上からイビル・ツリーが現れていた。結構厄介な相手だったはず。近くで焦げる匂いなどはしなかったので、ボス戦のような炎属性は使っていないはず。
「アイリスが、魔石の場所を見つけていたから、私もそこを狙った」
「ああ、キティさんの攻撃は正確ですもんね」
「ん」
思わず感心してしまっていると、キティさんが胸を張っていた。
「いや、それは置いておきます。もしかしたら、『グロウ・サンシャイン』の範囲から抜け出していたかもしれないんですよ!」
「アイリスが動く方向は、『グロウ・サンシャイン』を見ていたら分かる。目印になっているから。だから、大丈夫」
「うぅ……」
こうも簡単に返されてしまうと、うまく説教が出来ない。普段、説教なんてしないから、どうやればいいのかも分からないのだ。
「キティさんを失ったら、私もリリアさんも悲しいんです」
「私も同じ。アイリスを失いたくない。だから、一緒にきた。守りたかった。私は、アイリスより弱いけど……出来る事から目を逸らしたくない」
キティさんは、私の眼を真剣に見ていた。そのまま見ていると、私も怒るに怒れなくなってしまった。
「はぁ……」
私は、キティさんの傍に腰を下ろして、ぎゅっと抱きしめる。
「分かりました。これから、キティさんと行動します。だから、しっかりと付いてきてくださいね」
「ん。任せて」
キティさんはそう言うと、私の頬に自分の頬を擦りつけてきた。この前の舐めてくるのと同様に、愛情表現の一種なのかもしれない。
「キティさん、くすぐったいです」
「じゃあ、舐める」
「同じですよ!?」
結局、キティさんを叱るつもりが、説き伏せられてしまった。でも、改めて、キティさんの覚悟的なものを知る事が出来たから良かったかもだけど。
「こんなに仲良くなっていると、リリアがヤキモチ焼くかも」
「あははは。そうかもしれないですね。じゃあ、少し控えておきますか?」
「嫌」
キティさんはそう言いながら、私の膝の上に頭を載せる。私は、そんなキティさんの頭を優しく撫でていった。
私達の体力が回復するまでは、そんな風にしながら過ごしていった。
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