第87話 新緑の森のボス戦
翌日、私達は、ボス戦の準備を済ませて集まっていた。この場には、私、キティさん、サリア、ライネルさん、ドルトルさん、クロウさん、マインさん、ミリーさん、アルビオ殿下、アルビオ殿下の部下の方々三十人がいる。
「これからゴブリンキングを討伐する! この人数だ。特に苦戦するするという事もないだろう。だが、油断だけはするな! いくぞ!!」
『はっ!』
皆が気合いをいれた掛け声をする。そして、ボス部屋まで移動した。ボス部屋の中央に同時多発スタンピードの時に見た緑肌の巨人が立っていた。その周りには、取り巻きのゴブリンが二十体いる。
「ボス部屋なのに、他の魔物もいるんですね?」
「ああ、時々取り巻きを連れている奴はいるな。ゴブリンキングもその内の一体だ」
私の疑問にライネルさんが答えてくれた。こういうときは、ダンジョンに沢山潜っている人がいると、色々と教えてくれるから助かる。キティさんも、その通りと言わんばかりに頷いていた。
一応、ボス戦の経験はないけど、そういう知識は持っていたみたい。戦闘職員として勉強していたのかも。私も見習わないといけない。
「盾持ちは正面に固まれ! 遠距離持ちは、合図で一斉放射! アイリス、取り巻きを全滅させることは出来るか?」
「出来ると思いますが、私は、ゴブリンキングと戦わないで良いんですか?」
「最初はな。取り巻きを倒し次第、こちらに合流してくれ。その前に倒せれば、良いんだがな」
「わかりました」
私は先行して取り巻きを倒す役目を貰った。正直、少し不安だけど、あれくらいだったら倒せるはず。
「クロウは、増援を警戒してくれ。ゴブリンキングは、時折周囲のゴブリンを呼び寄せるらしいからな」
「了解です」
アルビオ殿下は、私と同じ速度型のクロウさんに、警戒を頼んでいた。私よりも適任だ。ライネルさんのパーティーで斥候も務めているくらいだしね。
私は雪白を抜いて、準備をしておく。横を見てみると、キティさんが弓を固く握りしめていた。昨日よりはマシだけど、少し緊張しているみたい。
私は弓を握るキティさんの手に触れる。すると、少しだけ握る力が緩んだ。たったこれだけだけど、キティさんの緊張がある程度解れたみたい。
「ありがとう」
「どういたしまして。一緒に頑張りましょう」
「ん」
私達の様子を見たアルビオ殿下は、真っ直ぐ前に向き直る。
「全員! 準備は良いな! 戦闘開始!!」
アルビオ殿下の合図と共に、遠距離持ちが攻撃を開始する。その中にはキティさんの弓もある。そんな中を私が先行する。
「な、なんて速度だ……!」
「あれで、ギルド職員とは……」
後ろでそんな声が聞こえた気がした。それは気にしないで、自分のやるべき事をしていく。私に気が付く前に、遠距離攻撃がゴブリンキング達に到来する。それによって、取り巻きのゴブリンが三体程倒せた。
でも、それによって私達にゴブリンキング達が気が付く。その頃には、私が取り巻きの傍まで移動している。
「『グロウ』」
雪白が白い光を纏う。
そして、近くにいたゴブリン四体の首を瞬く間に斬り飛ばしていく。それに怒り狂ったゴブリンキングが、私目掛けて持っていた石斧を投げる。
私は、その石斧を真っ二つに斬り裂いた。後ろで皆がギョッとしたような感じがするけど、無視してゴブリンを斬り裂いていく。【剣舞】をうまく使える様になってきているのか、ゴブリン達が逐一手斧で攻撃してくるのも簡単に避けられるようになっている。流れるように動く事で、瞬く間にゴブリン十七体を倒す事が出来た。
その間に、ゴブリンキングに大量の遠距離攻撃が命中していき身体がボロボロになっていた。その遠距離攻撃の二つが目に命中したため、ゴブリンキングは失明をしていた。ゴブリンキングはデタラメに腕を振り回して、接近させない様にしている。私達は誰も接近せずに遠距離攻撃をしているので、全く意味がないんだけどね。
そして、ゴブリンキングは、ダメージが限界値まで来たのか、その場で膝を突いた。既に、先程のように腕を振り回す気力もないみたいだ。そこにライネルさん達近接部隊が接近して、それぞれの得物でゴブリンキングに攻撃していった。最後にライネルさんの斧がゴブリンキングの頭を叩き割った。
なんだか、思っていたよりも遙かに早く戦闘が終わった。私は、雪白を抜いたまま油断せずに立っていた。
今の新緑の森では、何が起こるか分からないので、ボスを倒しても警戒はしておくことにした。それは、アルビオ殿下達も同じみたいで、しばらくの間、何が起こっても大丈夫なように周囲を警戒した。
「大丈夫そうだな。魔石を回収して、先に進むぞ。お前達は周囲の様子を確かめてこい」
『はっ!』
アルビオ殿下の部下達が、ボス部屋の周囲に変わりがないかを確かめに向かう。その間に、ライネルさん達がゴブリンキングの魔石を取りに向かった。これにはサリアも同行している。
私は、ぽつんと立ったままになっているキティさんのところに向かった。
「キティさん、やりましたね」
「ん。何か呆気ない」
キティさんは呆気なく終わって、少し戸惑っていたみたい。
「あれだけの人数でしたからね。ただのいじめになっちゃいましたね」
「ん。あれに一対一で勝ったアイリスは凄い」
「まぁ、グランドクロスで、全部吹き飛ばしただけなんですけどね。その後もサリア達が助けに来てくれなかったら、他の魔物にやられていたはずでしたし」
「今、やったら?」
キティさんの疑問に、私はすぐに答える事は出来なかった。この前はグランドクロスを使って、ギリギリで倒した。でも、今は、一人でボスサハギンとトレント・サハギンを倒した経験もあるし……
「うん……多分、勝てます」
「アイリス、最初に会った時よりも頼もしくなった」
「まぁ、最初に会った時は魔物と戦う事自体、初めてでしたしね。でも、キティさんも今の戦い凄かったですよ。ゴブリンキングの目を正確に射貫いていたじゃないですか」
「……気付いてたの?」
キティさんがきょとんとしながら私を見た。私が見た時には既に失明した後だったけど、その攻撃跡から魔力矢による攻撃だって事は分かった。
今回いる人達の中で魔力矢を使うのはキティさんだけだったので、すぐにキティさんがやったって事はわかった。
「キティさん、緊張していましたけど、全然強いじゃないですか~」
私は後ろからキティさんをぎゅっとして左右に揺れる。キティさんも同じように軽く揺れる。
「正面に守ってくれる人達がいるから」
「前衛の役割ですからね。別に一人でどうこうしようなんて考えなくても良いんですよ。私も強いんですから、二人でいれば最強です!」
「ん。最強」
私とキティさんがそう言いながら揺れていると、サリアが呆れた目線を送ってきた。主に、私に。
「もう終わったの?」
「うん。おかげで勉強になったよ」
サリアが、ライネルさん達についていったのは、大型の魔石を回収する方法を勉強するためだった。これから冒険者を続けていけば、いずれ回収する機会が訪れるかもしれないので、知っておいた方が良いのは確かだ。
「そろそろ周囲の偵察にいった人達戻ってくるかな?」
「そんな深くまで見に行くわけじゃないし、戻ってくるんじゃない? それより、いつまでキティさんを抱きしめているの? 迷惑じゃないですか?」
サリアが、キティさんに確認する。すると、キティさんは私の中で首を横に振った。
「別に」
「ほら、キティさんも気にしていないってさ」
「それなら良いけど……アイリスの顔、だらしないよ?」
「むぐっ……!」
サリアにそう言われて、すぐに顔を引き締める。キティさんを抱きしめていて、表情が緩んでいたみたい。
ボス戦の後で、そんな風に和んでいると、アルビオ殿下の命令で周囲を探っていた部下の方々が戻ってきて、アルビオ殿下に報告していた。
「周囲に変化はないみたいだな。よし、このまま下に降りるぞ! 気を引き締めろ!」
『はっ!』
和やかな雰囲気もここまでだ。ここからは、本当に何が起こるか分からない。アルビオ殿下の言うとおり、気を引き締めていかないと。
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