第85話 再び新緑の森へ

 私達が帰ってきた三日後、他のダンジョンを調査していた冒険者達も帰ってきた。それぞれがアルビオ殿下に、報告をしていった。

 その結果、他のダンジョンでも同じように最下層の下に、新たな階層が増えていた。一部の冒険者達は、ボスを倒した後に、一度の未知のエリアに足を踏み入れてきたらしい。

 その報告によれば、先のエリアは、それまでのエリアと同じ環境を過酷にしたようだったと言う。そこのエリアは、火山地帯だったが、まだ歩く場所があった今までの階層と違って、一面溶岩で埋め尽くされていたらしい。

 それを見た冒険者達は、攻略する事は不可能だと判断して、ユリージアに戻ってきたらしい。


 そんな報告を受けた私達は、自宅のソファで話をしていた。


「まぁ、そんな報告があったみたいだけど、アイリスちゃんはどうするの?」

「分かりません。アルビオ殿下がどう判断するかによります。恐らく、中を確認するくらいはやるかと思います」

「ん。私もそう思う。さすがに、何も確認しないで帰るということはないと思う」


 リリアさんが気になったのは、私達が今後どう行動するかだった。一応、また調査に向かうかもしれないとは言っているので、あまり動揺はない。


「いつ頃、出発になるんだろう?」

「報告も集まりましたし、明日くらいに知らされるかもしれないですね」

「決まったら、すぐに教えてね?」

「はい」


 この会話がフラグになったかのように、翌日、私はガルシアさんから呼び出しを受けた。ギルドマスターの部屋に行くと、ガルシアさんとアルビオ殿下が待っていた。


「来たな。座ってくれ」


 アルビオ殿下に言われて、いつものソファに座る。そして、正面にはアルビオ殿下とガルシアさんが座った。


「さて、今回の話は、今後の予定についてだ。この前、ガルシアから聞いたと思うが、またダンジョン調査に付き合って貰いたい。他のダンジョンの報告を聞いたと思うが、もしかしたら攻略不可能なダンジョンになっている可能性もある。それでも、調べなければならないことだ。出来る事なら、そのまま突き当たりまで見ておきたい」


 アルビオ殿下は、そう言って私の目をまっすぐ見た。


「つまり、ダンジョンを完全に攻略するということですか?」

「そういうことだ。頼めるか?」


 ここで私が断る可能性も考えているのか、最終確認なのか、アルビオ殿下はそう訊いてきた。


「これも仕事なので、ちゃんと働きますよ。キティさんにもお伝えしておきます。いつ頃の出立になりますか?」


 昨日リリアさんにも知らせてくれと言われたので、しっかりと出立の日取りを訊いておく。


「明後日だ。準備をしておいてくれ」

「分かりました。では、失礼します」


 私は、二人に一礼してからギルドマスターの部屋を出ていった。そして、通常業務に戻った。家に帰ったら、二人に知らせないと。


 ────────────────────────


 アイリスが出て行ったギルドマスターの部屋にて、アルビオは少し汗を掻いていた。


「怒らせたか?」

「いや……どうでしょう? 元々戦闘職員としての仕事の方には、乗り気ではありませんからね。給料のためにやっているだけのようですし。通常業務の方は、かなり意欲的なのですが……」


 アルビオが気になったのは、アイリスが、若干、本当に気にならない程度に不機嫌に見えたことだった。

 実際には、ただ不機嫌そうに見えただけで、アイリス自身、あまり不機嫌というわけではないのだが。

 もしかしたら、アルビオ自身にも罪悪感的なものがあったせいで、そう見えてしまったのかもしれない。

 アルビオもアイリスが戦う事に乗り気では無い事を知っているので、その事が原因では無いかと考えていた。


「本当に戦闘は好きじゃないみたいだな」

「そうなんでしょう。ですが、守るべきものがある限り、あいつは戦います。本当に、そういうところは、あいつらと似ている……」

「あいつらというのは、アイリスの両親の事か?」


 アルビオは、ガルシアが誰を思い浮かべていたのかを当てた。ガルシアは、アルビオの答えに頷く。


「はい。アイリスの両親も、同じように何かを守るために戦う事が多かったので。アイリスが生まれてから、アイリスを守るためと考えて戦っていたのだと思います」

「そうなのか。勇者に一番近い存在と聞いていた。一度、しっかりと会っておきたかったな」

「そうですね」


 ガルシアはそう言って、寂しそうに笑った。


 ────────────────────────


 三日後、私とキティさんは荷物をまとめて、玄関で靴を履いていた。


「今度は、どのくらい掛かるか分かる?」

「どうでしょう? 下がどれだけ続いているか分かりませんし、もしかしたら、この前よりも早く帰ってくる事が出来るかもしれませんね」

「ん。その可能性はある」


 リリアさんは、いつ頃帰るかを確認してくる。それは本当に自然に、まるで出張に行く家族の帰りを確かめるかのように。

 それは、私達が、必ず戻ってくると信じているということだ。リリアさんの心は、前よりも確実に強くなっている。それか、私達がこの前無事に帰ってきたから、それで信じてくれているのかも。

 どっちにしろ、私達も絶対に帰ってこないとという気持ちになる。まぁ、そんなことがなくても、そういう気持ちでいるけど。


「じゃあ、いってきます、リリアさん」

「ん。いってきます」

「いってらっしゃい。気を付けてね」


 私達は、リリアさんに手を振って家を出て行った。そして、門の外に向かうと、この前の調査を共にしたライネルさんやアルビオ殿下とその部下が待っていた。


「すみません、お待たせ致しました」

「いや、時間通りだ。よし、それでは、再び新緑の森へと向かう。今回は、全員まとまって動く。この前以上の戦力で移動するということは、この前以上の速度で攻略していけるだろう。だが、俺達が向かう先は、未知のエリアだ。全員、油断はするな! 行くぞ!」

『おう!!』


 私達は、再び、新緑の森へと向かった。ここでも何も起こらないと良いな。

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