第84話 今後の方針

 アイリスとキティが、リリアと再会している時、アルビオはガルシアと対面していた。


「新緑の森に元々あった階層には何も変化は無かった。ただ、最下層に、更に下へと続く道を発見した。そのまま探索しても良いかとも思ったんだが、皆の消耗を考えて一度戻ってきた。これが、今回の調査で分かった事だな」

「なるほど。まだ、他のダンジョン調査の結果が来ていないので、断言は出来ませんが、それが同時多発スタンピードによって起こった変化かもしれませんね。先の調査については、我々が行いますか?」


 ガルシアが言っているのは、アルビオ直々に調査をするのではなく、冒険者達に調査して貰うかということだ。


「いや、なるべくなら、ここにいる内に調査をしてしまいたい。俺も中に入るつもりだ」


 アルビオの言葉に、ガルシアは少し考え込む素振りを見せる。アルビオは、ガルシアが何かを話すのを待った。


「殿下、これ以上の調査は危険かと。殿下自身の身の安全のためにも、調査の参加は自制してください」

「そう言って、聞くように見えるか?」

「見えませんが、一応、誰かが言っておかねばいけない事です」

「まぁな。情報が集まり次第、調査に向かう。その際、ライネル達とアイリス達を借りたい」


 アルビオがそう言うと、ガルシアはまた考え込む。


「ふむ。ダメか?」

「ライネル達は依頼として出すので、構わないでしょう。ですが、アイリスとキティもですか?」

「ああ、戦力は多い方が良い。アイリスとキティの強さは、あの奥を攻略するのに必要だ。俺達だけで調査するよりも、効率が良くなるからな」


 アルビオは、それだけアイリスとキティの強さを買っているのだ。特に、アイリスは、学生だった頃から目を掛けている。

 だからこその要求だった。


「分かりました。二人にも明日知らせておきましょう。具体的な日程は、情報が集まった後ということでよろしいのですね?」

「ああ、それで頼む。結局、どうすれば同時多発スタンピードが起こるかは、謎のままだな」

「偶々という可能性が高くなりますね。それか、これからも要調査となるでしょう」

「他のダンジョン調査をした冒険者達から、良い情報を貰えると良いんだがな」


 こうして、今後の方針が決まった。他のダンジョンの情報が入り次第、再び新緑の森へと戻り、最下層の奥を調査するのだ。そこになにがあるのか。それを調べるために。


 ────────────────────────


 翌日の朝、私とキティさんは、ギルドマスターの部屋に来ていた。昨日の報告は、アルビオ殿下自らがやってくれているけど、私達の今後については別の話だと思うので、自分達で訊きに来たのだ。


「良く来てくれた。そこに座ってくれ」

「はい」

「ん」


 私とキティさんは、ソファに腰を掛けた。向かいにガルシアさんが座った。


「実は、二人を呼び出そうとしていたところだったんだ」

「そうなんですか? なら、丁度良かったですね」

「ああ。恐らく、二人の要件も俺が話したいことと同じ、お前達の今後についてだな?」


 本当に私達が訊きたかった事と同じで、少し驚いた。それと同時に、何だか嫌な予感もしてくる。


「それで、どうなるの?」


 キティさんは、いつも通りのマイペースで、ガルシアさんに訊いた。ガルシアさんは、相変わらずだなと言いたげな顔をしてから、口を開く。


「他のダンジョン調査の報告を待ってからとなるが、二人にも最下層以降の調査へとの同行を頼む事になる」

「やっぱりですか……」


 さすがに、あれで調査完了とはならないみたい。もしかしたらとは考えていたけど、実際にそうなると、少しため息が溢れてしまう。


「あまり気乗りはしないと思うが、頼まれてくれるか?」

「はい。職務ではあるので」

「ん。給料弾んで」


 キティさんが、給料を増やすように要求する。


「あ、ああ。そうだな。今回分よりも高くすることは保証しよう」

「ん。後、いつもより長めの休暇も頂戴」

「キ、キティさん!? さすがに、要求しすぎでは!?」


 遠慮無しのキティさんに、驚いてそう言った。キティさんは、猫耳をピクピクと動かしながら、


「当然の権利」


 と、ドヤ顔で言った。これには、ガルシアさんも苦笑いをしている。


「まぁ、そうだな。休暇に関しては、今回の分とまとめて取れるようにしておこう」

「ん」

「ありがとうございます」

「俺から話せることはこれで終わりなんだが、アイリス達は、何か訊きたいことはあるか?」


 ガルシアさんにそう訊かれ、少し考えて思いついた事を訊く。



「私の今後の業務は、どうすれば良いですか? 明日から、普通に職員としての通常業務をやるという事で、良いのでしょうか?」

「そうだな。明日から、職員としての業務をして貰うが、基本的に裏方の仕事を任せる事にする。詳しくは、明日、カルメアから訊くようにしてくれ」

「わかりました」

「よし、じゃあ、今日は家に帰って、しっかりと休め」


 ガルシアさんにそう言われた私達は、一礼してから部屋を出て行った。


 ────────────────────────


 帰宅した時には、リリアさんはいなかった。私達と一緒に家を出たので当たり前と言えば当たり前だけど。


「お昼ご飯を食べたら、私は病院に行ってきますね。やっと、全部の絵を描けたので」


 今回の調査に行く直前に、ようやく悪夢とかの絵を全て描き終える事が出来た。それをアンジュさんに見せるために、病院に行かないといけない。


「ん。分かった」


 キティさんはそう言うと、台所の方に向かっていった。今日のお昼は、キティさんが作ってくれるからだ。

 キティさんの作ってくれたご飯を食べて、私は病院へと向かった。


「今日は、描けた絵を見せに来てくれたのね?」

「はい」


 私は、描いた絵を全部アンジュさんに渡す。


「……随分昔の戦争の絵ね。何となく見たことがあるわ。こっちは……この絵の平和な時代みたいね。こっちは、発作ではなく普通の夢で見たのよね?」

「はい」

「…………」


 アンジュさんは、私が渡した絵をじっくりと見ながら、考え込み始めた。


「あれから、こっちの夢は?」


 アンジュさんが明るい方の絵を指さしてそう言った。そっちは、悪夢しか見なくなってから、初めて見たまともな夢だ。でも、あれから一度も見ていない。


「一回も見ていません」

「……となると、何度も発作で悪夢を見たことによる反動かしら?」

「嫌な事があった後に、良い事があるみたいな事ですか?」

「まぁ、馬鹿みたいに思えるかもだけど、その可能性は高いわね」

「あっ、そうだ」


 ここで、アルビオ殿下と話した事を思い出した。呪いについての情報だ。


「あの実は、アルビオ殿下とお話しする機会がありまして」

「そういえば、今、この街にいらっしゃるのよね。何かあったの?」


 私の口からアルビオ殿下の名前が出た事に驚きつつも、アンジュさんが訊いてくる。


「はい。呪いの話なのですが、改善させる方法があると」

「呪いの改善? 私は訊いたことがないわね」

「その改善方法なんですが、その……愛らしいです」

「あい? ああ、愛ね。それが理由なら、私が一緒に寝ても効果がないのは、納得ね。でも、それって、二人とは愛があるって事よね? どっちからの愛でも良いのかしら?」

「さ、さぁ……?」


 アンジュさんと話しているうちに、アルビオ殿下に言われた事を思い出した。二人との結婚……まだ、しっかりと考えられていないし、答えを出すのは先でいいや。


「取りあえず、この絵は預かっても良い?」

「はい。お預けします」

「ここから何か分かったら、今度受診に来た時に話すわ。また、悪夢を見るようになったら、すぐに受診する事。良いわね?」

「はい。分かりました」


 前進することはなかったけど、これで、私の悪夢の状態をアンジュさんと共有することが出来た。今後、何か判明するかもしれない。

 その事を期待しつつ、私は病院を出て行った。

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