第82話 新緑の森最下層(2)
安全部屋で、キティさんと談笑していると、サリア達が息を切らして帰ってきた。
「何か、異変があったんですか?」
私は、自分の横に置いておいた雪白を手に取る。キティさんも同じく、弓を手に取った。
「異変はあったけど、そこまでの緊急性はないわ」
マインさんが、首を振りながらそう言った。
「そうなんですか?」
「はい。今すぐどうこうという事ではありません。既に殿下達が戻っている事を考え、すぐに知らせるべきと思ったので、急いで来たんです」
「どんな異変?」
「ボス部屋の向こうに、新しい階層へと続く道がありました。ここは、今は新緑の森の最下層ではないんです」
「「!?」」
私とキティさんは、ミリーさんの言葉に驚いた。
「階層が更新される事なんてあるんですか?」
ダンジョンの階層の更新なんて、聞いたことがない事象なので、ミリーさん達にそう訊いた。
「私は聞いたことないですね」
「私も同じよ。こんな事が起きただなんて聞いた事ないわ」
「サリーさんとマインさんが知らないとなると、ここら辺では起きていないのかも。アイリスは、ギルドでそういう記録とか見た事ないの?」
サリアが私に確認してくる。私は、記憶をひっくり返して考える。裏方の整理をした時に、ダンジョン関連の資料にも一通り目を通している。その中に、ダンジョンの階層更新なんて資料は……なかった。
「うん。私が見た資料には、ダンジョンの階層更新のものはなかった。だから、ここら辺ではなかった事なんじゃないかな。王都ら辺のことは、殿下に訊かないと分からないけど」
ギルドの資料にもなくて、冒険者で沢山のダンジョンに潜っているサリーさん達も知らないとなると、サリアの言うとおり、スルーニア周辺のダンジョンでは起こっていないんだと思う。
「取りあえず、殿下達が戻ってくるまでは待機よ。場合によっては、すぐに攻略する可能性もあるわ。武器の調子は、確かめておきなさい」
「分かりました」
「ん」
私達は、アルビオ殿下達が帰ってくるまで、待っていた。大体、三十分程で、クロウさんとドルトルさんが帰ってきた。その十分後にライネルさんとアルビオ殿下が帰ってきた。
そして、ミリーさんから、帰ってきた皆に異変の説明がされた。クロウさんとドルトルさんが見て分かる程に驚き、ライネルさんとアルビオ殿下は眉を寄せていた。
「ボスの変化はないか?」
「はい。ゴブリンキングのままです。そちらの討伐は余裕でしょう。その先は、どうなっているかは分かりません」
「…………」
アルビオ殿下は、少し考え込む。これからの予定を考えているんだと思う。このまま攻略を続けるか、一度戻るかみたいな感じかな。この状況なら、出来れば一度戻りたいな。長期の探索で疲れたのもあるけど、そろそろリリアさんに会いたい。
そんな事を考えていると、アルビオ殿下の考えもまとまったみたいだ。
「一度、街へと戻る。他のダンジョンの調査結果も来ているかもしれないからな。同じような話が聞ければ、これが同時多発スタンピードが起こった結果、発生した変化だと言えるだろう。本来の目的である発生した原因が分からないのは痛いが、これも収穫だろう」
「分かりました。でしたら、今日はここで休み、明日戻りましょう」
アルビオ殿下が、方針を決めると、ライネルさんが直ぐさま案を出す。
「そうだな。いつものローテーションで睡眠をとった後、地上へと戻る」
私達はアルビオ殿下の言うとおりに、ローテーションで睡眠をとり、地上へと向かっていった。探索を含まないので、五日で地上へと戻る事が出来た。
地上には、すでに探索を終えたアルビオ殿下の部下の方々が待機していた。
「異変を見つけた。今後の方針を考えるために、一度スルーニアへと戻る。すぐに準備をしろ」
『はっ!!』
部下の方々は、直ぐさま行動を開始して、たったの十分で、準備を整えた。そして、全員でスルーニアへと帰って行った。スルーニアに着くと、アルビオ殿下が私達の方を振り返った。
「アイリスとキティは、もう家に帰ってもいいぞ。ライネル達は報酬の受け渡しがあるが、お前達は、給料にプラスする形だからな。ガルシアと話して、今後の事が確定すれば、二人にも何かしらの指示が降る可能性もあるから、その時は頼む」
「分かりました。では、失礼します」
「ん」
私とキティさんは、アルビオ殿下達と別れて、自宅の方に向かった。
「後、残っているのは、更新された未探索領域の攻略だけですよね?」
「ん。ゴブリンキングの先にある部分を調べる。そこからは、新しい階層の攻略みたいになると思う」
「それだと、ただのダンジョン攻略ですし、私の出る幕はないと思うんですが……」
「アイリスは、凄く強いから、探索メンバーになる可能性は高い。今日の調査の続きという事になるだろうから」
「……なるほど、その可能性は確かにありますね」
そんな風に話ながら歩いていき、自宅前まで来た。
「電気が点いていないですし、今日はリリアさん、お仕事みたいですね?」
「ん。でも、仕方ない。取りあえず、お風呂に入る。さすがに、このまま会うのはやだ」
「そうですね。綺麗な身体になってから、リリアさんに会いましょう」
私とキティさんは、家に帰ってきて、すぐにお風呂へと向かった。キティさんを丁寧に、そして徹底的に洗ってから、自分も同じように徹底的に洗う。
リリアさんが帰ってきた時に、臭いとか思われたら嫌だから。
洗った後は、キティさんと二人で湯船に浸かって、身体の疲れを解しながら、少し話をした。
そして、私達はお風呂から上がって服を着替えた頃に、リリアさんが息せき切って帰ってきた。
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