第81話 新緑の森最下層
私達の調査は着実に進んでいき、二週間掛けて三十二層まで終了した。結果は、何も変化無しだった。隅々まで調査したのだけど、空間が拡張しているということも、魔物が増えているということもなく、通常通りの新緑の森みたいだ。
ここを知っているライネルさん達がそう言っていたので、間違いない。
私達は最下層である三十三層に降りて、安全部屋にテントを張っていた。
「後は、ここの調査をするだけで、終わりですね」
「ん。でも、ここが変わっている可能性もある。油断はしない」
「はい。分かってます」
キティさんとそんな事を話しつつ、焚き火の方に向かう。
「全員テントを張り終わったな。皆も分かっている通り、ここが最後の調査場所だ。ここを調査し終わり次第、地上に上がって、街へと戻る。他の奴等も調査を終えているはずだからな」
この新緑の森も、基本的なダンジョンと変わらず末広がりのダンジョンだ。そのため、下に行けば行く程調査する範囲は広くなる。つまり、私達が調査を終えて、地上に戻る頃には皆も調査を終えているはずというわけだ。
「ここの調査というと、ボスも倒すって事ですよね?」
「ああ。その通りだ。全員で掛かれば、短時間で倒す事も出来るだろう。だが、まずは、周辺の調査からだ。今までの組み合わせで大丈夫だろう。最初は、アイリスとキティが留守番を頼む」
「わかりました」
「ん」
今回は、私とキティさんから留守番みたいだ。他の皆から調査を進めて行くみたい。
翌日から調査が始まった。
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ミリー、マイン、サリアの三人は、自分達の調査場所に移動していた。
「私達の調査場所は、ボス部屋の近くなんですよね?」
「そうね。一応、中を覗くくらいはしておけって言われているから、覗いてみてみるわよ」
「戦闘にはならないので、そこまで気を張る必要はありませんよ」
まだ、まともなダンジョン探索をした経験が少ないサリアは、ボス部屋と聞いて、少し緊張していたが、二人の言葉で勇気づけられた。
そうして、周囲を観察しながら進んで行く。
「敵です!」
先頭を歩いていたサリアが、すぐに剣を抜く。サリアの剣は、雪白よりも幅がある普通の剣だ。
サリアの後ろで、マインとミリーもそれぞれの得物を構える。現れたのは、ゴブリンとコボルトの群れだった。全部で、二十体程いる。
「思ったよりも多いわね」
「ですが、このくらいの群れなら、前にもあったはずです。時に変化というわけではなさそうですね」
群れの数は多いが、過去にも起こっている事のため、同時多発スタンピードの変化ではない。こんな時でも冷静に分析をする二人を、サリアは頼もしく感じていた。
「サリア! いつも通り、自由に動きなさい! 私達がサポートするわ!」
「分かりました!」
サリアは、群れの中に突っ込んでいく。ゴブリンとコボルトは、サリアに対抗して、同じく突っ込んでくる。
そこに、サリアの背後から、多種多様の魔法が飛んでいく。突っ込んできていたゴブリン達の半数が、魔法によって倒されていく。突然、周りの仲間が倒された事で、ゴブリン達は動揺して動きが止まる。
動きを止めたゴブリン達にサリアの剣が襲い掛かる。一番近くにいたゴブリンを袈裟斬りにし、流れで身体を回して後ろ回し蹴りをする。
動揺していた事と斬られた事によって、防御が追いつかなかったゴブリンは、後ろにいる仲間達を巻き込んで吹っ飛ぶ。ゴブリン達は、完全に体勢を崩していた。
そこに踏み込んで、サリアは次々にゴブリンとコボルトの首を刎ねていく。最後の一体の首を刎ねて、サリアは剣を仕舞う。
「ふぅ……」
「サリアさん、お怪我は?」
「大丈夫です。この通り、ぴんぴんですよ」
ミリーは、前線で戦ったサリアに怪我がないかと心配になったが、かすり傷一つついていない。
アイリスという巨大な存在に隠れてしまっていたが、サリアの戦闘能力は学校でもトップクラスだった。そのため、このくらいの敵であれば、倒すのも問題はない。
マインによる援護も大きいが、それを抜きにしても有利に進める事は出来ただろう。
「サリアも充分強いわよね」
「学校では、次席卒業でした」
「それは凄いですね。では、首席卒業が、アイリスさんですか?」
「ああ……いや、アイリスは四、五番目くらいですかね」
サリアの言葉に、ミリーとマインは、眼をぱちくりとさせる。あれだけの強さを持つアイリスが首席卒業ではないことに驚いているのだ。
「アイリスは、戦闘系の授業を、基本的に手を抜いていたので、成績自体は良くないんですよ」
「あの子、あんなに真面目なのに、そういうところもあったのね」
「そもそも戦うのが好きじゃないと言っていましたしね。学校では、スキルによって授業が振り分けられる部分がありますから。仕方ないといえば仕方ないでしょう」
マインは、アイリスの意外な一面に驚き、ミリーは、アイリスとのこれまでの会話から、そういうことだろうと納得していた。
そんな風に、その場にいないアイリスの話題などで盛り上がりつつも、周囲の観察を忘れることはない。
三人は調査をしつつ、ボス部屋の近くまでやって来た。
「ここがボス部屋ですか?」
「はい。少し遠くから見るだけにしておきましょう」
三人は、ボス部屋(部屋で区切られているわけではなく、ボスが反応するエリア)を遠くから見る。そこには、ゴブリンキングが座っていた。
「普通ですよね?」
「ゴブリンキングの装備が違うとかもなさそう。結局、変化そのものがなかったって事かしら?」
ここまで調査した結果、何も変化は無い。マインがそう思ったと同時に、ミリーがマインの肩を叩く。マインは、何事かとミリーを見る。すると、ミリーがゴブリンキングの奥を指さしていた。マインがそちらを見ると、そこには下へと降る階段が存在した。
「嘘でしょ……」
「ダンジョンの深さが変わったって事ですか……?」
「恐らくはそうでしょう。一度戻って報告しましょう。他にも、変化があるかもしれませんが、これは早く知らせるべきです」
「そうね。サリア、行くわよ」
「は、はい」
ミリー、マイン、サリアは急いで本拠地となっている安全部屋へと向かった。
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