第80話 新緑の森(3)

 新緑の森調査四日目になると、二十八層まで降りることが出来た。過剰戦力なので、通常の冒険者パーティーよりも素早く進めているらしい。


「ここが、二十八層だ。ここからは、地図に記されている場所を隈無く探索する。一層の探索に一日二日掛ける可能性もあるだろう。まずは、安全部屋に野営地を作るぞ」


 アルビオ殿下の指示で、私達は安全部屋にテントを張って野営の準備を整えた。こうして、安全部屋を本拠地にして、各階層を調査していく。


「本拠地には、二人残して、他で調査を進める。基本的には、二人一組だ。組み合わせは、俺とライネル、クロウとドルトル、サリアとミリーとマイン、アイリスとキティだ。一応、それぞれの相性を加味しての組み合わせだ。連携のしにくさとかがあれば言ってくれ。その都度調整する。今日は、これで休憩だ。明日に備えてくれ」


 アルビオ殿下の言葉に、皆しっかりと頷いた。明日から、新緑の森調査の本番が始まる。


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 翌日、サリア、ミリーさん、マインさんを本拠地に残して、私達は新緑の森第二十八層の調査を始めた。本拠地となる安全部屋をから左回りに私とキティさん、右回りにアルビオ殿下とライネルさん、中央付近をクロウさんとドルトルさんが調査する。


「新緑の森は、キティさんも来たことがあるんですよね?」

「ん。さすがに、ここまでは潜っていないけど」

「じゃあ、このメモを確認しつつじゃないと分かりそうにないですね」

「ん。でも、新緑の森は、基本的に全階層で変わった点がないって言われてる。だから、今までに見たことないものが、変わったものって事になる」

「なるほど」


 ダンジョンの特徴に関しては、私よりも長い間職員をしているキティさんの方が詳しい。そのキティさんによれば、このダンジョンは上層から下層まで、基本的に大きな変化がないらしい。それは、前のダンジョンでも同じだった。

 それに、事前情報で元々罠はないという事も分かっている。つまり罠があればそれが変化になる。注目する点は、今までに無かったもの。そして罠だ。


「う~ん、あまり変わった事は無さそうですね。あそこにスライムです」

「ん。必ず変化があるってわけじゃない。変化がある前提で、探すと余計に疲れるかも」

「なるほど」


 こんな話をしていても、キティさんはスライムの核を正確に射貫いた。


「あのスライムも、通常のスライムと同じですね。木々の生え方も、話に聞いたとおりですし」

「ん。ここは問題なし。もう少し先を調査したら戻る。時間も良い感じ」

「そうですね。他の皆さんも、特に問題なしだと良いのですが」

「ん」


 私達は担当区画の調査を進めていった。


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 アルビオとライネルも、アイリス達と同じく調査を進めていた。


「ここら辺も問題無さそうだな」

「そのようです」


 こちらでも、今のところ大きな変化は一切無かった。ライネルのパーティーは、ここを一度攻略しているので、ある程度どのようなものがあったか把握している。この面では、アイリス達よりも見つける可能性は高い。


「ライネルは、この編成で良かったと思うか?」


 アルビオは、今の調査分担が正解であったか、ライネルに問いかける。昨日、組み合わせを伝えたが、アルビオはあれで正解だったかが不安だった。通常の軍の編成であれば、ここまで悩んではいない。部下達の事はよく知っているからだ。

 だが、ライネル達の事は、詳しく知っているわけではない。それぞれの強さなどは把握しているが、どの組み合わせが有効的かは分からないのだ。


「私にも判断は出来かねますが、恐らくは良かったと思われます。アイリスとキティの組み合わせは、かなり有効だったかと。一番の不安点は、サリアですが、ミリーとマインであれば、問題なく補助出来るかと」

「そうか。それなら良い。後の問題は、アイリスの発作だな……」

「キティがいれば問題ないと聞いていますが」

「それで、完全に治まってくれるかどうかは分からんだろう。一応、注意しておく必要があるだろう」

「そうですね」


 二人は、こんな話をしながら周囲にいたゴブリンの群れを屠っていった。


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 クロウとドルトルは、広い森の中央付近を調べていた。


「ここら辺に水源があるはずだよな?」

「うん。えっと、あっちだね」


 調査範囲が広い二人は、適当に回るような事はせず、まずは特徴的なスポットを回ってみる事にしていた。その一つが、中央付近にある水源だ。ただ水が湧いているわけではなく、それが溜まり湖のようになっている。冒険者にとって水源は重要なので、こういう場所は地図に記されるのだ。


「特に変化無しだな」

「うん。水質が変化したみたいな感じもしない。周辺の魔物は?」

「今のところいないな」


 クロウとドルトルは、湖周辺を見て回っていき、途中で遭遇した犬が二足歩行をしているような魔物であるコボルトを倒していった。


「魔物の様子も種類も変わりないな。本当に、何か変化があるのか?」

「さぁ? それを確かめるために来ているんだし」

「そうだけどよ。このまま最後まで変化がなかったどうなるんだ?」

「この前の同時多発スタンピードが偶然起こった事になるんじゃないかな」


 ドルトルの言うとおり、このまま何も変化を見つけられなければ、同時多発スタンピードの発生原因が分からないままとなる。そうなれば、これから先、同時多発スタンピードの前兆を見逃し、また襲われる街が出て来る事になるのだ。

 それだけは、絶対に防ぎたい。その心持ちは調査に参加している全員に共通しているものだ。


「さてと、もう少し調査して戻るか」

「そうだね」


 クロウ達は念入りに調査を進めていくのだった。

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