第78話 新緑の森

 新緑の森の入口に着くと、アルビオ殿下が私達を呼び止めた。


「皆、止まってくれ。今から、新緑の森の調査方法を伝える」


 アルビオ殿下がそう言うと、緩んでいた皆の雰囲気が引き締まる。


「班ごとに分かれて、一層ないしは二層ずつ調査してもらう。班分けを伝えるぞ」


 アルビオ殿下は、自身の部下達をどんどんと分けていく。


「最後に、ライネル達とアイリス、キティ、サリア、俺の班は、二十八層から三十三層までを担当する。一番武力に優れているからな。少し多めになるが、我慢してくれ」


 班分けが終わると、最下層付近を担当する私達から先に中へと入っていった。


「殿下の部下の方々は、よく反対しないよね」

「まぁ、殿下の強さをよく知っている人達だからね。反対しても無駄みたいに思っているのかもよ」

「本人がいる場で、言いたい放題だな、アイリス」

「……ごめんなさい」


 ここは素直に謝っておくに限る。変に揉めることはないと思うけどね。そんな私を、クロウさんとドルトルさんが若干引き気味に見ていた。


「あの肝の据わり方はなんなんだ?」

「あんな風に堂々としていられるのは、多分アイリスさんくらいだよ」


 何だか失礼な感じがしたけど、きっと気のせいだ。そんなこんなで、新緑の森第一層に着いた。


「うわぁ……」


 そこは、この前調査したジメジメした感じの洞窟とは違い、透き通るような空気が流れる草原だった。


「洞窟みたいな入口だったのに、どうなってるの?」

「ダンジョンの中には空間が捻れているものもある。ここもその一つ」


 疑問に思っていたら、キティさんが説明してくれた。

 ダンジョンの特徴の一つで、入口からは想像もつかないような空間が広がっている可能性があるらしい。例えば、調査するダンジョンの一つである『燃え渡る大地』は、溶岩地帯のようになっているみたい。かなりの暑さみたいなので、水魔法や氷魔法に長けている人が調査に向かっている。


「向こうの方には森がありますね」

「ん。そこからが本番。ここは入口に過ぎない」

「ああ、新緑の森って言うくらいですもんね」


 私達は、森がある方へと移動していった。周りを見回しながら移動していったんだけど、草原には魔物の姿はなかった。


「魔物に関しても、森の中でしか出てこない。常に森が中心になって、且つ森が常に緑である事から新緑の森」

「へぇ~、お詳しいですね」

「これでも、アイリスの先輩。少しの知識くらいはある」


 キティさんは、耳と尻尾を揺らしながらそう言った。あまり表情に出てないけど、少し自慢げだ。


「キティの言うとおりだ。ここから、魔物が出て来るから、気を引き締めていけ」

「はい」


 ライネルさんからもそう言われたので、しっかりと切り替える。しばらく進んで行くと、ゴブリンが数体現れた。直後に、頭に矢が刺さって倒れていった。


「ん。兜がなかったら一撃」

「よくやった。基本的に遠距離から倒せる敵は、倒していってくれ。接近されるようであれば、俺達が対応する」

「ん」


 アルビオ殿下の指示は、この前のライネルさんと同じだった。これがダンジョン攻略の基本なのかもしれない。


「ここは、罠がないから、気にするものが減って良いですね」

「いや、そうとも限らない。今回の調査は、ダンジョンの変化を探るものでもある。今まで罠がないからといって、これからも罠がないとも限らない」


 アルビオ殿下がそう教えてくれた。また落とし穴とかあったら、本当に嫌なんだけどなぁ。


「今回は、罠の見逃しはしねぇ。安心しろ!」


 クロウさんが胸を張ってそう言った。この前の事を、まだ気にしていたのかもしれない。


「頼んだぞ、クロウ」


 アルビオ殿下がそう言うと、クロウさんは緊張しつつこくりと頷いた。


「殿下は、人の名前をすぐに覚えますよね? ある意味凄いです」

「上に立つ者として、当たり前の事だ。それだけで、士気にも繋がったりもするからな」

「そういうものなんですね。私には、縁のないものです」

「いや、ギルドで昇進していったら、今のカルメアと同じ立場になるんだから、縁はあるだろ」

「あっ……そういえばそうですね。私も指導係になる可能性があるんだ。まだまだ先の話だと思いますけど」


 自分には縁遠いものだと思っても、実際には、意外なところで繋がっていたりするんだ。アルビオ殿下の話で、その事を少し意識し始めた。

 私達は、新緑の森を順調に進んでいった。ここは既に攻略されているので、ほぼ完成している地図を使える。そのため、迷う事もなく最短距離で進める。この前の調査でも思い知ったけど、これが凄く大きい。


「地図は偉大だなぁ」


 サリアも同じ事を思ったようで、そう呟いていた。


「サリアもその内、自分でやることになるわよ。パーティーを組めば別だけど」

「パーティーの利点は、役割を分担できる事ですからね。サリアさんも、連携を取れそうな人を見つけたら、声を掛けてみると良いかもしれませんよ?」

「なるほど……考えてみます」


 サリアが、マインさんとミリーさんに助言を貰っていた。他の冒険者との関わりが、あまりなかったみたいだから、サリアには良い機会になるかもしれない。これを期に、色々と教えてもらった方がサリアのためになりそう。


(それとなく、お願いしてみようかな?)


 そんな事を思いつつ、私達は先を進んで行った。

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