第77話 大規模調査開始
アルビオ殿下の話の後、仕事を終えて家に帰った私は、二人に詳しい話をしないで、呪いを受けたことを話しただけだと説明した。
「ガルシアさんから聞いたみたいです」
「ガルシアもアイリスが心配。だから、情報を知っていそうな、殿下に頼んだ?」
「そうだと思います。でも、アルビオ殿下も劇的に変化するような情報は持っていなかったみたいです」
「王家は、教会と仲悪いもんね。じゃあ、結局は今と変わらない感じか……少しでも良くなると良かったんだけどね」
リリアさんはそう言って、私の頭を撫でる。
(うぅ……少しだけ心が痛いかも……)
本当の事を言えていない事に、心が痛む。でも、今はこれでいい。時が来たら、きちんと話すから。
「それにしても、いよいよ明日だね」
「そうですね」
「ん。準備万端」
この一週間の間で、私は仕事をしないといけなかったから、キティさんが調査の準備を進めてくれていた。
「じゃあ、明日に備えて、早めに寝ようか」
「そうですね」
「ん」
私達は早めに就寝することにした。今日は、リリアさんが抱きしめてくれた。その力は、いつもよりも強かった。私を心配してくれている証拠だ。私もリリアさんにぎゅっと抱きつく。
(絶対に帰ってこよう)
私は改めてそう決意した。
────────────────────────
翌日、準備したものを背負った私とキティさんを、リリアさんが見送りにきた。
「じゃあ、気を付けてね」
「はい。ちゃんと帰ってきますね」
「ん。今度こそ、大丈夫」
リリアさんは、私とキティさんを抱きしめてくれた。
「私も寂しいけど、お仕事頑張るね」
「そうだ。カルメアさんから聞きましたよ。仕事に身が入っていなかったって」
「うぐっ! だ、大丈夫だよ! 今回は、きちんとやるから!」
リリアさんは、少しだけ目を逸らしている。
「帰ってきたら、カルメアさんに確認しますね」
「ん。仕事はきちんと」
「はい……」
そんなやり取りをしていると、全員耐えきれなくなり、笑い声が溢れ出た。いつも通りの雰囲気になる。
「じゃあ、いってきます」
「ん。いってきます」
「いってらっしゃい」
リリアさんと手を振り合って別れる。そして、集合場所である街の外まで出てきた。
「人が多いですね」
「ん。大規模調査だから」
集合場所には、見たことないくらいの人がいた。その中から、随時調査に向かっていた。
「集合した人から出発している感じですかね?」
「ん。そう見える」
「私達も急いで、ライネルさん達に合流しましょう」
「ん」
私達は、ライネルさん達を探して歩き回る。十分程探し回って、ようやくライネルさんパーティーのミリーさんを見つけた。
「ミリーさん」
「アイリスさん、ちゃんと合流できて良かったです」
「人が多いですもんね。正直、会えるかどうか不安になりましたよ」
「そうですね。現状、想定以上の人が集まっているみたいですよ。アルビオ殿下は、人は多ければ多い程良いと決断していただいたようで、そうなったみたいです」
「そういえば、そんな風に聞いた気がします」
今回の大規模調査では、話を聞きつけた冒険者達が参加させてくれと言ってきたのだ。その結果、当初の予定よりも人数が増えた。アルビオ殿下も、早く終わる分には良いだろうと許可を出したのだ。
「あっ、アイリス、ようやく見つけた」
後ろから、サリアもやってきた。私達と同じく私達を探していたみたい。
「サリア、ちゃんと合流できて良かった。後は、アルビオ殿下だけだね」
「殿下は、ガルシアと最終確認を済ませてから来るとおっしゃっていたぞ。だから、俺達が最後に出立する事になるだろうな」
ライネルさんがそう言った。最終確認があるなら、仕方ない。でも、急いで合流した意味は、あまりなかったみたい。アルビオ殿下が来るまでは、待機だ。
「アイリスと一緒に冒険するのって初めてだよね?」
「そうだね。まぁ、私は冒険者じゃないから当たり前だけど」
「でも、小さい頃に街の探検はしたよね」
「ああ、あったね。遅くまで駆け回って、おばさんに激怒されたんだよね」
サリアと昔話に花を咲かせていると、ようやくアルビオ殿下がやって来た。後ろには沢山の兵士がいる。一緒に探索する仲間みたいだ。
「遅くなって悪かったな。早速出発するが、準備は良いか?」
「大丈夫です」
「問題ありません」
私とマインさんが、返事をした。荷物を背負った私達は、アルビオ殿下達と一緒に街を離れて、調査場所であるダンジョンに向かう。向かうダンジョンの名前は、『新緑の森』という。
「確か、ゴブリンが沢山いるんですよね?」
「ああ、基本的な魔物はゴブリンだが、他にコボルトとスライムが確認されているな」
「階層は、全三十三層で、ボスはゴブリンキングですね」
私の質問に、ライネルさんとミリーさんが答えてくれた。
「ゴブリンキングか……」
私は、少しだけ遠い目になる。同時多発スタンピードの時に、戦ったけど本当に強い相手だった。トレント・サハギンよりは弱かったけど。
「今のアイリスなら、敵じゃない」
キティさんがそう言ってくれる。
「ダンジョンボスを敵じゃないって言えるあたり、アイリスもおかしいよね」
「褒めてる?」
「褒めてない」
唐突に悪口を言われた私は、サリアを追いかけ回す。
「気が抜けているが、まぁ、移動時間ぐらいは良いか」
私達のじゃれ合いを見て、アルビオ殿下がそう言った。
「あんなアイリス、初めて見た」
「確か、幼馴染みなんだったわね。だったら、あなた達とは違う雰囲気になってもおかしくはないんじゃない?」
「まだ、遠慮があるって事?」
「というよりも、友人と家族の違いみたいにも思えますね。仲の良い友人には、あんな感じで巫山戯合えるのではないでしょうか?」
「私とリリアは家族?」
「一緒に暮らしているみたいだし、そう思っている可能性もあるわよね。後は、敬語が抜けたら、もっと家族に近づくんじゃないの」
「敬語……多分、無理。アイリスは、遠慮すると思う」
「でしたら、もっと仲良くなればいいんですよ」
「あの子と一緒に寝ているんでしょ? それ以上に仲良くなる方法なんてあるの?」
「さ、さぁ……」
「ん。取りあえず、頑張る」
「それが良いわね」
「頑張ってみましょう。私達に出来る事があったら、手伝いますよ」
「ん。ありがとう」
私とサリアがじゃれ合っている間に、キティさんがミリーさんとマインさんと何かを話していた。内容は聞こえなかったけど、表情が色々と変わっていた(他の人には分からないらしい)から、何か相談していたのかも。キティさんに仲の良い友達が出来たみたいで良かった。何の相談なのかは、少し気になるけど、キティさんが自分から話してくれるまでは、待っておこう。
そんなこんなで、私達は『新緑の森』まで移動した。これより、大規模調査が始まる。
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