第76話 アルビオ殿下の呼び出し
翌日、私はギルドの一室にいた。アルビオ殿下に呼び出されたからだ。今、部屋にいるのは、私とアルビオ殿下だけだ。内密な話なのかもしれない。
(何の話なんだろう?)
私は、そんな事を考えながら席に着いていた。
「態々呼び出してすまないな」
「いえ、私は構いませんよ」
そもそもアルビオ殿下からの呼び出しを拒否できる人は、そうそういない。まぁ、私は拒否できる人に入ると思うけど。アルビオ殿下からの誘いは断っているし。
「今日、呼び出したのは他でもない、お前自身の事についてだ」
「私自身ですか?」
思ってもみなかった内容に、少し驚く。
「ああ、ガルシアから聞いた。お前が呪いに掛かっている可能性があるとな」
「!!」
アルビオ殿下から呪いという言葉が出て来て、心臓がぎゅっと縮む感じがした。
「そこまで警戒しなくて良い。俺から誰かに話すということはない。お前にとっても知られたくない事だろうからな」
「ありがとうございます」
「ああ。それで、どこまで酷いものなんだ?」
ガルシアさんからは、呪いを受けたということしか聞いていないみたい。いや、私自身に確認を取っている可能性もある。ただ、どちらにせよ黙っている必要もないので、呪いについて話すことにした。
「私の呪いは悪夢なんですが、リリアさんやキティさんがいないと、よく分からない悪夢で眠れなくなります。それに、普通に生活していても発作的に悪夢の断片を見る事になります。この前のダンジョン調査の戦闘中にも起こりました」
「戦闘中にか……それは、どうにかして抑える事は出来ないのか?」
「一応、リリアさんやキティさんと一緒にいるときは、起こりにくいですし、お二人がいれば発作が起きても抑え込む事は出来ます」
「なるほどな……」
私から呪いの説明を受けると、アルビオ殿下は少し考え込み始めた。
「俺も呪いに関しては、あまり知識がないが、一つだけ噂で聞いた事がある」
「何ですか?」
呪いに関しての情報は、なんであっても喉から手が出る程欲しい。私の悪夢が消えれば、リリアさんやキティさんに迷惑を掛けなくて済むようになるからだ。
「呪いの改善方法だ」
「!?」
「落ち着け」
私は、思わず腰を上げて反応する。そんな私を、アルビオ殿下は手をかざして制止させた。
「期待させて悪いんだが、今よりも改善する事はない」
「そう……なんですか……」
私は思わず目に見えて落ち込んでしまった。
「すまないな」
「いえ。でも、呪いの改善方法ってどんな事なんですか? それを、私は無意識にやっているということですよね?」
アルビオ殿下が言っている事から、私はアルビオ殿下の知っている改善方法を実行している事になる。
「まさに、さっき聞いた話だ」
「私がリリアさん達と一緒にいることですか?」
「ああ。俺が知っている改善方法は、愛する者との接触だった。ただ、生半可な愛ではダメだと聞いたな」
「愛……」
思わぬ答えに固まってしまう。
「それは、私が愛する人ですか? それとも私を愛する人?」
「どちらでも可なはずだ。相思相愛であればある程、呪いへの抵抗が高まるとのことだ。話を聞くに、アイリスと共に暮らしているという二人は、お前の事が大好きなようだな。そして、その逆も然りというところか」
アルビオ殿下の言葉通りなのだとしたら、私とリリアさん、キティさんが愛し合っている事になる。
「リリアさんやキティさんの事は、大好きですけど……そんな愛しているだなんて」
「突然、滅茶苦茶早口になっているぞ。向こうからはともかく、お前の気持ちについては、図星だったみたいだな」
「殿下!」
「別にからかっているわけじゃないぞ。女性同士となると色々と障害はあるだろうが、まぁどうにかなるだろう。同性婚も重婚を禁ずる法は無いからな」
「だから……!」
私が続きを言おうとすると、アルビオ殿下が真剣な顔になり、口を噤むことになった。
「これは、お前のためでもあるんだ」
「私の……?」
まだ、アルビオ殿下から言われた衝撃が抜けてなくて、思考がまとまらない私は、アルビオ殿下の言っている事が、どういうことかすぐに理解出来なかった。
「いつか呪いが解けると考えているかもしれないが、それが、あと何年掛かると思う? お前が受けた呪いは恐らく上位、もしくは最上位に位置するものだ。教会が簡単に治すと思うか? 金のことしか頭にない奴等の集まりだぞ。それに、その呪いを解ける司祭や司教がいるとも限らん。そうなれば、お前はずっと呪いと付き合っていくことになる。ならば、今一緒に暮らしている二人と、結婚しておけばひとまずは安心だろう」
「……」
確かに、アルビオ殿下の言うとおり、実際に教会が頼りになるかは分からない。それに、もしリリアさんやキティさんと離れて暮らすようになってしまえば、また悪夢に魘される事になる。
(それなら、二人と結婚して、ずっと一緒に暮らせれば……)
つい昨日、リリアさん本人にも、ずっと一緒にいたいと言った。でも、あれは、結婚を意図した発言じゃない。それに、突然結婚したいって言ったら、向こうも戸惑うだろうし、慎重にならないといけない気がする。
「考えておきます。気軽に決めて良いことでもないですから」
「それはそうだな。だが、前向きに検討しておいてくれ。こっちから教会に働きかけることは出来ないからな」
「はい。そうします」
「話はこれだけだ。次の調査では、活躍を期待している」
「はい。失礼します」
私は、アルビオ殿下と別れて、部屋を出て行く。
いい話を聞けたとは思う。私の呪いにリリアさんとキティさんが効果があって、アンジュさんが効果無かった理由。呪いに唯一抵抗出来るもの。それは、愛の力だった。ただ、これは呪いに抵抗出来るだけ、根本的な解決には至らない。
(リリアさんとキティさんには、まだ話さないでおこう。これを話しちゃうと、二人とすぐに結婚するって言ってくれそうだし……いや、さすがにそれはないかな。きちんと考えてはくれそうだけど)
私は、そう考えつつ仕事に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます