第71話 領軍との戦い(2)

 最初の状態に戻った戦闘は、私の方からではなく領軍の方から攻撃してきた。領軍の戦法は、前方に盾を固めて、魔法での遠距離攻撃を中心の攻撃だ。魔法を『グロウ・フィールド』で防ぎ続けるのも無理があるので、ここは動き回り的を絞らせないことにした。【疾風】と【俊敏】の効果によって素早く動いていく私に、領軍の魔法は一度も当たらない。【疾風】で急停止と急加速をすることで、翻弄することが出来たっていうのが大きい。


「使用魔法を範囲魔法に変更してください! 点での攻撃から面での攻撃にするんです! 相手の逃げ場を無くせば、こっちにも勝機はあります!」


 ここで、ようやく次の指揮官が誰か分かった。その人は、私も知っている人だった。この前、ガルシアさんとの話でも名前が出たアミレアさんだ。学校の指導員として来た事があったけど、かなり優秀な人だった。こんな田舎でくすぶっているのが、不思議なくらいに。アミレアさんは、盾の後ろで的確に指示を飛ばしている。狙い撃とうにも盾持ちが邪魔だ。それに、面での攻撃に変更されたら、いずれこっちも逃げ場を失ってしまう。


「厄介だな……」


 私は、纏う風を最大にしながら動き回る。そうすることで、砂埃を大きく立てていき、私の姿を隠していく。向こうにも多少の動揺があったけど、すぐにアミレアさんが鎮めていく。


「結局のところ、面攻撃をしてしまえば、見えなくても関係ありません。狼狽えずに、盾をしっかりと構えてください」


 そう、例え私の姿を確認出来なくても、フィールドの範囲が決まっている以上、逃げ場は限られている。その全てを埋められたら、必ず命中する。でも、魔法が届かない場所も、ちゃんとある。それは……


「正面! 『フォートレス・ガード』を展開!!」

「「『フォートレス・ガード』!!」」


 領軍は、正面の守りを完全に固める。領軍の魔法を避けるには、敵の内側に潜り込むしかなかったのに、これだと踏み込むことが出来ない。だから、無理矢理こじ開ける。さっきよりも多くの人が防御力を上げているので、相乗効果は高くなっていくはず。あれなら、そう簡単に死ぬことはないはず。私が握っている雪白に、白い光が集まって輝き出す。


「『グローリアス・シャイン』!!」


 光を纏った雪白で薙ぎ払う。横方向に広がった光の斬撃は、盾を構える領軍に命中した。トレント・サハギンに放った時よりも溜めがないので、威力自体は下がっている。それでも、盾を持った領軍を吹き飛ばすくらいの威力はあった。そうして生まれた隙間に身体を入れて、攻撃を加えていく。


「『グロウ・インパクト』!!」


 崩れてしまった相手の防御陣形に、さらに穴を開けるべく突き進む。白い爆発が起こり、領軍の人達が飛ばされていく。一旦、陣形が崩れてしまえば、立て直すには少し時間がいるはず。その時間で、数を減らさないと。僅かながらに動揺している領軍の懐に入って、次々に飛ばしていく。鎧を着ているので、単純な斬撃じゃ通用しない。相手の身体に衝撃を与えるように、連続して『グロウ・インパクト』を繰り出していく。そこに、武闘術のアーツである『衝打』や『爆打』も織り交ぜる。そうして、アミレアさんの場所までの道を開いていく。アミレアさんも戦いを覚悟したのか、剣を抜く。

 アミレアさんと剣を交えようとすると、その両端から、槍を持った領軍の二人がこちらに走ってきた。その人達は、そのままの勢いで、私に向かって槍を突き出してきた。片方の槍を雪白で弾き、もう片方の槍の柄を掴み、引っ張って振り回す。持ち主は、槍を取られまいとしっかり掴んでいる。それは、こっちにとっては都合が良かった。その人ごと振り回して、近くにいた領軍の人にぶつけていく。


「ぐあっ!」


 仲間にぶつかった衝撃で、槍を握っていた手が離れたみたいだ。敵から奪った槍を肩に担ぐ。


「『ホーリー・ジャベリン』!」


 集まっている領軍に向けて、光を纏った槍を投げつけた。領軍は、慌てて盾を構えて受け止めている。後ろで支えてくれている領軍がいるおかげで、何とか受け止めているという感じだ。私は、そこからすぐに視線を外して、槍を弾いた方の領軍の元に向かう。領軍は、すぐに槍を構え直して、薙ぎ払ってきた。私は、後ろに引くことはせず、前傾姿勢になって前に進んで行く。結果、領軍が薙ぎ払ってきた槍は、私の頭の上を通過する。


「『爆打』!!」


 槍を持っている方の手に向けて放った拳で、小規模の爆破が起きる。その衝撃で、領軍の人が槍を落とす。その人の背後に回り、膝に蹴りを入れて跪かせる。その後頭部に蹴りを打ち込むことで、気絶させた。そこに、アミレアさんが斬り掛かってきた。その剣を、すぐに雪白で受け止める。


「今も昔も優秀ですね」

「今はともかく、昔は不真面目だったと自覚していますが」

「授業への姿勢としては、そうでしたね。でも、やるときはやる方だったと思いますよ」

「それは、成績のために頑張ったやつですね」


 この短い会話の中で、私達は激しく打ち合っていた。互いの立ち位置を変えながら、幾度も幾度も刃を交えていく。その攻防が激しかったからなのか、周りの領軍は囲むだけで援護をする事が出来なかった。

 アミレアさんは、この領軍の中でも一番優秀な人みたいだ。でも、なんで今まで動かなかったんだろうか。ちょっと、疑問に思う。


「あっ……」


 少し思考に意識を持っていかれたせいで、アミレアさんの攻撃への反応が遅れてしまった。私の手から雪白が飛ばされてしまう。


「これで終わり……っ!?」


 いきなり突き出された天燐に、アミレアさんは素早く反応して、大きく後ろに下がった。


「それが、例の宝級武器ですか……」


 私は天燐を構えて、アミレアさんに向かっていく。


 ────────────────────────


 アイリスと領軍の戦闘が激化していっている最中、スルーニアに来客があった。


「ん? 久しぶりに来れば、騒がしいな。何事だ?」

「何でしょうか。調べますか?」

「いや、直接向かえば良いだろう」

「はっ、畏まりました」


 アイリス達が戦っている学校に、煌びやかな誰かが向かっていた。

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