第72話 予想外の乱入
天燐を使い、アミレアさんと打ち合っていると、私達の動きに段々と目が慣れたのか、他の領軍の人達も攻撃をしてくる様になった。ただ、アミレアさんに当たらないようにしないといけないから、攻撃の密度は濃くない。これを利用しない手はない。アミレアさんに離れないように、攻撃を続ける。
「槍の腕前も一流以上ですね。さすがは、最上位スキルの持ち主です」
「お褒めいただき光栄です」
正直なところ、ここで雪白を手放されたのは痛い。この状況では、アミレアさんから離れる事は出来ないので、雪白を取りに向かう事が出来ない。
「『ホーリー・クリーブ』!」
白い光を纏った天燐が、背後から攻撃をしようとしてきていた領軍を吹き飛ばしていく。後ろを振り返った私に、アミレアさんが斬り掛かる。私は、天燐を地面に突き刺して、身体を持ち上げる事で剣を避ける。空中にいる状態で、天燐を引き抜く。
「『ホーリー・スコール』!」
白い光を纏った天燐がアミレアさんに向かって、連続で突き出す。雨のように降り注ぐ光鱗の突きをアミレアさんは、剣とステップで必死に防いでいる。私の
「『スラッシュ・バスター』!!」
アミレアさんが振りかぶった剣に青いオーラが纏わり付き、振り下ろしたと同時に私に向かって青い斬撃が放たれた。
「『ホーリー・シールド』!」
白い光を纏った天燐を回転させて、白い盾を生み出す。そこに、アミレアさんの
「一度下がってください!」
領軍の人達がアミレアさんに向けてそう言った。ずっとアミレアさんが私の攻撃を引き受けていたから、今度は代わりに自分達がと考えたんだと思う。そうして、休憩を取ることで、戦闘を継続させやすくしているんだ。すぐに領軍に囲まれる。
(アミレアさんを倒せなかったのは痛いかも……)
結構追い込むことが出来たと思っていたんだけど、逆にこっちが追い込まれているのかもしれない。油断なく天燐を構えていると、周りが騒がしくなってきた。でも、私を囲んでいる領軍が騒がしくなっているわけではなかった。さらに、その後ろにいる観客が騒がしくなっているんだ。
ちょっと気になるけど、今の私にその原因を見る余裕はない。意識から切り離して、領軍と戦おうとすると、今度は領軍の人達までざわめき始めた。そして、次々に膝を突き始める。アミレアさん達の顔も青くなっているように見える。
「?」
一人だけ原因の分からない私は、後ろを振り返る。すると、視線の先に、煌びやかな服を着た青年が歩いてくるのが見えた。青年は、短めに揃えたプラチナブロンドの髪と透き通るような碧眼をしている。その姿を見て、私もすぐに膝を突く。
「いい。楽にしろ」
青年がそう言って五秒ほどしてから、皆が頭を上げていく。そこに、高みの見物をしていた領主が走ってきた。
「こ、これはこれは、アルビオ殿下、このような辺境までいらっしゃって頂きありがとうございます!」
そう。突然現れた青年は、このガルレリオ王国の第二王子アルビオ・ガルレリオ殿下だ。
「こ、このような場所では何ですので、ぜ、是非、我が屋敷にお越しください!」
「貴殿に呼ばれた覚えはない。そのようなもてなし受ける意味もない」
「で、では、態々、ここまでどのようなご用で……」
「それも分からないのか。貴殿に処罰を与えるためだ」
アルビオ殿下がそう言うと、領主は顔を固めた。
「しょ、処罰……?」
「身に覚えがないとでも言うのか?」
「うぐっ……!」
領主は、脂汗をかいていく。アルビオ殿下が言っているのは、恐らくついこの間あったスタンピードの対処の事だと思う。
「それに、この騒ぎはなんだ? 何故、領軍の全員と一人の女性が戦っているんだ?」
「そ、それは……あの小娘への罰です!」
「ほう? そうか。それについては後で聞こう。こいつを捕らえろ!」
アルビオ殿下の命令で、傍にいた兵士が領主を捕らえる。領主は少しだけ抵抗したが、アルビオ殿下が睨むと大人しく拘束された。
「さて、お前らにも色々と話を聞かないといけないな。その前に、どこまで腕を上げたのか見てやろう。続けるといい。ただし」
アルビオ殿下は、そう言いながら傍らに落ちていた私の雪白を拾い上げてこっちに近づいてくる。
「俺は、こちら側につく」
アルビオ殿下が私に雪白を渡した後、背を向ける。つまり、私の味方になるということだ。
「ア、アルビオ殿下が相手……」
領軍の間に、動揺が広がる。実は、アルビオ殿下には、この国の王子の他にもう一つの顔がある。それは、王国の軍部の頂点である軍部大臣を務めている。それは、王子という立場からそこに就いているわけじゃない。アルビオ殿下の実力が認められた事によって、その任に就いている。つまり、戦闘能力はかなり高い。そのことを知っている領軍達はどんどんと気後れしていく。そんな中、アミレアさんだけが、剣を構えた。
「アミレアだけは、やる気になったか。丁度いい。アイリスは、アミレアを頼んだ。俺は、この臆病者達を叩き直しておく」
「は、はい」
私は天燐を仕舞って、雪白を構える。そして、背中合わせにアルビオ殿下が剣を構えるのが分かった。私とアルビオ殿下は同時に地を蹴った。私は、アミレアさんに向かって斬り掛かった。さっきまでは、領軍の人の援護とかもあったから、かなり苦戦したけど。周りを気にしないで、一対一で戦えるなら話は別だ。アミレアさんは、トレント・サハギンと同等の強さを持っているため、若干苦戦するけど倒せない相手ではなかった。
「降参です。本当に強いですね」
「いえ、アミレアさんも手強かったですよ。でも、私達よりも……」
私とアミレアさんは、周りに目を向ける。そこには、アルビオ殿下一人に叩きのめされた領軍の人達の姿があった。
「あっちの方が、大変だったみたいですけど」
「そうですね。それにしても、まさか殿下がこちらにお越しになるとは思いませんでした」
私達の方に、剣を仕舞ったアルビオ殿下が歩いてくる。
「さすがに、あの報告を受ければ来ざるを得ないだろう。それに他にも色々要件があってな。本当は代理でも良かったんだが、ついでにアイリスを勧誘しようと考え、自ら来たわけだ」
「申し訳ありませんが、私はギルドの職員になったので、ご希望には添えません」
「またフラれたか。まぁ、諦めずに挑戦するしかないか」
アルビオ殿下は、何度か学校の指導員として来ているので、私の事も知っている。アルビオ殿下は、私が授業で手を抜いて戦っている事を一発で見抜いてきた。それで興味を惹かれたのか、私のスキルを調べたらしく、それから何度も軍に誘ってきている。その度に断っているんだけど、まだ諦めてくれないみたいだ。
「まぁ、直接来たおかげで、細かいことを知れたのは僥倖だな。取りあえず、ここの領軍は鍛え直す必要がありそうだ」
アルビオ殿下がそう言うと、領軍の人達は震え上がった。
「ガルシア! こっちに来い!」
アルビオ殿下は、私達を見ていたガルシアさんを呼び出した。ガルシアさんは、すぐに駆け寄ってくる。
「お久しぶりです、殿下」
「ああ、久しぶりだな。ガルシアにも色々と話がある。厄介ごとだがな」
「なるほど。では、ギルドに向かいますか」
「ああ。そいつは、王都に連行しろ」
アルビオ殿下は、兵に命じて領主を連行させた。
「この騒ぎの発端も聞きたい。アイリスとアミレアもついてこい」
「「は、はい」」
私とアミレアさんは戸惑いながら返事をした。そして、アルビオ殿下達とギルドへと向かった。
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