第41話 受付復帰

 そして、三日の時が流れた。リリアさんとの睡眠試験の結果、一人で寝るのと、リリアさんと一緒に寝るのとじゃ、雲泥の差がある事が分かった。追加の試験で、アンジュさんと一緒に寝たけど、全く効果がなかったから、リリアさんのように、私が安心感を抱いている人じゃないといけないのかもしれない。アンジュさんは、お医者さんという意識が強くて、別の意味の安心感しかないから、ダメだったのかも。


 退院前の最後の検査も終わったので、私は、今日退院することになった。キティさんは、昨日の夜に、ちゃんと声を出せるようになったばかりなので、まだまだ退院出来ない。なので、病院を出る前に、挨拶に向かった。


「こんにちは、キティさん」

「ん……」


 声を出すことは出来ているけど、かなりか細い。一ヶ月くらい一切声を発してなかったから仕方ないのかもしれない。


「無理に声を出さなくてもいいですよ?」

「ううん……少しでも……早く……元に……戻したい……から……」

「それは分かりますけど、あまり無理はしないで下さい」

「ん……アイリスは……退院……?」


 キティさんは、ベッドに寝たまま首を傾げる。


「はい。ようやく許可が出ました。色々な問題はありますけど、どうにかやっていけそうなので」

「そう……? じゃあ……がんばれ……」

「はい!」


 キティさんは、笑顔になりながら応援してくれた。それだけで、ものすごく元気が出る。キティさんと過ごしたのは、たった二日だけど、その期間で培える以上の絆があった。一緒に死線を潜ったのが、大きいんだと思う。その後は、少しだけ他愛のない話をした。キティさんと話したかったことが沢山あったから、ずっと話題には、困らなかった。


「じゃあ、またお見舞いに来ますね」

「ん……また……」


 私は、キティさんの病室から出て行く。そして、何週間かぶりに、リリアさんの待つ自宅へと戻った。


 ────────────────────────


 それから、また一ヶ月の時が流れていった。キティさんの機能回復訓練も順調に進んで、もうすぐ退院出来るみたい。私もギルドの受付に復帰することになった。これは、リリアさんと同居を始めた事が大きい。悪夢を見る確率が、かなり減ったからだ。そう、減っただけ。この一ヶ月間で、一度だけ悪夢を見てしまった。すぐに、リリアさんが起こしてくれたけど、ショックが大きかったのも事実だ。その日だけは、ギルドを休ませて貰った。


 アンジュさんに診てもらって、状態そのものは、問題ないという診断を受けた。ただ、呪いが最上級に強いので、リリアさんという薬がいてくれても、悪夢を完全に抑えることは、難しいみたい。こればかりは、解呪されるその日まで、耐えるしかないみたい。


 私が受付に復帰したのを、冒険者の皆さんは、すごく喜んでくれた。復帰した日には、私が担当する場所にだけ、長蛇の列が出来ていたぐらいだ。皆さん、依頼を受注している間に、色々と話してくれた。皆さん、本当に心配してくれていたみたいで、最初に聞かれるのは、傷は大丈夫かということだった。この長蛇の列も、気が付いたカルメアさんがやってきて、冒険者の皆さんを叱った事で、解散となった。そんな中、ライネルさんとミリーさんが、一緒に受付に来てくれた。


「ライネルさん、ミリーさん、あの時は、ありがとうございました」

「傷も後遺症もないようだな」

「はい。ミリーさんのおかげで、内臓や骨も無事に元通りになりました」

「間に合ったようで良かったです」


 病室にいる間に、私に応急処置してくれたのがミリーさんだと言うことを聞いた。さらに、私の救出のためにライネルさんの部隊が来た事も聞いた。本当に迷惑を掛けてしまった。この借りはきちんと返さないといけない。


「私に出来る事があれば、言って下さい。出来る限り、なんとかしますから」

「気にするな。俺達もやるべき事をしただけだ」

「そうですよ。こうして、復帰して頂けただけで、十分です」


 ライネルさんもミリーさんも、同じように、気にするなと言う。恩を売るためにやったわけじゃないからかな。


「それでもです。職員として、皆さんを支えるのが仕事ですから」

「そうか。なら、何かあったときには、頼むとしよう」

「それじゃあ、早速、依頼の受注をお願い出来ますか?」

「はい!」


 しばらくやっていなかったから、少し衰えてはいるけど、問題なく受付の作業をこなしていく。そうして、受付の作業をこなしていると、カルメアがやって来た。


「さっきまでの、行列はなくなったようね」

「はい。問題は無いですよ」

「作業に問題は無くても、久しぶりの受付で疲れたでしょ? そんな中悪いんだけど、ギルドマスターから呼び出しよ。作業を中断して、ギルドマスターの部屋に向かってくれる?」

「分かりました」


 私は、受付から離れて、ギルドマスターの部屋に向かった。

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