第35話 光の柱

 アイリスが、ゴブリンキングと戦う少し前、門の前に多くの冒険者達を率いたガルシアが立っていた。スタンピードが起こったダンジョンは、街の西側に集中していた。そのため、街の冒険者達も、全て西側に集まっている。


 冒険者達は、五部隊に分けられており、中央に第一部隊、その左に第二部隊、右に第三部隊、左端に第四部隊、右端に第五部隊となっている。平原に近いのが第五部隊。森に近いのが第四部隊だ。


 全員が、進軍してくるであろう魔物の群れを警戒していると、森の中から小さな影が飛び出してきた。第四部隊がすぐに反応する。


「待て!」


 武器を抜きかけた第四部隊は、ガルシアの声で動きを止める。ガルシアが静止したのは、飛び出した影が魔物ではないと見抜いたからだった。


 そう。森の中から飛び出してきたのは、アイリスが救助にいったニーアだったのだ。アイリスからもらった防具を羽織ったまま、息を切らして走ってきていた。アイリスの言うことを聞いて、全く振り返らずに、一直線にここまで来たのだ。


 第四部隊にいたサリアが飛び出して、ニーアを保護する。サリアは、ニーアを安心させるためにぎゅっと抱きしめる。ニーアも縋り付くように、サリアにしがみつく。


「この服……確か、街を出る前に、アイリスが着ていた……」

「ぐすっ……ひぐっ……」


 ニーアは、サリアが保護する前から、泣きじゃくっていた。涙を流しながら走ったのだ。


「大丈夫? 怪我はない?」


 サリアは、アイリスの事を問い詰めたいという欲を抑えて、ニーアの身体の状態を訊く。見た感じでは、傷はないように見えるが、自分の身体は自分でしか分からない。


「だい……ひぐっ……じょう……ふぐっ……ぶ……」


 ニーアは、しゃっくり混じりにそう言った。


「でも……ぐすっ……お姉ちゃんが……ひぐっ……」

「お姉ちゃんって、アイリスの事だよね?」


 サリアの確認に、ニーアはこくりと頷いた。まだ、ニーアは何かを言おうとしているが、上手く言葉にまとまらないようだ。色々な事があったので、整理がつかないのも仕方ない。だが、ニーア一人で来たことと、ニーアにアイリスの防具が掛けられていることで、サリアは、ニーアが言わんとしている事を察した。


「もしかして……アイリスが、まだ戦ってるの……?」


 ニーアはこくりと頷くと、大粒の涙を再び流し始めた。


「助けに行かないと……」


 サリアは、ニーアを抱え上げると、部隊の方に戻っていく。


「ライネルさん!」

「どうした?」


 第四部隊の代表であるライネルが、サリアに問いかける。


「この子、アイリスが、捜索に向かった子のようです。それで、この子を逃がすために、アイリスが一人でまだ戦っているみたいなんです」

「そうか……取りあえず、すぐに保護してもらおう。後は、ギルドマスターに連絡をしてくれ」

「その必要はない」


 ライネルが、他の冒険者に指示を出すと、同時にライネルの後ろにガルシアが来ていた。


「その子は、すぐに親の元に連れて帰ろう。ギルドに案内してやってくれ」


 ガルシアは、自分に付いてきていた冒険者の一人に、ニーアを預けて、ギルドに向かわせた。ギルドにいるカルメアに伝えれば、ピアニャの元に連れて行って貰えるはずだからだ。


「第四部隊は、すぐに森の中まで進軍だ。アイリスが戦っているということは、スタンピードの主力部隊が来ている可能性が高い。取り返しの付かない事が起こる前に、アイリスを救出してくれ」

「分かった。すぐに、出発だ!!」

『『おう!!』』


 ガルシアの指示で、ライネル達、第四部隊が森の中に進んでいった。


「良かったのですか?」


 ガルシアに付いてきていた冒険者の一人が、そう訊いた。


「スタンピードが、既に起こっていて、アイリスが全てを押しとどめてるなら、すぐに援軍を出さないといけない。スタンピードを一人で殲滅するなんて、くらいしか出来ないしな。本音を言えば、俺が行きたかったところだが、ここを守らないといけないからな」


 ガルシアは、何でもない風にそう言っていたが、その表情には苦渋が張り付いていた。そのことを、冒険者が追及することはなかった。


「敵襲!!」


 いきなり、第五部隊の方で、そう声が上がった。続けて、第三、第二からも声が上がる。


「魔物を一匹も通すな! 前衛は、魔物の進軍を食い止めろ! 後衛は、範囲攻撃で攻撃していけ!」

『『おう!』』


 ガルシアは、冒険者達に指示を飛ばした。冒険者達は、指示通りに動き、魔物を次々に倒していく。


「第一部隊の方からも、魔物が来ました!」

「同じく対応だ! 俺も前に出る。敵を殲滅していくぞ!!」


 ガルシアは、人の身長程もある大剣を担いで、戦場に向かおうとする。すると、森の方で、光の柱のようなものが天に上がっていった。冒険者だけでなく、魔物達もその光を見上げる。


「ま、まさか、『グランドクロス』か……?」


 ガルシアは、愕然とした。アイリスの両親と一緒のパーティーを組んでいたからこそ分かる。あれは、アイリスの母親が得意としていた技。その修得には、苦労したと聞いていたのだ。アイリスの母親が、アイリスと同じ歳の時は、使う事なんて出来なかったはずだ。


 ガルシアは、首を振って前を向く。今は、そっちに気を取られている場合ではないからだ。


(アイリス……生きててくれよ……)


 ガルシアは、目の前にいる魔物達の群れに突っ込む。その後に続いて、冒険者達も突っ込んだ。呆然としていた魔物達も、反撃に移る。

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