第31話 ニーア捜索

 街の外に出るための門に向かうと、多くの冒険者達がいた。その中には、サリアの姿もあった。私がサリアを見つけると、向こうも私の事を見つけた。


「アイリス!?」

「お疲れ、サリア。これから、大変だと思うけど、無理しちゃダメだよ」

「そんな事より、何でこんなところに、そんな格好でいるの!?」

「外に出ちゃったかもしれない子供を捜しに行くんだ」


 私がそう言うと、サリアは、少し迷いを見せた。


「なら、私も……」

「ダメだよ。サリアは、ここで街を守らないと。それが、サリアの仕事でしょ?」

「それは、そうだけど……」


 サリアは、ニーアちゃん捜索に、自分も付いていこうと言おうとした。迷いを見せたのは、私の言った事を、自分でも意識したからだと思う。


「私は、私の仕事をするから、サリアは、サリアの仕事をして。それと、お互いに無茶をしないようにしよ」

「分かった。本当に無茶しないようにね」

「うん」


 サリアと約束をしてから別れて、今度こそ門の外に出ようとする。その寸前で、前に誰かが立ち塞がった。


「ライネルさん?」

「ギルドマスターの使者から、話は聞いた。何かあったら、門まで走れ。どうにかする」


 ライネルさんは、真面目な顔でそう言った。まぁ、普段から無表情だから、いつも真面目な顔なんだけど。でも、ライネルさんがそう言ってくれると頼もしい。


「分かりました。その時は、お願いします」

「ああ、気を付けてな」


 ライネルさんはそう言うと、別の冒険者の元に向かった。私は、門の前に立つ。少しだけ手が震える。やっぱり、少しだけ怖いのかもしれない。

 一度、深呼吸をして、身体を落ち着かせる。そして、ポケットの中に入れておいた花の髪飾りに触れる。


 大丈夫。私には、リリアさんとキティさんがいる。


 私は、意を決して街の外に出た。


 ────────────────────────


 ニーアちゃんを捜すために、まず平原に赴いた。スタンピードで、魔物がいつこっちに来るか分からないので、常に全力で走り続ける。


「ニーアちゃ~ん!!」


 呼び掛けに答える声はない。平原だから、私の声は遠くまで響いていくはず。ここにはいないって事なのかな。


 何度も呼びかけていたせいか、少し遠くにいる魔物に気付かれた。この辺りに多く生息しているシルバーウルフだ。どうやっても戦うしかない。少し身体が震える。だけど、シルバーウルフは、一人でも倒した相手だ。ここで、怯えてたら、ニーアちゃん救護なんて出来やしない。


「ふぅぅ……絶対に屈しないんだから!!」


 私からも向かっていく。その過程で雪白を抜く。シルバーウルフの数は、七匹。素早く終わらせる!


 まず最初に、飛びかかってきた一匹の前脚の後ろ辺りを深々と斬り裂く。それによって魔石を壊されたシルバーウルフは、灰へと変わる。続く二匹目も身体を両断して、三匹目、四匹目の核を貫き、同時に飛びかかってきた五匹目、六匹目を斬り裂き、最後の一匹の頭を貫いて、絶命させた。


「はぁ……はぁ……」


 あの時は、キティさんの援護があったけど、今回は全部一人でやった。だからか、あの時よりも疲労が激しい。いや、もしかしたら、別の要因もあるかもしれない。やっぱり、完全な克服は出来ていないみたい。でも、魔物と戦えるのが分かったのは、上々だと思う。


「疲れてばっかいられない。ニーアちゃんを捜さないと。これだけ呼び掛けても出てこないということは、平原にはいない。じゃあ、森の中かな?」


 私は、依頼書の複写で書いたことがある薬草の採取依頼の内容を思い出す。そこに書かれていたのは、平原や森の中に生えている事が多いとのことだった。森の前に平原に来たのは、見晴らしがいいので、こっちの方が見つけやすいと思ったからだ。


 そして、平原にいないとなれば、次に考えられるのは森の中ということだ。


 ────────────────────────


 森の中に踏み込むのは、門を抜けるよりも緊張した。森の中は、あの事件が起きた現場なので、ショックが強いんだと思う。ポケットの中のリリアさんの花飾りがなければ危なかったかもしれない。


「ニーアちゃ~ん!! どこにいるの!? ニーアちゃ~ん!!」


 声を張り上げて捜しているけど、中々見付からない。


「ここにも、いないのかな……街にいるんなら、良いけど……」


 森の中は、平原よりも魔物の数が少ないみたいで、今のところ会敵はしていない。木の上や地面に痕跡がないかも簡単に確認しているが、未だ見付かっていない。


「前と同じ……?」


 今の状況が、どうしても前の出来事を想起させる。周囲を警戒しつつ前に進んでいく。そして、一つの痕跡を見つけてしまった。あの時と同じ、でも別の木の幹に刻まれた四本線を……


「嘘……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ、はぁはぁはぁ」


 動悸が激しくなっていく。嫌でもあの時の事が過ぎってしまう。それに誘発されるように、悪夢が蘇ってきた。


 血の気が引き、身体の末端が震えていく。それは、段々身体全体に及んでいった。自分の意思とは関係なく、涙がこぼれ落ちていく。恐怖に身体が支配されていく。


 思わず、身体をかき抱く。近くの木に身体を預けて座り込む。段々と過呼吸になり始めようとした時に、ポケットの中の感触に意識が向いた。震える手でポケットの中を探り、花の髪飾りを取り出す。その花の髪飾りを両手で握った。


「大丈夫……大丈夫……お願い、リリアさん、私に勇気を分けて……」


 花の髪飾りの効果なのか、段々と震えが止まっていく。呼吸も楽になり、落ち着いてきた。しかし、悪夢はしつこくこべりついている。


 もう少し落ち着きたいと思っていると、森の中から子供の悲鳴が聞こえた。悪夢は、脳裏に残っている。今も蝕んできているのが分かる。でも、ニーアちゃんを放っておく事なんて出来ない。


 私は、立ち上がって、すぐに駆け出した。最悪の未来を、阻むために……

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