第11話 周辺調査(2)

 シルバーウルフ達は、私達を敵と認めると、立ち上がりつつ威嚇してきた。


「アイリスは、近づいて来たシルバーウルフを倒して。私は、先制攻撃をする」


 キティさんは、そう言いつつ、弦を引き絞る。すると、弓に魔力で出来た矢が番えられた。そして、すぐに狙いを定めると、指を離し矢を飛ばす。通常の矢よりも速く飛んでいった魔力の矢が、シルバーウルフの頭を貫いた。


 スキル【弓術】。弓による攻撃の精度、威力を上昇させる。

 スキル【魔力矢】。大気の魔力あるいは、自身の魔力を矢に変換する。


「次」


 キティさんは、二射三射とシルバーウルフの頭に矢を当てていく。仲間を次々にやられたシルバーウルフ達は、鋭い牙を剥きながら、詰め寄ってくる。


「行きます」

「ん」


 それに合わせて、私もシルバーウルフ達に詰めていく。私目掛けて飛びかかろうとするシルバーウルフに合わせて、身体を少し沈めて、下から雪白を振り上げて、首を斬り飛ばす。


 スキル【剣姫】。女性専用スキル。剣による攻撃の精度、威力を大幅に上昇させる。剣系最上位スキルの一つ。


 斬り飛ばしたシルバーウルフには、目もくれず、次のシルバーウルフに向かっていく。両斜め前から飛びかかってくるシルバーウルフに対して、まず右側に移動して、右のシルバーウルフを両断。流れるようにステップをして、左側のシルバーウルフの心臓、つまり魔石に剣を突き刺す。貫かれたシルバーウルフが、灰へと変わる。


 スキル【剣舞】。軽やかな動きで、舞うように剣を振う。回避と攻撃を合わせて行える。


 最後の一匹が、背後から襲ってくるが、その頭に矢が突き刺さった。


「お疲れ。アイリス、強いね」

「キティさんの援護があるからですよ。おかげで、私も安心して踏み込めます」

「ん」


 キティさんの耳が嬉しそうに動く。


「取りあえず、魔石を取り出す」

「はい。あっ、すみません。一匹の魔石、思いっきり貫いてしまいました……」

「ん。仕方ない。残っている魔石だけでも回収して」

「はい……」


 シルバーウルフの心臓部分を、小さなナイフで切り開いて中の魔石を取り出す。私が二匹取り出し、キティさんが四匹取りだした。経験の差なのか、取り出す早さが違う。


 魔石を取り出したシルバーウルフの身体が灰になった。七匹いたシルバーウルフ全てが灰になると、二匹分だけ、牙の一部が灰に混じっていた。


「魔物の落とし物。灰になりきれなかったもの。私達の装備の材料になる」


 牙を拾い上げると、キティさんが説明してくれた。魔物の魔石を取り出す、あるいは破壊すると、確率で灰にならない素材が落ちる。魔物が灰になる理由は、よく分かっていない。心臓と同じ役割を果たす魔石に秘密があるとされているが、研究機関でも答えが出せないらしい。


「はぁ……」


 私は、自分の不注意で一匹の魔石を砕いてしまったことを反省していた。魔石自体が、色々な道具の素材になるので、結構重要なものなのだ。余程の事がない限り、砕いて倒すのは悪手なんだと思う。


「……よしよし」

「?」


 落ち込んでいる私を慰めてくれているのか、キティさんが背伸びをして頭を撫でてくれた。私の方が背が高いので、少しぷるぷるとしている。


「気にしないでいい。魔石よりも自分の命。自分をちゃんと守れたアイリスは偉い」

「はい、ありがとうございます」

「ん。先に行く」


 キティさんは、私に背を向けて歩いていく。私も後に続く。キティさんに頭を撫でてもらったからか、さっきまで沈んでいた気分が嘘みたいに消えていった。これが、年上の為せる技なのかな。


「さっきのシルバーウルフ。身体が細ってた。餌が少なくなってる証拠」

「シルバーウルフの餌というと、小型の動物ですか?」

「そう。小型の動物が減っている」

「食べられたということでしょうか?」


 魔物といえど食事はする。その対象は、同じ魔物の時もあるけど、普通の動物の事が多い。


「もしくは、逃げたかも……」

「逃げた?」


 キティさんの言っていることが、よく分からず首を傾げる。


「シルバーウルフは、そこまでの脅威がある魔物じゃない。だから、小型の動物も同じ環境下で生活してる」

「では、何から逃げるのですか?」

「他の大型の魔物。魔物は大きくなるにつれて、保有魔力が多くなる。そして、その分、周りに放つ威圧感が強くなる」

「その威圧感で、小型の動物がいなくなっているということですか?」

「ん。その可能性がある。もっと、情報を集める」

「はい!」


 私とキティさんは、草原を進んで行く。何度か痕跡を見つけることはあったけど、そのどれもが魔力が霧散した後だった。つまり、時間がかなり経った痕跡だったということだ。


「魔物が少なすぎる。討伐が済んだにしても、少なすぎる」


 私達が遭遇した魔物は先程のシルバーウルフだけだった。その後は、一匹も遭遇していない。


「おかしい事ですか?」


 私は、まだ外にいる魔物がどのくらいいるのが普通なのか分からない。


「おかしい。ここまで遭遇しないのは、滅多にない。最近、大規模討伐はなかったはず……」

「依頼でも、そこまでの量を倒せという感じではありませんでした」


 少しうろ覚えだけど、大規模討伐の依頼書を複写した事はないはず。間引きのための討伐は、いくつかあったはず。


 キティさんの顔が険しくなっていく。


「もう少し奥に行く。そこまで行ったら、今日は帰る」

「分かりました」


 私達は、周りを見回しながら先に進んで行った。でも、新しい痕跡を見つける事は出来ず、スルーニアに引き返すことになった。

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