第7話 一ヶ月後

 ギルドで働き始めてから、一ヶ月の月日が経った。不安だった受注受付の業務にも、大分慣れてきた。時折、やってくる迷惑な冒険者は、悉くとっ捕まえた。と言っても、本当に迷惑な冒険者だけだけど。ほんの少しの揉め事は、見て見ぬ振りをする。そのくらいなら、話し合いで解決が出来るはずだから。手が出てきたら、止めに入るけど。


 基本的には、私の胸に付いているバッジを見て、萎縮してくれるから、色々とやりやすい。バッジをくれたガルシアさんには感謝しないと。


 そして、私は、今日も今日とて受注受付をしている。


「頼む」

「はい。お預かりします」


 受付にやって来たのは、重く響く声をした冒険者のライネル・バラックさんだ。銀級の冒険者で、四人パーティのリーダーを務めている。依頼を受けられるのは、一人一個までなので、パーティを組んでいると、その人数分依頼を受けられる。これが、パーティの利点だ。ライネルさんの他のメンバーも違う受付で依頼の受注をしていた。


「はい。受注致しました」

「ああ、ありがとう」

「お気を付けて」

「ああ」


 ライネルさんは、かなり寡黙な人なので、ポツポツとしか話してくれない。まぁ、そこまで話すこと無いから、あまり気にしてないけど。受注受付の業務は、スムーズに出来るようになったけど、完了報告の受付は、慣れるのに時間が掛かりそうだった。


 ついこの間見学させて貰ったら、めまぐるしい忙しさだった。


 ────────────────────────


「ここが、完了報告をする受付よ。あまり近寄らないようにね。邪魔になってしまうから」

「「はい」」


 完了報告の受付は、異常なまでの忙しさだった。ダンジョンなどから持ち替えられた魔物の核である魔石の鑑定や依頼完了の確認、それらの換金のために、何十人もが東奔西走していた。


「いずれは、こっちの作業もしてもらうけど、それはまだまだ先の事よ。取りあえず、邪魔にならないようにここから説明するわね」


 カルメアさんが指を指しながら、説明を始める。


「受付にいて忙しそうにしているのは、依頼完了報告を受けている人達ね。完了報告に必要なものとギルドカード、依頼書を受け取って、依頼をきちんと完了させたのかを確認してから、ギルドカードを横の機材に差し込んで、ボタンを押す。その後、依頼書に受注とは違う判子を押してから、依頼書に書かれている報酬を支払えば良いわ。お金は、横の引き出しにあるから、そこから出して、ちゃんと金額が合っているか確認してから渡して」


 カルメアさんが説明すると同時に、受付の人がそのとおり動いていたので、わかりやすかった。偶々だと思うけど。


「あっちは、魔石の鑑定ね。魔物の核である魔石はどれも似たような感じだから、専用の機材で鑑定を行うのよ。魔石の種類で金額が変わるから、ここはきちんと行ってね。鑑定と同時に金額が出るから、メモをするのよ」

「「はい」」

「ここの説明は、このくらいね。まだ、やることは無いけど、覚えておく事。いいわね?」

「「はい!」」


 私とリリアさんは、元気よく返事をした。


「二人とも段々仕事に慣れてきているから、次の業務を任せるかもだけど、これは、まだだから安心してね」

「これの他の業務って言うと、地図作りですか?」

「う~ん、多分そうなるかしらね。決まり次第知らせに行くわ。じゃあ、通常業務に戻るわよ」


 説明を終えた後は、受注受付と複写の仕事に戻った。


 ────────────────────────


「あれもいずれやらないといけないんだよね……」

「何の話?」

「わっ!?」


 いつの間にか、受付にサリアの姿があった。


「いつの間に?」

「今だけど。受注したいんだけど大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」


 私はテキパキ受注の業務をこなしていく。


「結構、依頼を受けてるよね。そろそろ昇級条件突破するんじゃない?」

「うん。あと少しで、鉄級になれると思うよ」


 石級から鉄級への昇格条件は、依頼の一定数完了だ。サリアは、小さな依頼も真面目に受けて、着実に依頼数を稼いでいた。


「頑張れ。鉄級からは、討伐依頼も受けられるから、報酬も上がるしね」

「うん。頑張るよ。じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 サリアを見送ったと同時に、後ろからカルメアさんに声を掛けられた。


「お疲れ様、アイリス。ちょっと、いいかしら?」

「はい」


 私は、受付終了の立て札を置いてから、カルメアさんに向き合う。


「今から、ギルドマスターの部屋に行くわよ」

「えっ?」


 この二週間あまり私は、問題を起こしてはいないはず。ギルドマスターに呼び出されるような理由はないと思うんだけど。まさか、冒険者側からの苦情とか……色々な考えが頭を過ぎっていく。


「警戒しなくても、悪い事じゃないわよ。まぁ、良いことかって言われたら微妙だけど」

「?」


 カルメアさんの言っていることがよく分からず、首を傾げる。でも、カルメアさんは、何も言わない。楽しみにしておけみたいな事なのかな。


 私は、カルメアさんと一緒にギルドマスターの部屋まで向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る