第6話 受付業務

 あのトラブルから、二週間が経過した。複写と貼り付けの仕事にも慣れて、効率よく出来る様になってきた頃、カルメアさんからギルドホール(ギルドの入り口)に集まるように言われた。


「一体何なんでしょうね?」

「そうだね。もしかしたら、違う業務を任せられるもかもよ」

「違う業務というと、もう受付の業務をやるんですかね?」

「その通り、正解よ」


 何故呼ばれたのか、リリアさんと話していると背後にカルメアさんが立っていた。急に声がしたので、二人してビクッと肩が跳ね上がった。


「今日は、二人に受付の仕事を体験して貰うわ。といっても、二人同時にじゃなくて、一人ずつだけどね。さすがに、両方一遍に教えることは難しいから。午前中は、アイリスからにしましょうか」

「は、はい!」


 私は、カルメアさんと一緒に受付の席に座る。まずは、カルメアさんが見本を見せてくれるらしい。カルメアさんが座り、受付の準備が整うと、冒険者の一人が、私達の目の前まで来た。


「この依頼を受注したいのですが」

「はい、畏まりました。少々お待ちください」


 冒険者から依頼書を受け取ったカルメアさんが立ち上がるので、私も立ち上がってついていく。


「依頼書を受け取ったら、ここに保管されているギルド控えと比較するのよ。ここのファイルの背表紙に何番から何番までが入っているか書いてあるからきちんと見てね。依頼書のギルド控えを見つけたら、依頼書に間違いがないか確認して、なければ受付に戻る。あったら、私を呼んで」

「はい!」

「取りあえず、今回は、不備はないから戻るわよ」


 受付に戻るとカルメアさんは、引き出しから判子を取り出した。


「ギルドカードを頂けますか?」

「はい」


 冒険者の人は、腰のポーチから一枚のカードを取り出した。そこには、冒険者の名前、クラス、スキルが書かれていた。場合によっては裏面にもスキルが連なることもあるらしい。


「ギルドカードを受け取ったら、こっちの機材に差し込んで、この鍵盤で依頼番号を入力して、最後に、ここを押して」


 カルメアさんが説明をしながら、横にある機材を操作すると、カードを差し込んだ部分が仄かに光り出した。


「光が収まったら、カードを抜いて、お返しするのよ。ありがとうございました」


 カルメアさんが取り出したカードには、さっきまでなかった依頼書の番号が記されていた。


「最後に、依頼書に判子を押してお返しして終わりよ。受注致しました」

「ありがとうございます。そちらは、新人さんですか?」

「はい。今年からです」

「頑張ってください」

「あ、ありがとうございます」


 冒険者の人は、カードと依頼書を受け取って出口の方に歩いて行った。


「珍しくいい人でよかったわね。次からは、アイリスがやってみなさい」

「は、はい!」


 カルメアさんが後ろに行き、私は受付に一人で座る。少しの間待っていると、依頼書を持った冒険者がやって来た……というか、もしかして……


「あっ、アイリスだ」

「サリア、依頼を受けるの?」

「そうだよ。アイリスにお願い出来るの?」

「うん。少し待ってて」


 私はサリアから依頼書を受け取って、後ろにあるファイルの所まで行く。


「えっと……」


 依頼書に書かれている番号が含まれたファイルを取り出す。サリアから渡された依頼書とギルド控えの二つを見比べて不備がないことを確認すると、受付に戻る。受付に座ったら、さっきカルメアさんが取り出した判子を取り出す。


「ギルドカードを頂けますか?」

「うん。アイリスが丁寧な言葉使うと、少し違和感があって面白いね」


 サリアは、ニコニコ笑いながらカードを渡してくれた。いきなりサリアが来たから、ついいつも通りに喋っちゃったけど、職員なんだからしっかりしないと。


「職員なんだから当たり前です。さっきは油断してしまいましたけど……」


 そう言いながら、カードを受け取って、横に備え付けられている機材に差し込む。そして、依頼書の番号を見ながら、機材に入力していった。最後に、端っこの鍵盤を押すと、カードを差し込んだ場所が仄かに光り出す。光が収まるまで待って、カードを取り出す。


「ありがとうございました」


 まずは、ギルドカ-ドを返す。そして、依頼書に判子を押してから、サリアに渡す。


「受注致しました」

「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい」


 私はサリアに手を振って見送る。


「う~ん……」


 後ろからカルメアさんの声が聞こえてハッとした。最後に気が緩んじゃった。いや、気の緩みは最初にもあったけど。怒られてしまうんじゃないかと、どきどきしていると、カルメアさんが話し始める。


「一応言っておくけど、知り合い相手だったら、普段通り話しても平気よ。仲が良くなった冒険者とは砕けて話すことも多いから」

「そうなんですね」

「まぁ、それはいいとして。アイリスの動きに悪いところはないわ。その調子で数をこなしていきましょう」

「はい!」


 それから、午前中一杯は、受付で依頼の受注を行いまくっていた。それで気が付いたけど、受注ばかりで、完了報告は一人も来なかった。それについてカルメアさんに質問をしたら、


「完了報告は、受注よりも複雑な作業だから、専用の受付があるのよ。そこの説明はしていなかったわね。まだ、やることはないけど、今度、見学だけでもしておきましょうか」


 と言っていた。そっちの見学は、少し緊張しそうだ。


 そんなこんなで初めての受付作業は終わりを迎えた。これからは、時折、受付作業もやることになるらしい。


 やれることが増えるのは、大変だけど、すごく楽しい!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る