第3話 二人きりの親睦会

 二人で親睦会をする事になった私とリリアさんは、一緒にスルーニアにあるレストランに向かう。


「ここは、私のおすすめのお店なんだ。アイリスちゃんが気に入ってくれるかは分からないけど」

「お肉メインのお店なんですね。私、お肉大好きですよ」

「なら、良かった。じゃあ、入ろう」


 リリアさんが紹介してくれたお店は、ミート・アイランドって名前のお店だった。中に入ると、結構な盛況だった。入店に気が付いた店員さんに案内されて、席につく。


「ここの生姜焼きが美味しいんだ」

「へぇ~、じゃあ、それにします」

「いいの? もっとメニューを見なくて」

「はい。リリアさんのおすすめのものを、食べてみたいと思ったので」

「分かった。じゃあ、すみませ~ん!」


 リリアさんは、店員さんを呼んで、私の分まで注文をしてくれた。リリアさんが普段食べている生姜焼きか。どんな感じなのか、少し楽しみだ。料理が来るまでの間、私とリリアさんは、他愛のない話をする。


「アイリスちゃんは、今は実家暮らし?」

「そうですね」

「じゃあ、ご両親と暮らしてるんだ。夕飯大丈夫だったの?」


 普通、家で両親と暮らしているなら、夕飯は要らないという報告をしないと、作って待っている可能性もある。リリアさんは、それを心配しているのだろう。でも、その心配はない。


「大丈夫ですよ。両親は、何年か前に亡くなっていますから」

「えっ?」


 私の口から語られた事に、リリアさんは顔を強張らせた。


「ご、ごめん……」

「いえ、そんなに気にしなくて良いですよ。本当にずいぶん前の事ですから。私自身、あまり気にしていませんので」


 聞きようによっては、冷たく思われるかもだけど、実際、両親が亡くなったことに関しては、もう吹っ切れている。小さい頃は、少し気にしていた事もあったけど、何年も過ごしていれば、そんなものだと思う。


「うん。分かった。でも、ご両親が亡くなられたのなら、広い家に一人暮らしなの?」

「そうですね。一人暮らしには広いですけど、もう購入された後なので、家賃は必要ありませんし、あの広さにも、もう慣れたので」


 私の両親は、結構お金を持っていたようで、今住んでいる家を一括で購入したらしい。その名義は、既に私のものになっている。それに、貯金も多かったから、学費を払っても私生活に影響が及ぶことはなかった。もしかしたら、二人は、今の状況になると考えていたのかもしれない。今となっては、それが正しいかを知る術はないが……


「リリアさんも実家住まいですか?」


 取りあえず、話の話題を切り替えることにした。リリアさんの顔が少し暗くなっているのが気になったからだ。


「ううん。私は、一人暮らしだよ。この近くにあるアパートに住んでるんだ」

「そうなんですね」

「うん。ギルドにも近いから、利便性は高いんだよね」

「ああ、なるほど。確かに、職場に近いと便利かもしれないですね」

「アイリスちゃんの家は、どこら辺なの?」

「少し遠いですけど、東通りから内側に入って少し行った場所にあります」


 スルーニアは、街を四分割するように大きな道が走っている。その中央に冒険者ギルドが建っている。私の家は、そこから東通りを進み、途中にある横道を少し行った場所に建っている。

 それに比べて、リリアさんの家は、西通りの街の中央寄りに建っているアパートの一室らしい。確実に私の家よりも近い。


「一人暮らしとなると、やっぱり家事が大変だよね」

「そうですね。料理はそれほどでもないんですけど、掃除が大変ですね」

「やっぱり? 私は狭い自分の部屋でさえ、大変だと思うんだから、アイリスちゃんは、もっと大変だよね」

「慣れてくると効率よく出来る様にもなるんですけどね。埃を吸い取ってくれるものがあると便利なんですが……」

「そういえば、王都に行くことがあったとき、魔道具屋でそんな商品を見た覚えがあるなぁ」


 リリアさんの発言に私の目がギラッと光った。


「本当ですか!?」

「う、うん。確か、掃除機とか言ったかな? 結構な値段だったけど」

「そうですか……」


 結構な値段と聞いて、私は少ししょんぼりとしてしまう。両親のお金で生活する上で、私は一つだけ決めていることがある。それは、不必要なものや贅沢品は買わないということだ。生活に必要不可欠ならまだしも、今までなくても生活出来ているのなら、掃除機は必要ないということになる。これは、給料が入ってから、自分のお金で購入しよう。私は、心の中でそう決心した。


「お待たせ致しました。生姜焼き定食です。ごゆっくり召し上がり下さい」


 店員さんが来て、生姜焼き定食を置いていった。内容は、生姜焼きにお米、味噌汁、サラダというものだった。味噌汁は、旅人が伝えていった料理と言われている。


「じゃあ、頂こうか」

「はい」


 私とリリアさんは、世間話をしながら、生姜焼き定食を食べていった。リリアさんがおすすめするだけあって、すごく美味しかった。


 ご飯を食べ終わった私達は、お店の前で別れてそれぞれの家に帰った。リリアさんは、「家まで送ろうか?」と言ってくれたが、リリアさんの帰る時間も遅くなってしまうと思ったので、断った。


「ただいま」


 家に帰り、鍵を開けて中に入る。さっきまで、リリアさんと話していたからか、家の中の静寂が少し寂しいと感じた。それと同時に、チリンチリンと、呼び鈴が鳴る音が聞こえた。扉に付けられている覗き穴から、外を見ると、私の良く見知った顔があった。

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