第39話 子供たちの秘密基地 7

「凄い・・・この楽園ダンジョンを、作ったんだ。」


『とはいえ、この花畑も森も、すべて幻だがな。』


「え?これが・・幻?」


『それらしく土で形を作ってあるから、触れることができるものもある。ただの薄暗い洞窟よりはいいだろう?あの太陽などは、この楽園ダンジョンで採れる太陽石を集めて作ってみたのだが、本物と遜色ないであろう。』


「凄い・・でもこれが幻なら・・食料はどうしてるの?」


『そうなのだ。仲間が増え過ぎてな。みんな魔素だけで生きて行けるように体質は作り変えたのだが、食は最たる楽しみの一つでな。外の森に採りに行っている。だが、弱いやつらにはそれもできぬのでな。楽園ダンジョン内で、野菜や実の生る木を育てようか、川で魚を育てようか、と話しているところなんだが、これがなかなか上手くいかなくてな。』


「太陽は、外の太陽と同じ効果があるの?」


『植物が育つか、という意図であれば、そうだ。』


「川で魚を育てるにしても、野菜や木を育てるにしても、水が必要になるけれど、水源はあるの?」


『水属性の魔法石が採れる。それを起動すれば、周囲の魔素を取り込んで、半永久的に綺麗な水が出続けるぞ。』


「木や野菜や花を楽園ダンジョン内で育てたことはないの?」


『ない。我らの仲間は、植物を育てることなどしたことが無い者ばかりだ。ダンジョンコアになんとかしてもらうつもりであった。』


あまりに計画性がないが、それでも誰かのためにと一生懸命なカーロに、エレノアの好感度は上がり続けていた。


「カーロさん、そこは私が協力できるかも。うちの領内の農地改革も成功したし、ここでもできる限り協力させてもらうわ。その代わり・・・タクトたちが来ない時間帯に、たまに私も遊びに来ていいかな?」


『・・何を・・しに?この楽園ダンジョンの中にある魔法石や属性魔法石は、我らが生きていくために必要なものだ。い、いかに、脅されようとも、す、す、す、すべてを渡すわけには・・』


「何言ってるの?せっかくのダンジョンなんだから、ダンジョンらしく、子供たちの秘密基地らしく・・造り込みたいじゃない!!こんなに楽しいことがあるなんて。協力させてよ!」


カーロはダンジョン内をうろついているが、このダンジョンのボスであった。

自分が楽園ダンジョン楽園ダンジョン内に住まうすべての魔物の命を守らなければと、気が張り詰めていた。


そんなカーロに、エレノアは自分の知っているダンジョン空想の産物について熱く語り始めた。

そして階層ごとに森と果樹園、草原に放牧、魔法石と属性魔法石、魔法鉱石の洞窟、湖と薬草園、畑を作ることを提案してきた。


カーロもダンジョンコアも、ここを冒険者が探索するようなダンジョンにするつもりは無かった。

戦うことが嫌いな魔物たちが密かに、幸せに生きていける楽園にしたかった。


その後、カーロはダンジョンコアをエレノアに紹介させられた。

そしてエレノアは、花畑のある階層と同じ太陽と土質の階層を、5階層分も預けてもらうことに成功したのだった。


翌日から、タクトたちが村にいる時間帯に、エレノアとテディは楽園ダンジョンに通った。

階層が違っても、万が一のバッティングを避けるためだ。


エレノアはマジックバックいっぱいに、腐葉土や肥料を持ち込んで楽園ダンジョン内の土に混ぜ込み、花や野菜の種と苗、木の苗木を持ち込んで植え続けた。


エレノアとテディ、2人の一生懸命な姿を見て、楽園ダンジョン内に住む魔物たちも、手伝い始めた。

その際、出来上がる予定の野菜や果物を味見させたことが、やる気に異常な火を着けたのは、テディの策略であった。


食用に家畜を連れてきて草原に放牧してみたが、すべて青い魔物と化して楽園ダンジョンに住む魔物たちの仲間になってしまったため、育てるのは植物系のみとなった。

その代わり、エレノアは人型の魔物たちの有志に料理を教えることにした。


植物の育成には楽園ダンジョンコアも手を貸してくれ、外では考えられないくらいの短い期間で、季節に関係なく、収穫をすることが可能となった。


エレノアたちを恐れるあまり、カーロは気付いていなかった。

エレノアとテディが、すべての魔物たちと普通に会話をしていることに。

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