第36話 子供たちの秘密基地 4

エレノアは、困っていた。


テディに魔力を纏わせればと提案されたものの、自分の思い付きは頓挫してしまい、その方法が思いつかなかった。


最初は追跡の魔法を纏わせれば楽勝、と考えていたのだけれど、敵もさるもの引っ掻くもの。

どうやらタクトは、魔法防御ができる何かを持たされているようで、タクト本人に魔力を纏わせることができなかったのだ。


(それだけオーガがタクトを大事に思ってるってことだよね。サムやミラに私の魔力を纏わせても、意味、ないよねぇ・・)


さてどうしようかと思っていたところで、思いついた。


(向こうが魔法防御ができる何かを持たせているのならば、こちらも私の魔力を込めた何かを持たせてみたらどうかしら?)


ここで、前世の記憶にあるが、この世界にもたらされることになった。

かなり、違う意味を持って。


まだ魔力がそれほど多くない子供のエレノアにとって、高い効果をいくつも付けたお守りを、領民全員分用意するのは難しかった。

耐性系や防御系は諦め、自分の負荷が少ない、治癒系にすることにした。


12歳で教会で適性検査を受けるまで、エレノアは自分が大聖女であることに気付いていなかった。

ただ、他の魔法に比べて、治癒や浄化、結界の魔法は楽に発動できるなぁ、くらいの感覚であった。


エレノアは、小さな傷であれば完全治癒、大きな傷であればダメージ軽減を祈りながら、お守りを作り始めた。

不器用な小さな手で、一針一針心を込めて小さな巾着を作っていき、その中にクズ魔法石やクズ宝石を入れた。


出来上がったお守りは効果を確認するために、家族と水をよく使う侍女たちに、肌身離さず持つようにと渡された。


確認できた効果は、お守りを身に着けると、手荒れや擦り傷がというものであった。

それでも、元気いっぱいで擦り傷が多い子供たちには十分だと思ったエレノアは、まずは義務教育を受けている5歳以上の子供たちにお守りを配った。

お守りを手にしてすぐ、小さな傷が消えていったことで、子供たちは学校の先生の言いつけ通り、お守りを肌身離さず持ち歩くようになった。


子供たちに配られた小さな巾着型のお守りは、これ以上不器用なエレノアの傷が増えないように直ぐに治せるからと手が血だらけになっても縫い続けるのを止めて欲しいと、侍女たちが総出で、自分たちの自由時間内に縫い上げてくれたものだ。

それにエレノアが祈りを込めた。


「どう?テディ。分かる?」

『ん。エレの魔力、感じる。すごく気持ちいい魔力。』


テディのお墨付きをもらったことで、エレノアはオーガのカーロに会いに行く準備を始めた。




お守りが配られた翌日、タクト、サム、ミラの姿は、楽園の中にあった。

エレノアのお守りを貰ってから、タクト、サム、ミラの3人もその効果の確かさを実感していた。

彼らは揃って巾着に紐をつけて、首から下げていた。


「今日こそ、カーロに会わせてくれよ!」

「私も会いたい!一緒に遊びたいよ!」


「・・ってことなんだけど、カーロ、そろそろ出てきてくれないかな?」


タクトがサムとミラを楽園に連れて来るのは、これで5回めだったが、恥ずかしがり屋のオーガ、カーロは、今日も姿を見せることはなかった。


タクトは寂しく思い、サムとミラはそんなタクトを見て、申し訳なく思うようになっていた。


(僕がタクトの言葉に甘えて、楽園に毎回ついてきてるから、カーロはタクトと会えなくて寂しいんじゃないだろうか?)

(私たちが楽しいからって、毎回タクトにくっついて来ちゃってるの、迷惑なのかな?)


いつもは元気いっぱいに遊んでから帰る3人と、サムとミラの獣魔たちだったけれど、この日はあまりはしゃぐ気分になれず、早々に楽園を後にした。




暫くすると、花畑に青い人型の姿が現れた。

タクトがテイムするオーガ、カーロであった。


『今日こそはって、タクトの友達と友達になろうって、決心してたのに。勇気を振り絞ろうと思っていたのに・・あんな顔させたくなかったのに・・・俺たちの邪魔をするお前は、誰だ?』


抑揚のない、怒りを抑え込んだ、けれど殺気を纏わせた声で、カーロが問いかけた。


そこに現れたのは、タクトたちとさほど年が変わらないように見える、小さな少女だった。

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