第34話 子供たちの秘密基地 2

その場所に辿り着くまで、サムとミラはびくびく、ハラハラ、どきどきの連続だった。


国境に細長く面しているベイリンガル侯爵領には、複数の森と複数の山へと続く道があった。


中でもタクトたちが目指す森はベイリンガル侯爵領の外れ近くにあり、森の浅いところでも強い魔物が目撃されることがあるため、狩人たちでも滅多に近付かない森であった。


タクトに森の奥の楽園に誘われてから数日後の、学校の授業が無い日の朝。

サムとミラは水筒とお弁当を持って、タクトと3人でベイリンガル侯爵領の国境近くの草原に来ていた。

目指す森は、遥か彼方にぼんやりと見えるだけ。

かなりの距離がある。

子供の足では、とても辿り着くことができそうにない。


どうするのかと思っていると、おもむろにタクトが鞄から綺麗な石を取り出して、地面に置いた。


「みんなしっかりと手を繋いで。スライム君たちは、サムにくっついていてね。」


スライムたちがサムに乗ったり巻き付いたりし、タクトとサムとミラとミラのゴブリンがしっかりと手を繋ぎ終えると、タクトが呪文を唱え始めた。

すると地面に置かれた石から魔法陣が広がり、みんなを包んだ。


光が止むと、みんなは遠くにぼんやりと見ていたはずの森の側にいた。


「「タ・・タクト!?」」


「カーロ、あ、僕のテイムしているオーガから貰ったんだ。転移石って言うんだ。僕はまだ、目に見える範囲で障害物が無いところに、真っ直ぐにしか転移できないんだけどね。」


そう言って、得意げに笑った。


サムとスライム、ミラとゴブリンは、タクトの後について、森に向かって歩き出した。


森の入り口を入ってしばらくすると、青いフォレストウルフが近づいてきた。

この領地周辺にいるのは、グレーのフォレストウルフのはずなのに、まさか変異種!?と驚いて身を固くしているサムとミラを他所に、タクトは青いフォレストウルフに近付いていく。


「今日は友達がいるんだ。君も仲間を呼んでくれる?」


タクトが話しかけると、青いフォレストウルフは遠吠えを一つ。

暫くすると、2頭の青いフォレストウルフが駆けてきた。


「乗って。大丈夫。僕の友達のオーガの子分だから。首の後ろの毛にしっかり掴まってね。この子達、結構走るの速いから、振り落とされないようにだけ気を付けてね。」


サムとミラは、自分のテイムしている魔物と共に、恐る恐る青いフォレストウルフの背中に乗った。

すると、サムのテイムしているスライムが数匹、ミラが乗った青いフォレストウルフの背中に飛び移った。

スライム達はサムとミラが落ちないように、サムとミラとミラのゴブリンの腰からお尻を包んでから、青いフォレストウルフの胴体に巻き付いた。


タクトは笑みを浮かべる。

振り落とすは冗談だったんだけどな、と。

青いフォレストウルフは、風魔法を使って乗っている者の体を固定してくれるので、例え掴まっていなくても、振り落とされることはないのだ。


走り出した青いフォレストウルフは、想像以上に速かった。

朝なのに薄暗い森の中。

鬱蒼と茂る草木。

遠巻きにこちらを見ている、見たことがない魔物。


そのすべてが、サムとミラは怖かった。


「大丈夫だよ。僕この子に乗せてもらって怪我したこと1度もないんだよ。それにこの子達攻撃魔法が使えるし、魔法無しで闘っても強いし。にだったら負けないと思うよ。」


鬱蒼と植物が茂る森の中を、颯爽と走り抜ける青いフォレストウルフ達。

タクトの言う通り、目の前に魔物が現れると、直ぐに風魔法で蹴散らす青いフォレストウルフ達。


最初はおっかなびっくりだったサムとミラだったが、だんだんと楽しくなってきた。


およそ1時間後、3人は森の深部にある、蔦に覆われた大きな岩の前に辿り着いた。

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