第24話 ベアトリス 1
エレノアの専属侍女であるベアトリスは、エレノアの母、ジョアンナの乳母の娘だった。
ベアトリスの両親はどうしても女の子が欲しくて、ジョアンナが乳離れしたところで乳母を辞すつもりだったのだが、グランベルト公爵に引き留められ、公爵家に夫婦と長男の3人で住み込みで働くことになった。
その頃のベアトリスの父は執事見習いで、母はジョアンナの専属侍女。
小さな兄は、下働きをしていた。
両親の間に女の子が生まれれば、ジョアンナの
ところが、やっと7年後に生まれてきたベアトリスは、原因不明の異常なまでの虚弱体質で、長く生きられないと医師に言われてしまう。
ベアトリスはジョアンナの遊び相手ではなく、守ってあげなければいけない、か弱い妹になった。
ジョアンナは誰よりもベアトリスを気にかけ、可愛がり、母性を磨き続けた。
そして早く自分も子供が欲しいと思うようになった。
7年後、グランベルト公爵が冤罪で国外追放され、ジョアンナがベイリンガル侯爵に嫁ぐことが決まると、辺境の荒れ果てた地を治めるように王命が下った。
愚王のベイリンガル侯爵への執拗な嫌がらせの始まりであった。
ベアトリスの両親は、ベアトリスと離れようとしないジョアンナと一緒に、ベイリンガル侯爵家に仕えることになった。
この時、すでにエレノアがジョアンナのお腹の中にいた。
どうしてもベイリンガル侯爵のアルバートと結婚したかったジョアンナが、まあ・・・頑張ったのだ。
まだ安定期でないジョアンナの馬車での長旅にはみんなが反対したが、王都はジョアンナを強く望む国王の手の者が大量にいて危険すぎたため、やむを得ず、移動をすることになった。
まだ妊娠3ヶ月程だというのに、ジョアンナはすこぶる元気だった。
旅の間中、妊婦とは思えないほど自分の体を省みず動き回るジョアンナに、ベアトリスの母を始め、同行者たちはみんな肝を冷やしていた。
「まったく問題ないわ!この子は何があっても、絶対に生まれてきてくれるって分かるの。私のことは気にしないで、先を急いでいいのよ!」
ベイリンガル侯爵御一行様の全員が思った。
(((((この若い公爵令嬢は、妊娠・出産が命がけだということが分からないのか!)))))
みんなの、ジョアンナを心配するが故の、心の叫びであった。
しかしジョアンナの言葉通り、意図せずとも旅は順調で、その行程は予定よりかなり早く進んで行った。
そして到着した新ベイリンガル侯爵領は、荒れ果てた荒野だった。
唯一の荒れた道を馬車が進んで行くと、広い荒野の中の水場のまわりに、人家と思われるあばら家がぽつぽつと建っていた。
見渡す限り、領主邸など存在していない。
そんな土地で、テント暮らしから、新ベイリンガル侯爵領の領地経営が始まった。
テント暮らしから始めたベイリンガル侯爵御一行様だったが、彼らがその地に到着してから、急速に土地が変化を見せた。
雨水が溜まっただけのようににも見えた水場から、滾々と水が湧き始めた。
雑草が生い茂り、数日の内に見渡す限りの草原と化した。
人が住むこの地の周辺をうろついていた魔物の姿が見えなくなった。
そして、大量の物資を乗せた荷馬車を曳く集団が訪れた。
旧ベイリンガル侯爵領の領民の一部だった。
職人たちは簡素ながら、平屋の領主邸を数日で作り上げた。
農民たちは土地を耕し、種を蒔いた。
柵を造り、その中で牛や馬、鶏を飼い始めた。
領民を大切にして、親しく交流をしていたベイリンガル侯爵家を慕ってくれていた、勇気ある領民たちだった。
新ベイリンガル侯爵領の荒野から逃げ出すこともできず、ただ毎日必死で生きていただけの人々も、旧ベイリンガル侯爵領の領民たちと協力し、新ベイリンガル侯爵領の生活基盤を作るために尽力してくれた。
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