第23話 ディックとドラゴンの卵 2
そんな毎日が数ヶ月続くうちに、仔犬達は立派な魔犬に成長した。
昨年までは仔犬達が成犬になると、父親にテイムされるか森に帰るかしていたのが、今年生まれた魔犬達は、成犬になってもディックについて回っていた。
ある日、いつものようにドラゴンのお腹の下で昼寝をしていると、
ぴしっ・・
めきめきっ・・
音が聞こえてきた。
昼寝から目覚めたディックが、寝ぼけ眼で音の元を探していると、赤い何かと目が合った。
お互い訳が分からず、じっと見つめ合う。
直後、赤い目をした白い何かが、ディックめがけてぶつかってきた。
ディックは衝撃で、思い切り尻餅をついた。
『あらあら、まあまあ、大丈夫?怪我しなかった?』
母ドラゴンの声が聞こえた。
今までは、おーんとか、ぐるる、とかだったのに。
「あーっ!!こら!お前はマイクさんとこの小倅!!何てことしてくれるんだ!俺の、俺のドラゴン~!!!!!」
ディックは突撃された白いものを抱えながら、座り込んでいた。
そのディックの前で、ベイリンガル侯爵家の次男が崩れ落ちて、大泣きを始めた。
(良い大人が何やってんだよ。)
大人びた10歳児だった。
厳重な塀で囲まれていたのは、エレノアの2番目の兄であるクリストファーが、エレノアのテディのように自分のドラゴンが欲しいと、絶対に自分が卵から出てきたドラゴンに最初に会って、刷り込みをして、テイムするんだと、意気込んで育てていた卵と母ドラゴンだった。
偶にしか卵の様子を見に来なかったクリストファーは、塀の下に掘られた穴にも、母ドラゴンの腹の下で昼寝をしているディックと魔犬達にも、気付かなかったのだ。管理不行き届きである。
幸いにして、クリストファーはもう一つの卵から孵ったドラゴンと契約ができたが、ディックにしてみると、自分がテイムしたかったのは一緒に狩りに行ける一緒に育った魔犬達だったので、仔ドラゴンと一生一緒にいることになるとは、想像もしていなかった。
この後すぐ、今年生まれた魔犬達は森に消えて行ったのだが、マイクとディックが魔犬達がいなくなったことに気付いたのは、翌日のことだった。
ディックの家族は、領主様のドラゴンを~!!と家族総出で領主邸に謝罪に向かったのだが、対応したのがエレノアだったため、
「怠け者の兄さんが悪いのよ。私は何度も何度も助言したのよ。本気でテイムしたかったら、ディック君みたく卵と一緒に過ごさなきゃって。だからね、問題無い無い。もうその仔はディック君の弟よ。可愛がってあげてね。ご飯は・・・マイクさんの家だったら問題ないと思うけど、食欲旺盛すぎて困ったら、ドラゴン園に連れていらっしゃい。我が領のドラゴンだったら、いくらでも食べさせてあげるわ。もちろん、いつでも何でも分からないことや困ったことがあったら、相談しに来ていいんだからね。」
と、仔ドラゴンを押し付けられ、追い返された。
『ママ、ママ!』
仔ドラゴンは、尻尾をぴったんぴったんディックにぶつけながら、全力でディックに抱き着いている。
「父さん、こいつ僕のことママって呼んでるんだけど、これって僕もテイマーになったってことなのかな?」
「そうだな。その仔の声が聞こえるなら、ドラゴンテイマー確定だな。この領地でも、エレノア様との契約後、竜騎士団で訓練されたドラゴンはたくさんいるが、ドラゴンテイマーは・・エレノア様に次いで、2人目じゃないか?」
そう。契約とテイムは違う。
契約はお互い条件を出し合って納得して結ばれるものだが、テイムは魂が繋がる。
故に、テイムで結ばれた相手とは、はっきりと意思の疎通ができる。
マイクもテイムしている魔犬達と、念話ができる。
(声が聞こえるのは
「おい、白ドラ。僕はママじゃない。僕は男だ。呼ぶならパパだぞ!」
『ママはママ。』
生まれたばかりの仔白ドラゴンは、聞き分けが悪かった。
狩人になるディックの夢は、ちょっと規模が大きくなるかもしれない。
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