第15話 出国、そして・・・

かの国から撤退した教会の人々は、周辺諸国の教会に分散していった。


そこでかの国が、大聖女を偽物と糾弾し、異世界からの愚者を聖女とした蛮行の、事実のみを正確に伝えていった。


そして、説いた。


かの国を攻めることなかれ。

大聖女様を蔑ろにし、神をも冒涜したかの国は、自滅するであろう。

大聖女様が戦争をする国に住みたいと思われるだろうか。

いや、決して思われないであろう。

真摯に国を納めなさい。

心から神に祈りなさい。

いつの日か、この国が大聖女様の安寧の地になるかもしれない。

いつの日か、この国を大聖女様が訪れるかもしれない。

たとえ、安寧の地になることがなかったとしても、大聖女様が滞在されるだけで、多大なる恩恵があるであろう。

その時のために、大聖女様に恥ずかしくない国であれと。




教会がかの国の国民を守るための説教を敵国でしているなど、微塵も思い至らないかの国。


大聖女エレノア・ベイリンガルを国外追放した豊穣の宴の後、その季節の農作物の収穫が終わって暫くしてから、異変は起こり始めた。


かの国の国の直轄地でのみ旱魃が続き、季節が変わるよりも速く、直轄地のすべてが作物が育たない不毛の地へと変貌していった。

ベイリンガル侯爵が収めることになった時の旧ベイリンガル侯爵領とほぼ同じ状態であった。


その後、豊穣の宴が開かれる頃には、国の直轄地ほどではないが、どの領地もとてもとは言えない状況になっていた。

にも拘らず、国王は今までの豊穣の宴の趣旨を変え、税金に加え、収穫物の半分を国に納めるよう、すべての領主に命令した。


彼ら領主たちは思い出した。

20年前まで、豊作が続く領地は理不尽な理由を突きつけられ、国の直轄地にすると取り上げられ、荒れた領地と交換され続けていたことを。

20年前、この豊穣の宴とそのシステムを構築した当時のグランベルト宰相、グランベルト公爵に、この国王が何をしたのかを。

そしてグランベルト公爵の次女ジョアンナを妃に迎えられなかったことを逆恨みし、グランベルト公爵とベイリンガル侯爵に何をしたのかを。


国民のことを慮ることができない、愚王だったことを。


彼ら領主たちにとって、領民は大切な存在だった。

自分たちだけがこの国を捨てて出て行くことは、できなかった。

彼ら領主たちは声を上げた。

この国から独立すると。

小さな領地が小さな国となり、国を集めて連合国を名乗った。


もちろん、かの国の王族がそれを認めることはなかった。


かの国の王族は、大聖女がいなくなった被害は、農作物だけだと考えていた。

故に、自分たちの贅を尽くした生活を続けるために、昔のように、民から搾取すればいいと考えていた。

従わぬ者は、力で、恐怖で縛ってしまえばいいと。


16年前まで、かの国は国内外に敵が多かった。

大聖女がいなくなったかの国は、他国から容易に攻め込むことができるようになっていることに、かの国の王族は気づいていなかった。


連合国の名乗りを上げた領地を除いたかの国は、神を信仰していない国々に、蹂躙される未来を迎える。




時は少し戻り・・・~ side エレノア一家 ~


全領民も家族も、誰一人欠けることなく、怪我をすることもなく、無事開拓地に引っ越しすることができた。

全員が揃って新しい生活を始めて1ヶ月。

今日は、ベイリンガル共和国の建国祭だ。


急ピッチで造られたコロッセオもどきの施設の中で、国民も兵士も食べて、飲んで、踊って、大騒ぎしている。

お父様もお兄様たちも、国民たちに混ざって騒いでいる。

みんな楽しそうだ。


お母様は女性陣と一緒に、私が作った料理とお菓子に夢中だ。


「ふっふっふっ。では、今まで遠慮していたこと、どんどんやっていきましょうかね。」


直後、私のまわりでざわめきが起こる。

そこ!遠慮したことなんてなかっただろうって顔しない!

遠慮してたんですよ、これでも!!

忙しくて、時間無かったし!


まずは遠慮なしの料理テロにお菓子テロ!

それから日本食を再現するための食材探しと調味料作り。


家族も国民も、みんな喜んでくれるといいなぁ。


リンリンベル商会には、少しずつ新しい商品とレシピを各国に流通させてもらって、世界中の人々に、もっと食を楽しむことを知って欲しい。


新しい味や料理を知った人たちが、更に食を発展させてくれれば…私もたくさんの種類の美味しい物が食べられる。


そして美味しい食べ物でベイリンガル共和国の知名度を上げて、様々な分野に秀でた食いしん坊さんたちを釣り上げたい。


この国の強みは魔法と強さと豊かさだけれど、如何せんロケーションが悪い。

ドラゴンやワイバーンがいないと、移動が不便というかできないのが現状で、移住したいと言ってくれる人がいても、空を飛ぶでもしない限り、この国に到達できない。

これもこれから打開策を探さなければならない重要案件だ。


住み慣れた場所や不自由のない土地から、態々こんな森の中の国に来てくれる職人さんはそうそういないだろう。

けれど胃袋を掴めれば、人を集めるのも容易になるんじゃないかな、なんて安易なことを考えている。


せっかく防衛がしやすい森の中に国があるのに、道路整備をするのには賛否両論がある。

交易は、外に拠点ダミーを作ってやればいいって案が有力だけれど、国民以外の移動については・・・


ま、難しいことは、大人にお任せです。

私は末っ子なので、気楽に自由に生きせていただきます。


ファンタジー要素ではやらかしちゃったけど、前世で一般人だった私の知識なんて、ちっぽけなものだ。

農業についてだって、学校の授業と家庭菜園(経験はプランターでの栽培だけ!)レベル。

品種改良とか接ぎ木とかのやり方も詳しくは知らない。

けれど、そこは魔法が助けてくれる、ファンタジーの世界。


建国祭を楽しんでいる笑顔全開の家族と国民を眺めながら、私は自分がやりたいことと、この国の未来のためにできることを想像してニマニマし過ぎ、ベアトリスに「気持ち悪いです、お嬢様。」と言われてしまうのだった。


― 本編 完 ―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る