第14話 婚約破棄のその後 ~ side 第一王子ゲイルとマリア~ 2
「ゲイル。あなたの真実の愛のお相手は、本当に「異世界の聖女」なのですか?」
「はい、母上!彼女を見つけた兵士によると、彼女は突然光と共に空中に現れ、森の中の泉の上に降り立ち、水の上を歩いていたそうです!マリアも自分が異世界から来たと言っています!」
一同はマリアを連れて、急いで神殿に向かった。
大聖女のおかげで栄えていたこの16年。
大聖女が去り、教会が去るこの国には、衰退する未来しか待っていないかもしれない。
それほど、16年以上前の国の状況を知っている者たちは、焦燥感にかられていた。
国王と王妃は必死に祈っていた。
マリアが本当に「異世界の聖女」であれば、この国も、ゲイルの所業も、なんとかできるかもしれない。
神殿には、撤退の準備をしている聖職者たちが残っていた。
事情を知っている彼らから、辛うじて「適性検査」のための「鑑定水晶」の使用方法を聞き出した国王たちは、マリアを鑑定にかけた。
マリアとゲイルは自信満々だったが、「適性検査」の結果、マリアは「異世界の聖女」ではなかった。
それどころか、魔法適性はまったく無く、「異世界からの転移者」と「愚者」の称号があった。
「嘘よ!私は「異世界の聖女」よ!選ばれてこの世界に呼ばれた、本当の聖女なのよ!!」
マリアは叫び続けるが、何度鑑定をしても、結果は変わらなかった。
試しに以前鑑定水晶で鑑定したことがある者たちも再鑑定してみたが、鑑定結果に間違いがなかったことから、マリアが「異世界の聖女」ではないことが、立証された。
マリアが水の上に浮いていたのは、この世界に転移してすぐ溺死するのが可哀そうだと思った、神の慈悲だった。
月日が経っても、ゲイルはすぐにマリアの聖女としての力が戻ってくる、マリアこそが聖女だと、まだ信じていた。
いや、信じたかった。
マリアとは話が合い、体の相性も良かった。
エレノアとベイリンガル侯爵家への所業の罰として、廃嫡され、王城から辺境へ追放されることになっても、まだ「異世界の聖女」であるマリアと結婚しようと思っていた。
ゲイルを廃嫡した王は、2人の結婚を認めた。いや、2人に結婚することを命じた。
この先何があっても、離婚を認めないという命が下された。
ベイリンガル侯爵領に早馬が到着した時には、ベイリンガル侯爵領は下賜された時のままの、荒れ果てた荒野に姿を変えていた。
遠目に見た時には豊かに見えたベイリンガル侯爵領だったが、領内に入ってみると、人が暮らしていた痕跡がまったく無かった。
ベイリンガル侯爵家の家人や使用人どころか、領民の1人も、家畜の1頭も、人工的な建築物の1つも、その荒野には存在しなかった。
多少の雑草は生えていたが、農作物は唯の一株も無かった。
そこに跋扈していたのは、雑多な魔物達だけだった。
魔物から逃げるようにベイリンガル侯爵領を後にした兵士が領を振り返ると、そこには豊かな土地が広がっているように見えた。
兵士たちは、これはどう報告したものかと、悩みに悩んだ。
王都に戻る途中、王都から脱出しようとする教会の礼拝で知り合った人々に会った。
信心深い
結婚したゲイルとマリアは、旧ベイリンガル侯爵領の一部を与えられた。
兵士たちから、ベイリンガル侯爵領には豊かな土地が広がっていたとの報告があったからだ。
国王は、出来が悪くても血を分けた息子であるゲイルに、温情をかけたつもりだった。
自らが嫌がらせに、人が住める状態ではない荒れ果てた土地をベイリンガル侯爵に
2台の馬車に、御者と数人の護衛と2人の使用人兼監視係だけが付けられて、ゲイルとマリアは旧ベイリンガル侯爵領に向かった。
旧ベイリンガル侯爵領は、遠目では豊かな土地に見えた。
生活していくのは楽勝だとゲイルは思った。
旧ベイリンガル侯爵領まであと少しというところで、ゲイルとマリアだけが降ろされた。
荷物は馬車から投げ捨てられた。
「何をするんだ!!今まで不自由な旅に耐えてやったのに、屋敷まで送れよ!しっかり仕事しろよ!!」
「そうよそうよ!王族を敬いなさいよ!!」
「おいお前たち、使用人の分際で、なんでまだ馬車に乗ってるんだよ!降りて来いよ!!」
御者も護衛も使用人兼監視係も熱心な教会の信者で、早馬で偵察に出た兵士たちから旧ベイリンガル侯爵領の実情を聞いていた。
領内に入れば、この2人に何をされるか分からない。
旧ベイリンガル侯爵領手前で2人を降ろすように、アドバイスを貰っていたのだ。
「ここまで送ってやったんだ。感謝して欲しいね。」
ギャンギャンと喚き散らす2人を尻目に、馬車は走り去ってしまった。
たらたら不満を言い、重い荷物を引きずりながら、やっとのことで2人が旧ベイリンガル侯爵領に足を踏み入れた途端、2人の足元から広がるように、豊かな土地は荒れた土地へと変貌していき、魔物しかいない土地となった。
そう、ベイリンガル侯爵が領地を与えられた時と、同じ状態の土地に。
「建物も畑もなんにもないじゃない!ドレスは?ベッドは?ご飯はどうなるのよ!!」
「聖女なんだから、お前がなんとかしろよ!!」
魔物が跋扈している荒野で、大声で2人は言い合いを始めた。
2人のその後について、国王に報告が上がることはなかった。
王城では、怠け者のゲイルとその側近たちが、報告を怠っているだけだと考えた。
国王は、ゲイルが反省して、己の領民のために動くことを期待していた。
乞われない限り、物資の支援をしないよう部下に厳命した。
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