第11話 婚約破棄に至るまで~ side エレノア ~ 5
私は神童と呼ばれていた。
初めての婚約者とのお茶会の席で、プライドの高い第一王子ゲイルは、自分はそう呼ばれたことがないのに、なんでお前なんかがと腹を立て、目の前にあったティーカップを床に投げつけた。
第一王子ゲイルと初めて会ったのは、私が貴族学院の中等部に入学する直前の婚約式だった。
金髪碧眼。黙っていれば、絵に描いたような王子様だった。
年齢は15歳。今年貴族学院の高等部に進学する。
が、性格を始め、いろいろ問題だらけの人間だった。
国王はゲイルの扱いに困り、「大聖女」をこの国に繋ぎ止めておくための道具として使うことにしたのだろう。ゲイルはとても国王の、いや、王族の器ではなかった。
( これなら婚約破棄が狙えるかも )
私は円満に婚約破棄を言い渡してもらうために、行動した。
家族にもアイデアを出してもらい、なんとか婚約破棄を言い渡され、国から追い出してくれないかと、頑張ってみた。
私が優秀であると、国の重鎮たちに認められるのは得策ではない。
国母に云々は、私と結婚するまでゲイルに自分が王太子だと思い込ませるための方便だ。
優秀な第二王子の婚約者にされたら、それこそこの国から逃れられる可能性がなくなる。今は第二王子には幼馴染で相思相愛の婚約者がいるが、国の都合でどう転ぶか分からない。
私は落第点にならないように、必要最低限のこと、低レベルで熟して見せてきた。
それなのに、まわりは大絶賛する。
そしてゲイルが怒りまくる。
そんな不毛な時間を4年も耐えた。
ベイリンガル侯爵家には王らしからぬ采配を振るっている現国王であったが、国内では賢王と称えられ、人格者だと言われている。王妃は聡明で慈悲深いと言われている。そんな2人から生まれた第一王子ゲイル。
優秀な人材に囲まれて成長したはずなのに、我儘で思慮の無い、努力が大嫌いなお馬鹿王子になってしまっていた。
自分より偉い人がいることが我慢できず、上から目線で教えられることが気に入らず、自分で本すら読むことをしない、プライドだけは高いゲイル。
王族としての最低限の教育を嫌々受けた。受けただけで、身にはついていない。
成績をつけるとすれば、下の下。王族でなければ、貴族学院は退学になっているだろう。歴代の王族を見ても、ありえない不出来さぶりだった。
ゲイルは、自分は何も努力しないくせに、自分が一番でなければ気が済まない、困ったちゃんだった。
ゲイルはずっと、婚約者である私の評価が自分よりも高いことが気に入らなかった。
そんなある日、王妃教育を受けに登城した私は、侍女たちの会話を耳にする。
「ゲイル王子の離宮に、黒目黒髪の女性が泊っている。」
「ゲイル王子がその女性といちゃついているのを見た。」
「ゲイル王子がどの女性のことを「異世界の聖女」と言っていた。」
「御伽噺の「異世界の聖女」は、いるだけで国が栄える。」
「エレノア様との婚約を破棄して、「異世界の聖女」と結婚すると息巻いている。」
体調不良を理由に、退城する。
王都郊外に転移して、
7日後の豊穣の宴で、婚約破棄の喜劇が繰り広げられるかもしれない。
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