第10話 婚約破棄に至るまで~ side エレノア ~ 4

現国王のベイリンガル侯爵家への態度は気に入らなかったけれど、私は長年続くこの国の助け合いの精神を好ましく思っていた。

なにより、家族のことが大好きだった。

前世の記憶も、チート能力もあるけれど、この国を出て冒険者になるなんて、そんなラノベ展開を望むことはなかった。

ただ普通に、大好きな家族といたかった。


この国の助け合い精神は、母方の公爵家当主であった祖父が宰相だった時に作り上げたシステムであったと、国を出てから知った。

その祖父も、娘を国王の嫁に頑として差し出さなかったことで、宰相の任を解かれたという。

そういうことはもっと早く教えてよ!知ってても何も変えらなかったかもしれないけど。

さも自分の手柄のように振舞うなんて、賢王なんて言われてるけど、ホント碌でもないな!


リンリンベル商会が軌道にのって、開拓地に全住民分の別荘が建ったのは、私が10歳の時だった。


12歳の誕生日を迎えて数日。

神童と噂される私の名前が第一王子ゲイル様の婚約者候補として上がったので、王都の中央教会で「適性検査」を受けるようにと、国王からの命令書が届いた。

恐らく同年代の貴族令嬢全員に、何かしらの理由を付けた同じ内容の命令書が届いていることだろう。


「適性検査」は教会のみが所有している「鑑定水晶」を使う。

教会の「鑑定水晶」でなければ、ステータスを見ることができない。

としては。


王家の指示で

意味するのは、第一王子の婚約者候補という餌で貴族令嬢を王都に集めて「聖女」を探し出し、第一王子の婚約者にしてこの国に縛り付けるつもりだ。

国王となる王太子は国母に相応しい令嬢を選び、国王の補佐をさせる。

国に必要な「聖女」判定をされた女性は、年齢が釣り合う王子と結婚させられて、「聖女」としてこき使われる。

歴代の王族が行ってきたことだ。


私は自分の能力がぶっ飛んでいることを理解していた。

でも、チート知識を駆使してもステータスは見られないし、「鑑定」なんてスキルは生えてこなかった。

自分では見られないステータスの隠匿や書き換えなんて、できなかった。


12歳の時に教会で強制的に受けさせられた「適正検査」で、私は「大聖女」と認定されてしまった。


第一王子との婚約は王命で、この国で暮らしていくのであれば、断ることができなかった。

せっかく手を入れて豊かにした領地に、そこで幸せそうに暮らす領民たち。

貴族の義務として、ベイリンガル侯爵家はこの婚約を受け入れるしかなかった。

……………この国で暮らしていくのであれば胸を張って出ていけるまで、機を待つことにした……………


第一王子との婚約は受けた。

けれど「大聖女」として聖女のお務めをしろということは、容認できなかった。

それが本来の王家の狙いだということは知っていたけれど、ただでさえ婚約も王妃教育も面倒臭くて嫌なのに、聖女のお努めもなんて、我が家を疎ましく思っている国王と国王妃のすることだ。過労死する未来が容易に想像できる。


「私はもうすぐ貴族学院に入学いたします。王妃となるために、学院での人間関係構築や卒業の肩書は必要です。それに加え、王妃教育を受けなければなりません。12歳の私には、それだけでも重責です。その上聖女のお務めまで強制されるのであれば、体が丈夫ではない私は過労ですぐ死んでしまうでしょう。そこまでの重荷を私一人に背負えと強要されるのであれば、私はこの国を出ていきます。」


国王と教会の教皇に訴えた。


聖女がその務めを果たさないのは問題だと騒ぎ立てる国王夫妻、国王の側近たち、教皇、司祭たち。

私は国王と教皇に威圧を放った。

見る見る青ざめていき、座り込む2人。まさか12歳の子供がこれほど強い威圧を放つなんて思わなかったのだろう。

「大聖女」の魔力に畏怖を抱いた2人は、渋々私が「大聖女」であることを、教会の上層部と国の重鎮たちだけの秘密にすることを約束してくれた。

私の年齢を鑑みて、「大聖女」である私が生まれてからこの国が一気に栄えたことに、思い至ってくれたのだろう。

騒ぎ続ける人々を、「聖女」の務めを果たさなくても、エレノアが国内にいるだけでこの繁栄が続く、出て行かれることの方が大損害になるということで、まわりを黙らせた。


ついでに婚約も白紙に戻してもらえばよかったと気付いたのは、婚約式が終わった後だった。

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