異世界ローカル路線『馬車』乗り継ぎの旅100日間王国一周の賭け ~異世界でムチャな賭けに巻き込まれたおれたちは奴隷になりたくないから、ローカル路線『馬車』を乗り継いで頑張ってゴールを目指すことにした~
第43話 四日目 遂にモンスター絡みのクエスト発生か?
第43話 四日目 遂にモンスター絡みのクエスト発生か?
初めて訪れた異世界の、しかも初めて訪れた国の人里離れた街道にポツンと取り残された一行。
「完全に日が落ちたな。これで星明りがなかったら真っ暗だったぜ」
耀太はホッとした表情で満天の星空を見上げた。辺りには当然街灯の類が一切ないので、星明かりだけが頼りだった。
「ねえ、こうなったらキャンプファイヤーでもして、もっと明るくしようか? なんだったら朝までぶっ通しで一晩中キャンプファイヤーパーティを楽しむのもアリなんじゃない?」
「いや、ないです! 100パーセントないですから! ていうか、フーミンさん、ここは野外フェス会場じゃないんですからね!」
こんな状況にも関わらず楽しげな顔でキャンプファイヤーの話を持ち出すバスガイド。
「せっかく火起こし用の大型ライターと、どんな太い木でもすぐに着火できるガスバーナーも用意してあるのに!」
ガスバーナーって、なんでバスガイドさんがそんな物騒なものを持っているんですか!
気にはなったが、声に出して聞いたところで、どうせキャンプファイヤー用に準備して来たとかさらっと言われるだけなので、ここは聞き返すことはしなかった。
「キャンプファイヤーよりも、私はお腹が空いたんだけど! いくら炎を見ても、お腹はいっぱいにならないから!」
「クミッキー先生、わがままを言わないでください! ぼくらはここに取り残されたようなものなんですから!」
例によって、大人たちが勝手なことを言い出したそのとき――。
ワオーン
野性的な声が崖とは反対側に広がっている草むらの奥の方から聞こえてきた。
「おいおい、まさかこのタイミングで危険な獣が現れたわけじゃないよな?」
耀太は声の方に視線を飛ばしたが、草むらのあたりは暗くてよく見えなかった。
「ケーマ、どうしたらいいと思う?」
「ここはとりあえず馬車の中でじっと待機して、外に出ないようにするしかないだろう」
「そうだよな。それが一番の安全対策だよな」
耀太が馬車の中に戻ろうとしたとき、獣の声が再び聞こえてきた。しかも、さっきよりかなり近くで聞こえた。
「確実に近付いてきている感じだな。みんな、急いで馬車の中に入ろう!」
全員が馬車の中に駆け込んだとき、草むらの中から街道にひょっこりと飛び出してきたものがあった。星明りの下に照らし出されたのは――。
「あれって、小犬じゃないの? ちっちゃくてチョーかわいいんだけど! 写真に撮ろうっと!」
緊張感ゼロの姉が馬車の窓から身を乗り出して、その動物の方にスマホを向ける。
「たしかに小さくて可愛らしいけど、あの尻尾の形状からして、ただの犬じゃないだろう? どう見ても犬というよりはむしろ……狼といったほうが適切に思えるけど!」
耀太の目には犬にはとても思えなかった。
「そうか! こんな辺鄙なところに子供の狼が現れたということは、これは新しいクエストが発生したということなんだ!」
なぜか菜呂が馬車から意気揚々と飛び降りて、子供の狼にしか見えない獣に近寄っていく。
「おい、ナーロ、大丈夫なのか? 小さくても相手は狼なんだぞ!」
耀太は警戒の声を掛けた。
「いいかい、これはよくある『モンスターの子供を助ける』クエストなんだよ!」
「子供とはいえ、わざわざ危険な生き物を助けることがクエストになるのか?」
「なるんだよ! そのモンスターを助けることでこちらに懐いてくれたり、味方になってくれたり、あるいは主従関係が生まれて旅のお供になってくれたりするんだ!」
「つまり昔話で言うところの『鶴の恩返し』的なものと理解していいのか?」
「まあ、そんなところさ。みんなは馬車の中で見ていてくれ。ぼくがこの子供の狼を
助けるから! ついにモンスター絡みのクエストだ!」
「ヨータ、いいのか? ナーロのやつを勝手に行かせて」
「しょうがないだろう、ケーマ。こうなったらナーロは止められないからな」
ここは菜呂のことを見守ることにした。
「ほら、もう怖くないよ。ぼくがキミのことを助けてあげるからね。きっとぼくには獣を懐かせる『テイマー』か『獣使い』のスキルがあるんはずなんだ! ステータスオープン! ステータスオープン!」
長い魔法の杖を持って、しかもステータスオープンと叫びながら獣に近付いていく姿は、どう見てもホラー染みていて怖いものがある。子狼の方も警戒しているのか、低い唸り声をあげたまま身構えた姿勢を崩そうとしない。
「ほら、もう大丈夫だよ! お腹が空いているのなら、ぼくがおやつのお菓子をあげるから!」
菜呂が右手でその獣の頭を撫でようとした瞬間、小型の獣が反対に菜呂の右手に飛びつく。そして――。
ガブッ!
「なあケーマ、今ガブッっていう擬音語が聞こえたんだけど、おれの気のせいかな?」
「偶然にもオレも同じような音を聞いたぜ? それとも空耳だったかな?」
耀太と慧真がお互いにボケあう。
「ちょっと菜呂くん、大丈夫なの? ねえ今、完全に右手を噛まれたよね? 完璧にガブッといかれたよね? 完膚なきまでに右手を攻撃されているよね?」
組木がわざわざ口に出さなくてもいいことを連呼する。
「先生、大丈夫ですから! 噛まれてもこちらが痛がらずに冷静に対処すれば、相手はこちらに攻撃の意思がないと気付いて、心を許してくれるんです! これは異世界モノの作品でよくあるパターンなんです!」
右手を噛まれたままの状態でけな気に答える菜呂。
「いや、ナーロ! 遠目から見ても、見えてはいけない赤い液体が見えるぞ! それっておまえの体内を流れている大事な液体なんじゃないのか?」
馬車の中から耀太は指摘した。
「この程度のケガは想定内だから!」
「ナーロ、傍目にも顔色が青いけど、それでも平気なのか? いや、今や青を通り越して緑に見えるぞ!」
慧真も声を上げる。
「あたりが暗いから顔が青く見えるだけのことさ!」
「菜呂くん、全身震えているようにしか見えないけど、本当に無事な状態なの?」
しまいにはアリアまで心配し始める始末である。
「ははは、いやだな。これは単なる武者震いだよ! ようやくモンスターと出会えて、感動で体が打ち震えているだけのことさ! 決して痛くなんか……痛くなんか……」
そこで菜呂は言葉を切ると、次の瞬間――。
「痛ぇええええええええーーーーーーーーーーーっ! 痛えよぉっ! どんだけ深く噛んでくるんだっ! もう我慢出来ないよぉおおおおおーーーーーーーっ!」
突然菜呂は豹変したかのように持っていた魔法の杖でポカポカと子狼の頭を殴りつけ始める。
キャイン、キャイン!
小狼は菜呂の手から口を離すと、悲鳴のような鳴き声を上げながら草むらの中に走り去っていく。
「おい、ナーロ! 早く馬車の中に戻って来い!」
耀太は急いで菜呂を手招きした。
「おかしい! どう考えてもおかしい! なんでいきなり噛み付いてくるんだよっ! そこは空気を読んで、懐いてこないとダメだろうが! まったく異世界小説を読んだことがないのか!」
「ナーロ、野生の動物に向かって無理難題を言ってる場合かよ!」
「ガスバーナーが嵩張ったから、救急箱は王宮に置いていこうと思ったんだけど、運転手の角和木さんに言われて持って来ておいて良かった。ほら、菜呂くん、早く右手を見せて。一応消毒しておかないと」
そこのバスガイドさん、どう考えてもガスバーナーなんかより救急箱の方がよっぽど大事でしょうが!
耀太が心の中でツッコんでいる間に、史華とアリアが救急箱から取り出した消毒スプレーと絆創膏を使って、菜呂が噛まれた箇所を手際良く治療していく。
「はい、菜呂くん、これでOKだよ」
治療を手伝うアリアの姿は神々しいまでの白衣の天使にしか見えなかった。
いや、白衣の天使というよりは本物の天使だよな!
こんなときだというのに、アリアの姿に陶然としてしまう耀太だった。
「とにかくこのまま馬車の中で大人しく待つとしよう」
菜呂の治療も済んで、ようやくひと段落着いたと思っていたところに、しかし、またトラブルが発生した。
草むらの方からまたまた獣の声が聞こえてきたのだ。
「みんな、今、獣の声が聞こえなかったか? しかもさっきと違って今度は複数の声が聞こえたんだけど……!」
耀太の聞き間違えじゃなければ、それは明らかに動物の群れが放つ声だった。
「ここは先生の出番ね! いい、生物の教師である私が教えてあげる。イヌ科の動物は群れで生活しているんだよ! きっとさっきの子狼が群れを引き連れて戻ってきたんじゃないのかな?」
「先生は生物が担当じゃないでしょうが! いや、今はツッコんでいる場合じゃなかった! 群れで戻って来たって、どうしてなんですか?」
「ねえ、耀他くん、もしかしてさっき菜呂くんに殴られた子狼が仕返しにきたんじゃ……!」
アリアが先回りして答えてくれる。
「菜呂くん、ここはあなたの出番よ! あなたが子供の狼を殴りつけたせいで、群れが逆襲に来たに違いないんだから!」
新卒の教師がたった今治療を終えたばかりの生徒を馬車の外に無理やり押し出そうとする。
いや、クミッキー先生、さすがにそれはナーロには酷ってもんですよ!
いくら菜呂のせいとはいえ、学級委員長として傷付いた仲間を危険な目にあわせるわけにはいかない。
「おい、ケーマ! おまえもクミッキー先生の暴挙を止めるのを手伝ってくれ!」
「いや、おまえも一緒になってナーロの背中を押しているようにしか見えないけどな!」
「頭ではナーロのことを守ってやろうと思っているんだけど、つい体が勝手に動いちゃったみたいだ!」
こうして一行がドタバタコントを繰り広げているなか、狼の群れはひたひたと確実に馬車に近付きつつあった。
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