第22話 二日目 本日の異世界ランチはまさかまさかの……?

本日最初の馬車に揺れながら、次の目的地であるキサリスへと向かう耀太たち一行。


「早く魔物さん、出てこないかなあ」


魔物にわざわざ『さん』を付けてつぶやく困った少年がひとり。


「おっ、いいダジャレが思いついた! 『港』には誰と行く? もちろん、『みなと』!」


旅のことよりもダジャレを考えるのに必死な少年がひとり。


「なんで海だとやまびこが聞こえなかったんだろう? あたしの声が小さかったからかな? 今度は大声で叫んでみようっと」


誤った知識にまだしがみついているバスガイドさんがひとり。


「新婚のイチャイチャ期間なんて幻だから……。きっとすぐに仲が悪くなるに決まっているから……」


新婚夫婦のことを今だに根に持っている新卒の教師がひとり。


「今日のランチは港街ならではの新鮮な魚料理で決まりね!」


今からランチのことを考えている姉がひとり。



これじゃ、旅についての相談は誰にも出来ないよな。



耀太は結局相談相手として、最後の救世主にして最愛なる我が女神に頼ることにした。


「アリア、次の港街から先の経路について、御者さんに確認しておいた方がいいかな?」


「事前に情報を仕入れておくのは悪くないと思うよ」


二人はさっそく御者さんの近くに移動した。


「すみません。運転中に申し訳ないんですが、お尋ねしたいことがあるんですがいいですか?」


「ああ、いいよ。私で分かることならいいんだけど」


良い人そうなので、お言葉に甘えて質問する。


「ぼくたちヅーマヌを目指して旅をしているんですが、キサリスから西に向かう路線馬車はありますか?」


「ヅーヌマ? それはまたえらい遠くまで行くんだね。キサリスから西に行くとなると『ショウスサウ』までは路線馬車が通っているよ。『ショウスサウ』からはいくつか路線があるから、そこでまた詳しく聞いてみるといい」


「ちなみにショウスサウはどんな街なんですか?」


「『ショウスサウ』は海に面した一大観光地だよ」


「そうなんですね。キサリスからショウスサウまでは、どれくらいかかるか分かりますか?」


「キサリスからだと、およそ二時間といったところかな」


「分かりました。ありがとうございました」


お礼を言って、座席に戻る。


「とりあえずショウスサウというところまでは行けそうか。問題はショウスサウからさらに西に行けるかどうかだよな」


耀太の考えとしては、この先何が起こるか分からないので、出来るだけ前進しておきたかった。


「うーん、そこはキサリスとショウスサウでの聞きこみをしてから、また考えてもいいんじゃないかな?」


「アリアがそう言うのならば、そういうことにしようか」


なんだかこうしてアリアと話していると、二人だけで旅行している気分になって、胸のワクワク感をどうしても押さえきれなくなってしまう。



本当はもっと真剣に考えないといけないんだけどな。



そう思いつつも、他のメンバーの邪魔が入らない間は、少しでも長くこの甘いひと時を楽しむつもりだった。


「でも耀太くん、異世界の観光地って、どんな場所だと思う? 私たちがいた現代日本の観光地みたいに、道路にたくさんの観光客が歩いているようなイメージでいいのかな?」


「たしかに異世界の観光地って、どうにもイメージしづらいよな」


耀太も想像してみたが、いまいちそれらしい絵が頭に浮かばない。


「えっ、わたしたち観光地に向かうの? それなら今からスマホの準備をしておかないと!」


耀太たちの話声が耳に届いたのか、さっそくお邪魔虫が入ってきた。


「あのな、先に言っておくけど、観光地に向かうといっても、おれたちは観光が目的じゃなくて――」


「観光地で写真を撮らないなんて、京都に行って八つ橋を食べないのと同じだからね!」


なぜ京都で、なぜ八つ橋なのか分からないが、そもそも姉の謎理論に反論する気は1ミリもないので、勝手に言わせておくことにする。とにかく、姉上はどうしても写真撮影だけは譲れないらしい。まったく本当に困った姉である。


「さすがに観光地にはモンスターは出てこないか。ぼくは早くモンスターが出てきそうな荒野に行きたいんだけどなあ」


こちらの男子生徒は違う意味で残念がっている。


お邪魔虫の登場でアリアと二人の時間は儚くも消え去っていった。


そうこうしているうちに、馬車は無事に港街キサリスに到着した。


「さあ、美味しいランチを探さないと! これだけ大きい街ならば絶対に有名料理のひとつやふたつはあるはずだから!」


姉がいの一番に馬車から降りて、雑踏の中を走っていく。


「ほらほら、そこどいて! わたしにぶつかったら、痴漢スプレーの実験台になってもらうからね!」


物騒なことを言いながら、弾丸の如く駆けていく。 


「ランチ! ランチ! 美味しいランチ!」


耀葉に続けとばかりに、子供みたいに歌いながら組木も飛び出していく。


「新鮮な魚には絶対にお酒が合うから! 美味しい地酒があればいいなあ!」


ランチよりも飲み物が目当てらしい史華も一緒になって飛び出していく。



まあ、こうなることは予想していたけどさ。



呆れ気味に三人の背中を見つめるしかない耀太だった。


「なあ耀太、馬車でゆられている間に『港』でダジャレを考えたんだけど――」


「港には誰と行く? 皆と!」


「えー、なんで先に言うんだよ!」


親友が抗議の声を上げる。


「ケーマ、悪いけどダジャレは後回しにして、わがままな姉上たちのお守りを頼むよ。おれはアリアと一緒に馬車の案内所に行って聞き込みをしてくるからさ」


耀太は姉たちのことを慧真に頼み、アリアと路線馬車の案内所に向かうことにした。


幸い案内所はすぐに見付かった。案内所の係の話によると、次のショウスサウ行きの路線馬車は二時発ということだったので、それに乗ることに決めた。さらに聞き込みを続けて、ショウスサウについても詳しく教えてもらった。御者さんから聞いた通り、ショウスサウはきれいな海岸線に面した一大観光地で宿もたくさんあるとのことだった。もちろん夏季限定ではなく、一年中営業しているとのことだ。


「ショウスサウまでの乗車時間が二時間だから、ショウスサウに着くのは四時頃か。それから宿を探す時間を考えると、やっぱり今日はショウスサウ止まりが無難かな」


「そうだね。無理に先に進んで、昨日みたいに宿探しに困るよりはいいかもしれないね」


耀太とアリアの考えが一致した。


「じゃあ、この先の予定が決まったことだし、おれたちもランチを楽しむとしようか」


「うん、そうしよう。きっと耀葉ちゃんがステキなお店を探し当てているんじゃないかな」


そこにタイミング良く、慧真が二人を呼びにやって来た。


「おーい、ヨータ! お昼を食べる店が見付かったから行こうぜ! なかなか面白い店だから、アリアもきっと喜ぶと思うぜ!」


「えっ、期待しちゃっていいの慧真くん?」


「ああ、二人ともびっくりすること間違いなしだから! チョー人気店らしくて、店の前に行列が出来ているんだぜ!」


耀太とアリアは慧真に案内されてキサリスでも一番活気がある食事処が並ぶ一角に向かった。天気が良いせいか屋台がたくさん並んでおり、美味しそうなニオイがそこかしこから漂ってくる。


慧真が言っていた大行列が見えた。


「ケーマ、本当にすごい行列じゃん! 百人近くは並んでいるんじゃないのか?」


「ほら、こっちこっち! アリア、早く一緒に並んで!」


先に行列に並んでいた耀葉が手招きをする。


「よし、おれたちも一緒に並ぶとするか」


耀太たちも行列に加わった。


「なんでこのお店だけ、こんなに行列が並んでいるんだろうね? 何か特別な料理でもあるのかな?」


アリアが興味深そうに行列に並ぶ人々の顔を見つめる。


「行列の秘密は店内に入れば一発で分かるよ。わたしも早く写真に撮りたくてうずうずしているんだから!」


耀葉はすでにスマホを手にとって、いつでも写真が撮れる準備をしている。 



耀葉とケーマがそこまで興奮して言うくらいなんだから、本当にびっくりするようなお店なんだろうな。



そんな風に期待で胸を膨らませたまま行列で並ぶこと30分――。


「次はトーキョー七番高校のみなさん! お席が空きましたから店内へどうぞ!」


お店の店員さんに呼ばれて一行は店内に入る。


「はあ? なんなんだよ、この店は! どうしてこんな店が異世界にあるんだ?」


店内に一歩入るなり、耀太は大きな声を上げてしまった。姉と親友の言葉に確かにウソはなかった。この店内の様子を見て、驚かない方がおかしいだろう。


なぜならば店内には――。

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