異世界ローカル路線『馬車』乗り継ぎの旅100日間王国一周の賭け ~異世界でムチャな賭けに巻き込まれたおれたちは奴隷になりたくないから、ローカル路線『馬車』を乗り継いで頑張ってゴールを目指すことにした~
第8話 一息つく生徒たちと無理難題を頼む大人たち
第8話 一息つく生徒たちと無理難題を頼む大人たち
国王との話があるというアヴァンベルトはそのまま残り、ゼノン国王との謁見を終えた耀太たち一行はアヴァンベルトの部下に案内され王宮を移動した。
廊下を歩いていると、頭を黒いベールですっぽり覆った人物が一抱えもありそうな柱の影から耀太たち一行の方に顔を向けてきた。その特異な雰囲気の人物を目ざとく見つけた菜呂がさっそく騒ぎだす。
「あれは絶対に王宮に仕える魔術師だ! そうか、あの人がぼくの『スキル』を発現してくれるに違いない!」
「はいはい、そういうことにしておこうか」
「プリーズ、マイステータスオープン! プリーズ!」
なぜか英語で叫びながらその魔術師風の人物に駆け寄ろうとする菜呂のことを、耀太は慧真と二人で押さえ込んだ。これ以上のトラブルは御免だったのだ。
一行はそのまま大広間に連れて行かれた。中には明らかに高価そうと分かるテーブルセットが置かれている。
一行がイスに座って良いのか迷っていると、使用人と思われる若い女性給仕がせっせと飲み物をテーブルに運んでくる。
「まだ旅の疲れもあるだろうから、どうぞゆっくりしてください」
アヴァンベルトの部下にそう言われて、ようやく一行は各々イスに座った。
「ここで飲み物でも飲んで、しばらくお待ちください。ゼノン陛下との話を終えたら、アヴァンベルト団長がすぐにいらっしゃると思うので」
部下がそう言う。
「ねえねえ、ワインもらえる? 国王が隠している高級ワインとか、王宮なら絶対にあるでしょ?」
さっそく難題を女性給仕にしているバスガイドがいる。
「ふー、これで一段落ついたみたいだな」
重い体をイスにあずけて、耀太もようやく落ちついた気分になった。
「まあ、国王との謁見という最初の関門は突破したけど、なんだか上手い具合にあの国王の話に乗せられた感じがしないでもないよな」
慧真がイスに座って出された甘い果実ジュースと思われる飲み物を一口ゴクリと飲むと、おもむろに口を開いた。
「あっ、慧真くんもそう思った?」
意外にも慧真の話に食いついてきたのはアリアだぅた。
「オレもアリアたちの後方から話し合いの様子を見てたけどさ、あの国王、なんか面白がっているように見えたからな」
「うん、わたしもそれは感じた。でも、それって少しおかしいよね? だって異国の人間がいきなり王国に現れたのに驚いた様子がなかったし、それどころかいきなり賭けじみた話を始めるなんて……」
「たしかにちょっと変な感じはするよな」
「観光バスの車内であの団長さんと話したときにも同じような感じがしたけど……。なんだか私たちのことをあらかじめ知っていたような……」
アリアは自信がないのか語尾を濁した。
「えっ? 知ってた? アリア、それってどういう意味だよ?」
アリアの言葉に驚きを隠せない耀太だった。
「ううん、私が勝手にそう感じただけだから、耀太くんもそんなに深い意味でとらないで」
アリアは口ではそういいながらも力なく首を振る。
「なるほどね。謎は解けたぞ! ぼくらをこの世界に呼び寄せたのはゼノン国王だったんだ! そしてぼくが『スキル』を使って、魔王に蹂躙されているこの国を救うことになるんだ! そうと分かったら、ステータスオープン! ステータスオープン!」
なぜそういう結論に至ったのか知らないが、菜呂は我が意を得たりという風に大きく何度もうなずいている。
いや、そもそも魔王なんていないだろうが!
何もない空間に向かって何度も『ステータスオープン』とつぶやいている菜呂の様子が余りにも哀れなので、一応、心の中で優しくツッコミを入れてあげることにした。
「とにかくおれたちが自由の身になるためには、100日間で王国を一周しないといけないっていうことだろう? でも、見ず知らずの地で100日間で一周なんて出来るのかな……?」
耀太としてはそこが一番の心配事項だった。
「かといって、異世界の地で一生奴隷になるのも勘弁したいよな」
楽観的で常に前向きな慧真も珍しく思い悩んでいる顔をしている。
耀太たち三人がイスを寄せ合ってこれからのことについていろいろ考え込んでいる最中にも、周囲からは雑音が届く。
「えっ、高級ワインは国王の物だから客には出せない? 大丈夫、大丈夫! 黙っていればいいんだから! ねっ、ワイン、一杯だけでいいから? ねっ、頂戴! お願いだから!」
「あの……パンケーキとかありませんか? オジサンと難しい話し合いをしたら、なんだか頭が疲れちゃって……。甘い物でも食べて糖分を補給しないと!」
「そこの二人! いい加減にしてください! 大人が率先して現状を楽しんでどうするんですか!」
さすがにツッコまざる得ないと思い、組木と史華に大きな声で注意した。
「ていうか、国王のことをオジサンとか呼ばないでください! それから、わたしたちのことをエロい目で凝視していたとか、体のラインに沿って視線を動かしていてチョーキモイとか。いくらエロオヤジに見えても、あの人が一応、一国を統べる国王なんですからね!」
「ヨータ、言いすぎだうろうが! 女性給仕さんがみんな、怖がって引いてるぞ!」
「あ、うん、ごほん……」
アリアを后にすると言った暴言を思い出してしまい、思わず本音がダダ漏れしてしまった。一度わざとらしく咳払いをして、場の雰囲気を紛らわす。
「とにかく二人ともおれたちと一緒に旅のことを考えてください!」
「そこの男子生徒くん、旅なんて大丈夫だから! 出たとこ勝負でなんとかなるもんなのよ!」
「現役のバスガイドさんがそんなこと言っちゃダメでしょうが!」
「でもヨータ、フーミンさんは頼りになるぞ。バスの中でも、さっきの国王との謁見でも、しっかり会話で渡り合っていたし」
慧真の言葉を聞いて、たしかに慧真の言うことも一理あるなと耀太は思った。
「そういえばフーミンさんはいろいろと詳しいですよね? バスの中でも『蒸気機関』の話をいきなりしたし、国王との話の中でも日本について適格に説明していたし」
「ああ、そのこと。あたし、バスガイドになってから観光案内に役立ちそうな検定をいろいろ受けたから。えーと『世界遺産検定』も『1級』を持っているし、他にも『旅行地理検定』、『鉄道旅行検定試験』、『温泉検定』、あと地方ごとの『ご当地検定』とか」
「フーミンさん、スゴイじゃないですか! ギャルサー出身の愉快なバスガイドだとばかり思っていたけど、本当にただのバスガイドじゃなかったんですね!」
「今は『ご当地酒ソムリエ検定』と『地酒利き酒検定』と『地ビール飲み比べ検定』の勉強をしているんだよ!」
全部アルコール! 全部酒絡みの検定! いや、なんとなくお酒が好きなんだろうなあとは思っていたけど!
心の中でのツッコミが止まらない耀太だった。
「まあまあ耀太くん、ここは修学旅行があと100日間長くなったと思えば、そう焦ることはないんじゃないの?」
「クミッキー先生、修学旅行が100日間って長すぎです! 一年の約三分の一弱ですからね! これで焦らないほうがおかしいですよ!」
なんだか異世界に来てから、変に『ツッコミ体質』になっちゃったような気がするんだけど、おれの思い違いだろうか?
妙なところで責任感があるせいか、つい周囲の変な言動が気になってしまうのだ。
「でも、新卒のわたしにそう言われても……」
「だから、新卒とか一切関係ないから!」
とうとう教師に対してタメ語でツッコんでしまう耀太だった。
非生産的な会話が永遠に続くかと思われたが、大広間の大きな両扉が開いてアヴァンベルトが入ってきたことで話は一旦中断した。
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