第9話 ローカル路線馬車乗り継ぎの旅、選抜メンバー決定!


「陛下と旅のことについて細部を詰めていたら遅くなってしまった」


アヴァンベルトは部下に短く説明すると、そのまま真っ直ぐ組木、史華、アリアの元に歩いてきて、そこでいきなり頭を下げた。


「先ほどのゼノン国王のご無礼をお許しください」


組木と史華ははてな顔だったが、アリアはニコッと微笑んでアヴァンベルトの謝罪を受け入れた。


「私はそもそも本気に思っていませんから大丈夫ですよ」


「いや、しかし陛下はあなた方を后にと――」


そこまで聞いて耀太もやっと話に追いついた。もしかしたらこの国では国王の一夫多妻制が認められているのかもしれないが、この旅の最中にアリアに告白すると決めている耀太にしたら、ゼノン国王の言葉は絶対に許せなかった。


「それよりもあなたと国王とは同じお名前ですが、何かご関係でもおありなんですか?」


アリアが逆にアヴァンベルトに尋ねる。


「今の王妃はわたしの母なんだ。といっても母は陛下にとって三番目の后になるが」


さらっと重大なことを話すアヴァンベルトだった。


「それじゃ……先の后様というのは……?」


「ああ、既に亡くなっている。ただ、ご子息たちはご存命である。それで私が下手に表立って仕事をするといろいろと諍いが起きそうな予感がしたんで、私は王位継承権を放棄して、王国を支えるいち騎士団として生きる道を選んだ」



王位継承なんて良く分からないけど、この人もこう見えて、いろいろ背負っているんだな。



耀太はそんなことをふと思った。


「あの、ここに来るまでの間にフードを被った人を見かけたんですが……」


菜呂がいきなり会話に入ってくる。あの奇妙な人物についてそうとう気にかけているらしい。


「その人物はおそらくカンテーイ師だろう。本人は占い師を名乗っているが、一年前にこの国にひょっこりやってきて以来、陛下の心をがっちり掴んでしまって……。陛下も以前は我々の話に耳を傾けてくれたんだが、ここ最近はカンテーイ師の話ばかり聞き入れて……」


アヴァンベルトが口ごもった。どうやら王位継承権以外にも悩み事があったらしい。


「占い師にハマる権力者ってアメリカの大統領だけだと思ったけど、どこの世界にもいるんだな」


慧真が耀太の耳に口を寄せてつぶやいてきた。


「私の話はこれくらいにして、今から旅についての詳細を伝えることにしよう。旅のルールはローカル路線馬車のみを使って、100日間で王国を一周すること。ゴールへの到着が100日後の日没を過ぎた場合は失敗とする。移動についてはローカル路線馬車の使用のみ許され、船やその他の乗り物、またローカル路線馬車以外の馬車への乗車は禁止とする。ただし、ローカル路線馬車が通っていない区間での徒歩の移動は許可する。費用については100日間の旅に掛かる旅費は全額、王国が支払うので心配はいらない」


そこで言葉を区切って、アリアの方に目を向けた。どうやらアヴァンベルトはアリアをこちらのグループの代表者と見ているようだ。



まあ、それも当然だよな。担任があれだもん。



耀太の視界の先では、アヴァンベルトの一挙手一投足を組木が恋する乙女の目で見つめている。


「そういえば旅には全員で出るつもりなのか?」


「えっ、全員じゃなくていいんですか?」


アリアにとっても意外だったらしく逆に訊き返す。


「我が王国を走っているローカル路線馬車は乗車定員が10~20名のものが大半で、諸君らが全員乗れる馬車はないんだ。出来れば選抜した者のみが旅に出るという形にしてもらうと助かるんだが。その場合、王宮での待機組については、旅が終わるまでの100日間は客人待遇として丁寧に扱うと約束しよう」


「そういうことならば、クミッキー先生、フーミンさん、運転手さん、それとオマケで学級委員長の四人でよくない?」


「わたしもそれでいいと思う!」


「おれも委員長推しで!」


アヴァンベルトの話を聞いていた生徒の中から勝手な意見が飛び出してくる。


「誰がオマケだ! ていうか、こういうときだけ学級委員長を推すな!」


「でも33人で一度に乗れる馬車はないっていうんだから、ここはやっぱり旅の選抜メンバーを選ばないとならないよな?」


また生徒の中から声があがる。


「悪いがわたしはこの中では最年長だし、馬車の旅は体に堪えて無理そうなので、降ろさせてもらえないかな?」


角和木の意見に反対するものはいなかった。


「角和木さんの分はあたしが活躍するから大丈夫! 任せておいて! それに異世界でいろんなお酒が飲みたいし!」


不純な動機で最初のひとりが早々に決まった。


「クミッキー先生は担任だから、当然、選抜メンバーは決定だよね!」


女子生徒のひとりが言う。


「えっ、だってあたし、新――」


新卒なのに、と言わせることなく、組木のメンバー入りが強引に決まった。


「大人二人に任せたいところだけど、ちょっと心配だから私も付いて行くことにする」


「アリアが行くなら、おれも行くよ!」


当然の流れとして、そう言わざるを得なかった。


「こんな面白い状況を逃すわけには――いや、親友を助けるためにも、オレも旅のメンバーに立候補する!」


これで五人が決まった。


「はいはい、ぼくも行きます! ぼくも旅に出ます! 異世界を肌で感じるには旅に出ないと!」


生徒の集団の中から菜呂が飛び出してくる。


「ふっふっふっ。きっとぼくらは道中で危機に遭遇して、でもそこで女神様に会って、いよいよぼくの隠された大いなる『スキル』が開放されて――」


なんだか嫌な予感しかしないが、この状況では来る者を断るわけにはいかないので、菜呂も旅の選抜メンバー入りが決まった。


「わたしも旅の途中で写真を撮りたいからメンバーに入りたいかも!」


ひと際明るい女子生徒の声が上がる。バスの車内にいたときからスマホで異世界の風景を撮りまくっていた女子生徒である。


「いや、待った! 7人目を選ぶのならば副委員長の美藤香津音びとうかづねしかいないだろう!」


耀太は慌てて口を挟んだ。そうせざるをえない理由があった。


「美藤には副委員長として王宮での待機組の代表として、ここに残ってもらわないといけないだろ?」


慧真が的確な指摘をしてくるが、どう考えても耀太の焦る心中を知っていて言っているようにしか思えなかった。


「委員長、ごめんね。私、体力がないから長旅は無理だと思うし……。その代わり、待機組をひとつにちゃんとまとめておくから……」


女性からそんなことを言われたら、なおのこと強制は出来ない。


「それじゃ、やっぱわたしが入るしかないみたいね」


先ほどの女子生徒が再度名乗りを上げる。


「これでちょうど7人が決まって、ラッキーセブンで縁起が良いじゃん!」 


「東京七番高校三年7組の神セブン決定だな!」


「東京七番高校の美女4人と一緒に旅が出来るなんて羨ましいぞ!」


生徒たちの間から歓声が上がる。自分たちは旅に出なくて済むので、心底ほっとしたという表情をしてる。


「旅に出るメンバーは決まったみたいだな。そうそう、ひとつ大事なことを言い忘れていた。もしも7人が旅の途中で陛下との約束を放棄して、お金を持って逃げ出した場合、あるいは旅の途中でズルが発覚した場合には、待機組は全員処刑すると陛下が仰っている」


アヴァンベルトが放った言葉により、大広間の空気が一変した。


「あれ、何だろう。おれ、急に旅に出たい気持ちが生まれてきたんだけど!」


「奇遇だな。おれも急に旅モードに入ったぜ! 旅に出なければいけないという使命感が生まれたみたいだ!」


「昔から旅は道連れっていうんもんな! クラスみんなで行かないと!」



さっきまで断固拒否っていたのはどこのどいつだよ!



心の中でクラスメイトへ全力でツッコミを入れる。


「みんなで異世界旅行と楽しもうぜ!」


「そうだ、異国へ行こう!」


「JR東〇のCMかよ!」


などと突然心変わりした生徒たちの声が次から次にあがる。


結局、その後、生徒たちに組木と史華を加えた32名が参加して、話し合いという名のジャンケン大会で旅の選抜メンバーを決めることになったのだが、奇跡的にも、先ほどの7人がジャンケンに勝って選抜メンバーに決まった。



いや、もしかしたらこうなるんじゃないかという予想はしていたけどさ。でも、まさか一緒に行動することになるなんて……。



耀太はスマホで大広間の写真をパシャパシャ撮っている女子生徒に目を向けた。するとまるで以心伝心したのか、その女子生徒も耀太の方に顔を振り向けてきた。耀太がドキッとすると、それを察したかのように微笑みを返してくる。


耀太と目鼻立ちが驚くほどそっくりで、しかし耀太よりも何倍も整った美麗な顔に、今は蠱惑的な笑みが浮いている。


学校内で『彼女にしたいけど絶対に手に余る小悪魔的美少女』ランキングで不動のナンバー1を維持している、細山耀葉ようはである。


双子の弟である耀太でさえ手に余る姉なので、旅の最中もあえてあまり触れないように振る舞ってきたのだが、まさかこういう事態になろうとは想像だにしなかった。



ヨーハとはしばらくの間、離れられると思って、おれもホッとしていたんだけど……。



ため息とボヤキを同時につく。



兎にも角にも、こうして耀太は童顔美女の組木、ギャル気質の史華、正統派美少女のアリア、そして小悪魔的美少女のヨーハという、それぞれタイプが違う美女4人とともに異世界を旅することになったのだった――。

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