異世界ローカル路線『馬車』乗り継ぎの旅100日間王国一周の賭け ~異世界でムチャな賭けに巻き込まれたおれたちは奴隷になりたくないから、ローカル路線『馬車』を乗り継いで頑張ってゴールを目指すことにした~
第5話 次はイーストレーテ王宮です。お降りの際は降車ボタンを押して下さい
第5話 次はイーストレーテ王宮です。お降りの際は降車ボタンを押して下さい
真神騎士団によるエスコート付きの観光バスは、異世界の道を騎士が乗る馬のスピードに合わせてイーストレーテ王宮まで問題なく走破した。
最初のうちは窓の外に見える風景は田舎の山里ばかりで、道路も当然舗装されておらず土をただ踏み固めたものだったため、観光バスは道のデコボコを乗り越えるたびに上下に大きく揺れた。
それがじょじょに中世ヨーロッパ風の建物が見え始めた頃には石畳の道に変わり、バスもスムーズに走行出来るようになった。
さらに歴史の教科書でしか見たことのないような大きな石造りの建造物や、空高く伸びる尖塔、それに宗教的な様相の建築物が見え始めると、通りは馬車が二台すれ違えるほどの広い立派なものになった。
ここまでの道のりは三時間近く掛かったが、生徒たちは騎士団に連行されているのも忘れて、初めて見る景色に気持ちが舞い上がり、だれひとりとして眠りに落ちることがなかった。
中には観光バスの窓から珍しい建造物が見えるたびに大きな声を上げる女子生徒もいた。
「ヤバイッ! どこもかしこも映えスポットばかりじゃん! 完全に神ってる風景でしょ! あーバスから降りて、近くで写真撮りたい! あの、騎士さーん、映えスポットで少しだけバスを止めてもらえませんか?」
「バ、バエ……? それはハエのことですか? ハエなんて取っても食べられはしないけど……。それともあなたがたの国ではハエを食べる習慣があるのですか?」
女子生徒と騎士の間でちんぷんかんぷんの会話があったりしたが、耀太は聞かない振りをし続けた。異世界に来てまでSNSのことで頭を悩めたくはない。
王宮までの道中では他にも耀太が思わず頭を抱えたくなる事態がいくつか起きた。
勝手に『青春時代ベストソング歌謡ショー』を始めた史華は案の定と言うべきか、途中から暴走し出して、観光バスに乗り込んでいた騎士を巻き込んで無理やりカラオケをデュエットさせようとして、騎士が「我々の職務はあなたがたを無事に王宮までお連れすることなので」と丁重に断ると、「あたしのマイクを受け取らないなんて、あんた、良い度胸してるわね!」と悪絡みし、慌てて耀太と慧真が止めに入る一幕があった。
史華とは同窓生である組木も王宮までの道中で腹を決めたのか、はたまた、もうどうにでもなれと気持ちが吹っ切れてしまったのか、史華からマイクをバトンタッチされるとなぜかアイドルソングを熱唱し始めた。
その幼い容姿と相まって、あまりにも違和感なくアイドルソングを歌いこなす姿を見たクラスのアイドルオタクたちが大盛り上がりし始めて、遂にはバス内に響き渡るぐらいの大声でコールを入れ始めた。
「超絶カワイイ、クミッキー! 超絶ラブリー、クミッキー!」
そのコールに乗せられた組木が「みんな、異世界でも盛り上がっていくからね! あれ? 声が小さい! いい、わたしたち東京七番高校三年7組は、異世界でも盛り上がっていくからね!」と絶叫すると、耀太だけじゃなく、アリアまでも完全に他人の振りをし始めた。
クミッキー先生、言うのは簡単だけど、異世界でどう盛り上がれっていうのさ?
せっかくクラスの男子がひとつにまとまっているので、口に出して言うような野暮なことはしたくなかったので、心の中でツッコミを入れることにした。正直、耀太としてもここまできたらもう破れかぶれの気分である。
そんな風に学級委員長が低スペックの頭でうんうんと悩んでいると、隣に座る親友がさらに追い討ちをかけてきた。
「なあヨータ、
親友までもがそんなふざけたことを言い出す始末だった。
本当にもう勘弁してくれよ……。みんな、少しはしゃぎすぎだろう? おれたちはどう考えても、連行されている身なんだぜ? ていうか、なんで異世界に来てまで、こんなクラスの学級委員長を務めなければいけないんだよ……。おれ、もしかして前世でなにか悪いことでもしたのかな……?
そう思いたくもなる心境だった。
戸惑っている二人の騎士と完全に楽しい修学旅行モードに戻ってしまった生徒たちを乗せた観光バスは、イーストレーテ王宮に通じる門の前で停車した。
観光バスを待ちわびていたのか、通りのあちらこちらにたくさんの人垣が出来ている。その場で背伸びをして、物珍しげに観光バスを眺めている住人もいる。窓から顔を出して手を振る生徒たちの姿を見て、手を振り返してくる住人もいた。
まあ、この国の住人からはおおむね歓迎されているみたいだから、その点だけは安心出来るけど、国王からはどうだろう?
耀太としてはそこが一番の心配事だった。しかし、そんな心配をしていたのは耀太だけだったらしい。
「ヤバッ……。振りまで付けて全力で歌ったせいか……バ、バ、バスに酔ったかも……ごぼっ、うげっ……」
今にも口から何か良くないモノを吐き出しそうな顔をした史華がよろよろと観光バスから降りる。
バスガイドがバス酔いしたら、バスガイド失格でしょうが!
あまりにも馬鹿げている状況なのでツッコミたくはなかったが、どう考えてもツッコまざるをえない状況なので、心の中で声を大にしてツッコム耀太だった。
史華の次に観光バスから降りたのは、アイドルソングを歌いすぎて完全に声がガラガラになった組木である。
「びぃんな……バズがら……降りでぇ……」
「先生までそんな風で、どうすんですか! これから国王と謁見するのに、その声じゃ、相手に失礼にあたりますよ!」
「がって……みんなが、のぜるがら……ついばりぎっちゃっで……」
ホラー映画に出てくる悪霊と同じような声である。どうかこの国の人たちがクミッキー先生のことを妖怪と間違わないように、と祈らずにはいられない。
「いや、教師として張り切るところを間違えているでしょうが!」
「だっで……わたじ……新卒だがら……」
「いやいや、新卒かどうかはこの際関係ないですから!」
まったく生徒よりも先に問題を起こしちゃう大人って、いったいどうなんだか……。
頭を大げさに振りながら耀太も観光バスから降りる。
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