17.Pieris japonica

ヴィーナスが、私の手元をじっと見ている。

どっしりとカウンターに寝そべりながら。

「ナァン」

ふと、その声に気をとられてヴィーナスの方を見る。後ろ足でかりかりと首輪のあたりをかいていた。ふわり、と和紙が落ちてくる。

いつも通り、首輪につけられた手紙が落ちてきて、私の手元で開いた。

「……さくら」

と、書いてあった。それだけだ。

「あ、さくらかぁ…」

不意に頭上から声がしてびっくりした。

見れば、柚木が覗き込んでいる。

「おい、ヴィーナス。ゴミついてるぞ」

確かに、ヴィーナスの毛に幾つか白いものが着いている。よく見れば、花だった。小さな花。丸くて可愛らしい形をしている。

「お、アセビ」

柚木は言った。

「お前、また公園で遊んだのかよ」

肩をすくめながら、柚木は笑った。お前、上がりでいいぞ。そう言いながら、私の肩を叩く。そして、電話をかけ始めた。

「アァ、伊崎ィ?あのさァ…」

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