作品1-9
「見たからね。 」
果たして聞いた母の一声に、私は却って身動きを取ることができなかった。
母の声は予想に反して、それはまるで話ができるならちんまりとして可愛いお雛様が出すと思えるような、柔らかくそして優しい声だったからである。
私は何も言わずに暗闇の廊下を歩いた。階段も暗かった。自室に入っても電気を点けず、そのまま蒲団に潜って毛布を引き千切らんばかりにつかんで身を縮めた。どうせなら叩かれた方がましだった。私は両手の指で自分の左頬を強くつねった。
薄明りの中あちらこちらにはっきりとした光が見えて、朝が来たことがわかった。ずっと布団の中で眠ってしまっていらしい。その日も学校があり、昨日のきょうで気まずいが、どうしても起きなければならない。明るい部屋、明るい階段、明るい廊下を通り、私は居間に向かった。
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