作品1-8

「ねぇ。」


 私は母の声が聞こえた途端、両脇が締まるように身が強張るのを感じ、台所と廊下のつなぎ目にまたがったまま動けなくなってしまった。


 怒られるのかな、いつものように叩かれるのかな、などと考えながら、私は暗い廊下を眺めてその中に母の姿を想像していた。


「この写真に、 ばつ つけたでしょ。」


 母の言葉を合図とするようにして私の左足が勝手に一歩進んだ。より暗闇に包まれた。たとえ母がこちらを見たとしても、もう私の姿は見えないだろうと思う。


 私がまだそこにいるのか、それともいないのかもわからないだろうと思う。動けばいるとわかるだろう。動かなければいないようにもなるが、もし母が近寄って来たらまだそこにいるとわかるだろう。どうすればいいかわからないまま私は結局その場で動けなくなってしまった。どうせなら先ほどのような一声があればいいのにと思っていた。

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